夢現
大通りの橋で曲芸師がカメでお手玉をしていた。カメは宙を舞ってまた曲芸師の手に戻ってくる。
人ごみの中、私はその光景を眺めている。上がる歓声がどこか膜を張ったように遠い。
すると、カメが一匹曲芸師の手から滑り落ちた。床に打ち付けられその甲羅が割れる。その隙間からは本のページが覗いていた。
その光景が見えていないのか、観客からは変わらず歓声が聞こえている。まるで録音された音が繰り返されている様だった。
曲芸師は慌てる様子もなく、優雅な手つきでカメを拾い上げる。そのまま人差し指を立て口元に当てるとニッコリと微笑んだ。
その顔が笑っているはずなのに、どこか背筋が寒くなって。私はその場から逃げ出した。
目を開けると、図書館だった。読みかけだった本の挿絵にあの道化師が描かれていた。
ただの夢だったのだと安堵した瞬間、足に何かがぶつかった。テーブルの下を覗き込むと甲羅の割れたカメがいて、割れた甲羅からはページが覗いていた。
自分は起きているだろうか、それともまだ眠っている?
挿絵の道化師が笑った気がした。
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