ユーリ・グレース・ノルディアの華麗なる推理[5]

「なかよしだったのね」

「そうですね。……それこそ分別のつかない時分は、兄さまのお嫁さんになるのと言ってもらったりしたものですが」

 ユーリは目を輝かせた。

「へえ! その子、いまはどうしてるの?」

「今は……」

 ヨアンの眉尻がゆっくりと下がった。

「お嫁に行ってしまいましたよ」

 おや、とユーリはヨアンの顔を仰ぎ見た。

 ヨアンより年少で、なおかつ子供の頃に抱っこできたということは三つは年下のはずなので、十代後半だろうか。

 やはり帝国の貴族女性なので、結婚適齢期ではある。

「じゃあ、おねえさまの方は?」

「そちらも、少し前にご結婚されました」

「そうなの……」

 ユーリはなんとなくしょんぼりしてしまう。

 まあ、男女の幼馴染なんてそんなものだろうけども。

 貴族ならなおさら、お家事情もあっていつまでも一緒というわけにはいかないか。

 そっと、気遣うようにヨアンも腰を降ろした。

 これは珍しい事だ。

 いつもならとっさの時に動けないからと立ったままなのに。

「事情があってあまり盛大なお披露目はされませんでしたが、素晴らしい式で、とてもお綺麗でしたよ」

 帝国の結婚式とはどんなものだろう。

 ユーリは皇帝の第三側妃だが、年齢と嫁いできた経緯にいわくがあるためにこれと言った式や催しは挙げていない。

 帝国法では、一応神の御前で夫婦の契りを言葉と書面にて誓約する必要があるので、言ってしまえば正式に妻になったわけではないのだが、そこら辺はやはり皇帝の妃ともなれば様々な事情があるだろうしと、あまり深く追及はしていないユーリだった。

(いまさら故郷につっ返されても困っちゃうし)

 とはいえ、初日に皇帝・家臣・侍女の大勢に囲まれた緊張感と疲弊を思うと、積極的に式を挙げたいとは思えない。

 察しているのか、ヨアンは風で跳ねたユーリの前髪を丁寧な手つきで直してくれた。

「ユーリ殿下も私の幼馴染のように、大きくおなりになったら陛下と御式を挙げられるかもしれませんね」

「うーん、どうだろう」

 今のところは想像も出来ない。

 そもそも前の人生でも結婚なんてしなかったし。

(……というか、多分、しなかった気がする)

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