ユーリ・グレース・ノルディアの華麗なる推理[4]
「どうぞ、殿下」
「ありがとう」
ユーリを丁重に下に降ろしたヨアンが、流れるようにマントを外して地面に敷いた。
流石である。
感心している間に、ユーリは再び抱き上げられて、マントの上に座らせてもらっていた。
まるで生まれたての小鳥に接するかの如き慎重さだ。
「ねえヨアン、そんなにわたしを子供あつかいしなくてもだいじょうぶよ?」
ヨアンはきょとんと目を瞬いた後、小さく吹き出した。
「ああ、申し訳ございません。つい癖で」
「くせ」
「ええ、私には女性の幼馴染がいるのですが」
初耳だ。
ユーリは目を輝かせた。
名門貴族出身の、二十三の若輩でありながら近衛騎士を拝命するような男がモテないはずがない。
しかも、ヨアンはずば抜けた美形というわけではないが、微笑んだ表情が優し気に整っており、いかにも包容力を感じさせるタイプの青年だった。
その辺りを買われて、幼いユーリの護衛に配属されたのだろう。
(体はがっつり筋肉ついてるのに、雰囲気は柔和なギャップ!)
なぜユーリが彼の体つきを知っているのかというと、普段から抱っこされて密着しているからである。
これで女性から人気がない方が嘘だ。
当人は至って穏やかで、浮いた話の一つも持ってこないが。
――まあ、仕える主が幼女なので、これに関しては当然であるけども。
そのヨアンの、女性関係の話!
ユーリもつい前のめりにもなろうものだった。
「年下なの?」
「年下と、年上ですね」
「二人も!」
「賑やかでしたよ。子供の頃はよく遊ばれたものでした」
「へぇえ……」
遊ばれた?
ユーリは首を傾げた。
「私は生まれた時から騎士になる事が決まっていたのですが……」
それはそうだろう。
「ですので、ごっこ遊びではいつも騎士役でした。そして、年下の幼馴染は決まってお姫様役です」
ヨアンは苦笑した。
「とはいえ、小さい子供のする事ですから、騎士というか、いわゆる召使いというか……騎士が何たるかが分かっておりませんので。何でも言うことを聞かせられていましたよ。お茶を淹れるよう命じられたり、花冠を編むように言われたり。中には、お姫様だから下にも置かぬ扱いをしなさい、ですとか」
そんな無茶な。
「えぇ……?」
子供って無邪気で怖い。
簡単に人に理不尽してくるじゃん……とは、今は子供のユーリが言うわけにはいかないが。
「今思えばいい鍛錬でしたね。一日中、おんぶや抱っこをしたものです」
懐かしそうに振り返る表情は朗らかだ。
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