聖人

彼の通り名は『聖人』だった。


誰にでも優しく、助けを求められれば誰でも助けたし、それだけの能力もあった。当然殆どの人に好かれていたし、彼に恋をした女子も多かった。


そしてもちろん一部の問題のある人間にも好かれていた。あるメンタルに問題のある女の子が彼に言ったそうだ。


『貴方が誰かのものになるなんて耐えられない。私だけのものになって』


すると彼は笑って答えたらしい。


『君のものにはなってあげられないけど、誰のものにもならなければ良いんだね』


そして彼はその場からーー告白の為に呼び出されていた屋上から飛び降りた。


顔見知り程度の女子が『耐えられない』だけで彼は一生自分が誰のものにもならないようにしたのだ。


その命を投げ捨てて。彼はいったい何がしたくて、何を守りたくて、他人を優先していたのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る