高校の入学式前の記憶を失った俺の青春

@akairoakairo

第1話俺の人生のはじまり

「そこ、何寝てる」

それが俺の人生のはじまりだった。

「ここはどこでいつなんだ教えてくれ」

俺の初めての会話相手の男は怒ったような顔をしていた。

「なんだ寝ぼけてるのか入学式なんだから、しっかりするんだな」

入学式?俺は学校にいるらしい。ということはこいつは教師か!面倒だから会話を打ち切ろう。

「はい、どうもすいませんでした」

「うむ、今後気をつけるように」

教師らしき男は去っていった。

「次は校長先生の祝辞です」

俺はありがたい話より状況確認を優先した。

垂れ幕を見るとここは県立山道学園という所らしい。ポケットをあさると学生証とスマホがあった。

スマホを使うとさっきの男が殺気を込めて注意してくることが火を見るより明らかだったので学生証を開いた。

俺の社会的立場は、

県立山道学園一年赤井京次朗、というらしい。年齢は15歳ということは高校生か…。

高校生から人生が始まる。俺の記憶に過去に戻って人生やり直しという物語があるが、俺の場合はいきなり高校生から、入学式から始まる人生デビューなのだ。

頭を抱えているうちに入学式は終わり教師が教室へと俺と他の生徒を誘導した。

昼食休憩の後ホームルームがありその後下校という流れが黒板に書いてある。

教師は高校1年問という時期の大切さを話してから教室から出ていった。

俺もスッと出ていきトイレに向かった。

便所メシならぬ便所状況確認である。

連絡先を見てわかったことは親は海外出張で妹と二人暮らしということだった。

妹とだけ書いてあるため名前がわからない。年齢もわからん。だがLINEの会話を見る限り兄の俺に、

「今日オムライスだからケチャップ買って来て」

おつかいをさせるあたり、しっかりしてそうだ。説明が楽でいい。妹よ記憶喪失の兄ですまない。

妹の件は家に帰るまで保留にして学校のことを検索したところ。

ありふれた普通の進学校で3年前にできた新設校だった。そして自由な校風が魅力的らしい。どうりで明るい髪いろの生徒が多いわけだ。

俺はLINEで妹に家に帰る道がわからなくなった、と送った。

すると、校門でて突き当たりの質屋の右隣、そこが家。という返事が帰ってきた。後頭部がいたい、コブがある。これが原因か?うずく。

「メシにするか…!?」

弁当箱を開けるとごはんだけしかなかった。アルミホイルのおかずスペースがソースだけになっていた。いい匂いだ、おいしかったに違い無い。腹が減っている以上他のだれかが食べたのだ。

だがこれはむしろ好運だ。弁当を分けるという関係性を持った他人が俺にはいるということなのだ。今日が入学式だから同じ中学か小学校の奴の可能性が高い。人生デビューの俺に仲間がいる。安心感に包まれた。

そう考えていた時期が俺にもありました。

「君、弁当を分けてくれてありがとーおいしかった」

「君は誰だ」

「さっき言ったのにもう忘れたのひどい初対面だけどあんな出会いして忘れるわけ無いよね。顔がちょっといいからってそんなのひどい」

便所に行ったのは鏡を見るためでもあった。

俺の美的感覚がくるってなければ平均よりややよかった。

だが記憶喪失のせいで入学初日から女を捨てた調子に乗ったクズイケメンという評判が立ちそうだ。マズイ…。弁当を分けた女が初対面の上に悪評まで広がる…人生デビュー失敗の危機を回避しなければ。

その時チャイムが鳴りホームルームがはじまった。

ゴングに救われたボクサーとはこんな気分か…。だが必ず逆転してみせる。策はある!

作戦名ホームルームクラッシャーの時は近い。

自己紹介の番がまわってきた作戦決行だ。

「俺は赤井京次朗らしい…、みんなは思い出というものがあるか?俺には無い、何故なら頭の打ちどころが悪く記憶喪失になったからだ。意識があるのは入学式からだ。俺のことを知っている奴がいるなら名乗り出てくれ」

教師が

「あなたは春休みの時、ここに引っ越してきたのよ。本当にわからないの」

「そうか俺はまるで異邦人のようだ。先生…本当にわからないんです」

教室がざわつく、そして

「私のせいなんです!」

「赤井君、私は蒼井月夜、記憶喪失の原因です。自転車でぶつかって…」

数時間前…

今日は私蒼井月夜にとって門出の日、何故なら高校の時の出会いは一生モノと言われているから。今日からの日々を大切にしよう、あっ前に人が!ぶつかる!

凄い音がして私と、同じ学校の制服をきた男子が倒れた。私の弁当は川に流れた。

「君大丈夫!?私の弁当が…!」

「君弁当無くしたのかい…オカズの箱あげるよ…俺はごはんだけでいいから、じゃあこれで」

ふらふらしながら彼は歩いたの。学校へ…。これが一生モノの出会いの予感。

「そんなことがあったんです」

「赤井君、蒼井さん自己紹介が終わったら先生の車で病院に行きましょう。妹さんの学校にも連絡しておく。他の生徒はその後帰宅してよし、蒼井さん自己紹介して」

「蒼井月夜、赤井君係に立候補します」

俺の作戦とは記憶喪失であることを正直にいって誤解を解き、頭を打った時の情報をあわよくば集められたらいいな。と、いう単純なものだった。こんなに上手くいくとは人生デビューの出だしとして上等ではないか。

記憶喪失はよくならないが蒼井月夜との出会いは記憶と交換してもよいかな。黒髪ストレートの名前の通り月夜が似合う不思議な女の子となら。一生モノの出会いになる予感が俺を駆けめぐった。








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