ユーリ・グレース・ノルディアの華麗なる推理[11]

「ケイマンは赤獅子隊の古株で、俺が入隊したばかりの頃には色々世話になった男でね」

「そうなのですね」

 ユーリが教わったところによると、金獅子は城の奥所や貴人の護り、赤獅子は城や都全体を警護している部隊だったはずだ。

 ヨアンが首を傾げた。

「あっちじゃなくて、うちに相談ですか?」

「あいつのところの次男坊が警邏隊の方に入隊してな。なんでも、初っ端に事件に出くわしたせいで、あまり良くない噂が立ってるようだ」

「それで外部のアレク様のところに相談がきたのね」

 アレクセイは口を挟んできた幼い子供をきょとんと見下ろした。

「まあ、そういうことだな……」

 大きく溜め息を吐き出して、アレクセイはユーリの隣に腰を降ろした。

 代わりに、ヨアンが半歩後ろに控える。

 休憩に入ったのか、洗濯場からは騒めきが徐々に退いていっている。

 人の声が途絶えれば、そこには長閑な陽だまりのみが芝に落ちるのみ。

「隊長、マントを汚すとまた副隊長に怒られますよ」

「気にするな。隊服なんぞ、本来ならば戦場で汚れるものだろ」

 そう言う、アレクセイ・ノヴィリス――真白い騎士服を着こなし腰に剣を佩いた彼は、なんでも先の大戦では異母弟である皇帝の隣に並び立ち、彼を護りながら獅子奮迅の戦いぶりだったとか。

 ずいぶん砕けた言動だが、ユーリの見たところ、わざとそう振舞っているようだ。

 気さくで、なぜかユーリの事をとても気遣ってくれている。

 おそらくユーリに、ヨアンとゼン、エレナを付けてくれたのは彼の人選だろう。

 母国に比べ、ノヴィリス帝国のあまりにも強い威厳と格式高さ、迫力に、アレクセイが『眠れてるか?』と腰を折って顔を覗き込んでくれるまで、ユーリは息をするのもやっとの有様だった。

 有り余る時間に任せて城内を出歩くようになったユーリの変化を好ましく思っているらしく、暇を見つけては話し相手になってくれている。

(とってもありがたいのだけど)

 正直、夫であるはずの皇帝陛下よりも顔を合わせる回数は圧倒的に多い。

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