壁の先

魔女と呼ばれているおばさん。けれど、嫌われている訳ではなく、優しくて村でも頼りにされているおばさん。


森を抜けて、おばさんの家に行く。おばさんは物知りで、食料を届けるついでにおばさんに色々教えてもらっていた。


ふっくらした、優しい雰囲気のおばさんが私は大好きだった。私はおばさんの話を聞きながら村の外の世界に思いを馳せるのだ。


「そういえば、あの壁は何なの?」


私はおばさんの家の裏に聳える壁を見て言う。この壁は家の何倍も高く、森のずっと先の見えない先まで続いている。


大人たちは壁の向こうは暗闇だという。世界が途切れていて土地も木も水も空もない暗闇があるだけだと。


「あれは私たちの世界の果てさ」

「じゃあ、やっぱり世界は壁で終わってるの」

「いや、世界は続いてるよ。私たちが生きられないだけさ」


おばさんは遠くを見るような目で壁を見上げている。その目はどこか懐かしむ様で。


「おばさんは壁の向こうを見たことあるの」

「あるよ、行ったこともある。見るだけならそうだね、見せてやろうか」

「ホント!?」


おばさんの言葉に勢いに任せて立ち上がり、言われるがまま開けた場所に立つ。おばさんは少し離れた場所に立っていた。


おばさんが小さく何かを呟くと、私を囲むように風が巻き起こった。その風がどんどん強くなって、目を開けているのも辛い。


「ちょっと、これ、だいじょう、ぶっ!?」


段々と体が浮き上がり、ついに足が地面から離れた。そのまま天高く巻き上げられる。屋根の高さを越え、木の高さを越え、ついに壁の高さを越えた。


遮るものの無くなった空。壁の向こうに、ずっと先に見える地平。世界はどこまでも広かった。遠くに見える煙の立つ山に、先の見えない大きな湖、山と変わらないほどの大きさの大樹。どれも大人たちからは聞いたことがない。知らない世界の物だった。


ふと浮遊感が無くなる。視線を下に向ければ地面は遥か下。落下が始まり、地面がどんどん近づいてくる。


「いーやーーー!!」


地面に叩きつけられることを、その衝撃を覚悟して目を閉じた。風が再び体を包み再度ふわりと浮かび上がったかと思うと、想像以上に軽い衝撃がお尻にきた。


「どうだった?」


おばさんは悪戯が成功したような顔でにこにこと笑っていた。


「最高!」


何時か壁を越えよう。知らないことを知ろう。今度はもっと間近であの光景を見るのだ。

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