ユーリ・グレース・ノルディアの華麗なる推理[3]


 さて、この帝国でノヴィリス城といえば、帝都に聳えたつ城ただひとつ。

 荘厳かつ堅牢、何と言っても巨大で、帝都の中にあって一部はほぼ小さな町といって過言ではない。

 そんな城の端、通称『外廓』と呼ばれる区画へ足を向けるのが、ここ最近のユーリの楽しみである。

 ノヴィリス皇城は大まかに表門と裏門に二分できる。

 表門と呼ばれる方面が、城としては正面になり、賓客の入出、滞在、政務や式典等のいわゆる外向けの機能を有している。

 裏門の方面は、城の主――皇帝の私室、大臣等城に私室を賜っている者の控室や執務室、書庫、厨房等があり、特に外廓には皇城の運営に関わるあらゆる雑事が集中していた。

 いまのところ、ユーリに馴染みがあるのは裏門側になる。

 ユーリは超が付く弱小国家から押し付けられる形で寄越された若干七歳の小娘であるものの、身分的には皇帝の第三妃であるために、私室には裏門でも『奥』と言われる貴賓区画の中でも格の高い居室が与えられていた。

 ユーリが表門を通ったのはたった一度だけ、生国から放り出されるようにしてこの城に来て、皇帝に謁見した時のみである。

 ノヴィリス皇城は広く美しく冷ややかで、拝謁した皇帝陛下は床に伏せるようにして頭を下げたユーリにとっては遥か高みにあった。

 歳若くして皇位を継ぎ、たった数年で周辺諸国を武力でもって帝国に併合した皇帝の威厳の強さに、ユーリはまともに彼の人の顔を見ることすら出来なかったのである。

 そんな印象ばかりが強かったせいで、朝から晩まで何日も部屋に閉じこもって過ごすユーリを、そっと連れ出してくれたのがヨアンだった。

 彼の目論み通り、外廓はユーリには良い刺激になった。

 初めの頃は近衛騎士を引き連れた子供に周囲はぎょっとしていたものの、慣れたのか今ではそ知らぬふりをしてくれるし、ゼンが一緒の時には花や飴玉などちょっとした親切を受けることもある。

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