第2話妹と過去
「兄貴、記憶喪失ってまじ?あたしの名前本当にわからないの?」
「わからん、なんていうんだ?」
「ぼっちの兄貴の唯一の話し相手なのに、忘れるなんてありえない」
月夜が申しわけなさそうに
「すみません妹さん私が自転車でぶつかったせいで…。」
「赤井ゆりえ、兄貴と月夜さんはゆりえでいい」
妹がツインテールを揺らしながら名乗った。
「月夜さん、兄貴が鈍いからこうなったんです。気にやまないでください、そして月夜さん…あなたキレイすぎマジカワイイ!
LINEの話し相手になることが示談の条件」
「ゆりえちゃんもかわいいよ。いいよID交換しよ」
ゆりえが真剣な顔になって、
「月夜さん、兄貴係になったなら今だけじゃなく過去の兄貴もしっておいて、兄貴も聞け」
「兄貴は顔だけはよかったから告白されまくってて、でも転勤族の親だったから断ってたの、それがある日告白を受け入れたの。転勤が明日って時にね。1日だけデートしてそれで別れた、文通の約束をして。そして彼女はイジメられて自殺したの。」
「え」
「デートしてたのを見られてたの。それから兄貴は告白されないように牛乳ビンの底みたいなメガネかけてボサボサのウィッグつけて変装してた。もちろん今日も」
「事故の場所に落ちてたウィッグとメガネは…赤井君のだったんだ」
「それをつけて今日までぼっちとして生きてきた、話相手はあたしだけ、どう月夜さん、それでも兄貴の側にいてくれる?」
ゆりえは俺のほうを見て、
「兄貴思い出さない?」
「俺は自転車にぶつかったぐらいで罪を忘れていたクズだ、何が人生デビューだ。蒼井さん。今日のことは忘れてくれ、今まで通りぼっちになるから」
「赤井君は今日自転車にぶつかって、新しい人生を生きることになったんだよ」
「それは都合のいい言い訳だ。ゆりえの話を聞いても思い出さない、俺が殺したようなあの娘のことも思い出さない。忘れたことを免罪符にしちゃ駄目だ」
「私は自転車にぶつかっても弁当をくれたあなたをぼっちになんかさせない。別のいいかたをすると恋してるの!ぼっちになることで助かるのはあなたしかいない。ゆりえちゃんも私もそれで不幸になる。人生デビューすることを恐れないで、側に私がいるから」
俺は迷った。
「でもおれは」
「兄貴が変装してたころ、あたし男子にお前の兄貴陰キャだ。とか言っていじられたんだけど、兄貴がイケメンらしきものに人生デビューしてくれたらな」
後ろを向いても前を向いても誰かを不幸にするのなら前を向くほうを選ぶ、妹までいじられるのは嫌だしな。
「デビューする、今日から蒼井さんが俺の人生のパートナーだ。つまり、好きだ」
ゆりえは泣いていた。
「兄貴やっと前を向くことができた…こんな日をずっと待ってた」
記憶喪失の前の俺は誰も傷つかないつもりで生きてきたらしいが妹を傷つけていた。
「ごめんな」
大切な妹に謝った。
「ありがとう」
月夜さんが俺なんかを好きになってくれたことに感謝した。
「兄貴、あたしと月夜さんを泣かさないのが前提条件だけど楽しい人生デビューできるといいね」
「ああ、誓うよ」
それからは3人で明日からの予習をしていたのだが意外なことに俺が二人に勉強を教えていた。
「兄貴は陰キャの時ご飯、勉強、寝る、のループをしてたから成績はいいんだよ」
妹は誇らしげだった。
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