ユーリ・グレース・ノルディアの華麗なる推理[1]
ユーリは青い空の下、自分を覗き込む三人の大人ににっこりと笑みを向けた。
「では、今日はかくれんぼをします」
いかにも七歳の子供らしい提案に、三人はそれぞれの表情で頷いた。
というのも、彼らはユーリの侍女であり護衛騎士であるのだから、どんなに幼い戯れでも同意せざるを得ないのだ。
「今日はエレナとゼンが探す番よ」
「ええ、かしこまりました」
「げっ」
淑やかに頷いたのは、エレナ・ダナム。
ユーリがノヴィリスに嫁いでからこちら、専属としてあれこれと世話を焼いてくれている侍女だ。
対して、隠すことなく顔を顰めたのは、ユーリ専属の護衛騎士の一人、ゼンだった。
何かと奔放な素行の目立つ彼は、太陽も高く昇っているというのに、赤混じりの黒髪に寝ぐせをつけたままである。
二人はちらりと顔を見合わせ、エレナは取り繕うように微笑み、ゼンはそっぽを向いて舌を出した。
「こら、殿下の御前だぞ」
仲裁するように苦笑するユーリの横にぴたりと付いたもう一人の護衛騎士、ヨアン・ツリーが穏やかに同僚を窘めた。
いつも温和な彼の栗色の瞳にも、流石に呆れが浮かぶ。
ユーリが彼らに世話になるようになっておよそ一ヵ月が経つが、どうにもエレナとゼンの相性はいいとは言えないものだった。
だからといって、決定的に険悪になることはないのだが。
「ちゃんと五分まっててね」
ユーリはぷくぷくとした短い指をひらりと指揮棒のように降る。
「いい? 二人とも、仲よく、一緒に、探しにくるのよ」
ゼンはともかく、
「ええ、もちろんですよ、ユーリ様」
笑顔のエレナが、ユーリに被らせた帽子の幅広い鍔をそっと整えた。
「ヨアン様、ユーリ様をお頼みします」
「無論です」
「……天下の皇城で何か起こるもんかよ」
生真面目に胸に手を当てたヨアンをよそに、ゼンが投げやりに鼻で笑う。
「ゼン様!」
途端、とうとう眦を吊り上げたエレナに、ユーリは慌てて背を向けた。
「じゃあ、いくね!」
ユーリはヨアンの手を引っ張って走り出した。
「ユーリ様! 転ばないようにお気を付け下さいませ!」
「はーい!」
ユーリは肩越しに、慌てるエレナへ元気よく手を振った。
ふ、と七歳の幼女に手を引かれているせいで長身を屈めていたヨアンが微笑む。
「ご心配なく」
ひょい、と猫の仔を持ち上げるかのごとく、軽々とユーリの矮躯が騎士の頑強な腕の中に納まる。
ユーリは間近のヨアンの顔を見上げて嘆息した。
「ヨアン、いっつもこれだと、わたしの運動にならないでしょ」
彼の誠実そうな栗色の瞳が意外そうに瞬いた。
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