ユーリ・グレース・ノルディアの華麗なる推理[9]

「ていうか、先輩、なんで妃殿下達に陛下のお渡りがないって分かるんですか?」

 どっと窓の内側で笑い声が弾けた。

「アンタ、そんなの!」

「そうそう、シーツ洗ってりゃ分かるでしょ!」

「あらまあ」

「顔真っ赤にして!」

「初心だねぇ!」

 どうやら既婚の先輩諸氏に新人がからかわれているらしい。

 ユーリの耳を塞ごうか迷っているらしいヨアンに、何の話をしているのかよく分かっていませんよ、といった顔を作って笑ってみせる。

「妃殿下……エリュシナ様もジュリア様も、どちらもお綺麗なのに。陛下は何が気に入らないのかね」

「エリュシナ様なんてお小さい頃から美貌が評判で。今なんて、まだお若いのに女神様みたいじゃないの」

 うんうん、とユーリは頷いた。

 第二側妃のエリュシナは凄まじく整った人形のような顔をしているうえ、長い真っ直ぐな白銀の髪が華奢な肩を流れ落ちるところなんか、美しすぎて、初見のユーリは馬鹿みたいにぽかんと見惚れたものだった。

「ジュリア様だって、派手な方じゃあないけど、アタシらなんか下々にもお優しくて」

「慈善事業も活発になさっていて、ご立派な方だよ、本当に」

「あんなことがあったのにねえ……」

 ふと漂った沈鬱な空気に、ユーリは耳を澄ませた。

(お?)

 なんだなんだ?

「殿下、ここからは……」

 耳を塞ごうと伸びてくるヨアンの手を、ユーリは身を捩って避ける。

「やっぱり陛下も、亡くなったエミリア殿下に気が引けてるんじゃないのかい」

「普通に気まずいですよね。亡くなった奥さんのお姉さんが後妻って」

 それは確かに。

(なるほど、この話か)

 第一側妃のジュリア・バラントは、一年ほど前に儚くなった元第一側妃エミリア・バラントの実の姉なのだ。

 なんでも、一緒に輿入れしたわけではなく、妹のエミリアが亡くなった後に姉のジュリアが召し上げられたとのこと。

 詳細は大人達が語りたがらないので不明だが、妃として最低限の情報としてユーリにもその辺りの事情は教えられていた。

「エミリア様はお小さい頃からお妃様候補だったって聞きましたけど」

「まぁね。城によく遊びに来てたよ」

「陛下も、エミリア様もジュリア様も、ある意味幼馴染みたいなものじゃないかい」

「エミリア様の件をお慰めするためにジュリア様が召し上げられた……とか?」

「貴いお方の間じゃ、姉妹で同じ人に嫁ぐとか兄弟で娶るとか、たまに聞くけど」

「陛下もジュリア様も、お二人ともお辛いでしょうね……」

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