第108話.異様な出迎え
「やったぁ! 偉いわ、ぴーちゃんっ!」
『ぴ~!』
人目も忘れて歓声を上げるブリジットに呼応してか、ぴーちゃんが羽をばたつかせる。
見守る見物人たちからもどよめきと、それに続いて拍手の音が響いた。
何をしていたかというと、的当てである。
奥まった路地に続くよう配置された円形の的だ。色分けされた場所ごとに点数が決まっており、中央の小さな円部分に当てれば高い点数を得ることができる。
しかしふつうの的当てと異なるのは、人ではなく精霊が的当てを行うということだ。
ひよこ姿のまま、小さな炎を吐いて的にぶつけるぴーちゃんはとにかく可愛らしく、見物客も多く集まっていた。
今のところ、一戦目のディスク投げはユーリ(とブルー)の勝ち。
二戦目のスライドパズルはブリジットの勝ち。
三戦目の速記術はユーリの勝ち。
そして四戦目の的当ては、ブリジット(とぴーちゃん)が僅差で勝利を収めた。
「これで二対二ですわよっ、ユーリ様!」
「……ああ」
ぴーちゃんを肩に載せたブリジットは、屋台の柱に寄り掛かっていたユーリに声をかける。
なんだかいつも以上に無愛想だ。表情には出ていないが、かなり悔しいのだろう。
「次はどうしましょうか?」
うろちょろしながら看板を観察するブリジット。勝負事に使える屋台は限られている。
合間合間に休憩したり、食事を楽しんだりしていたので、あまりパレードまで時間がない。
勝負の数は奇数にしないと決着がつかないので、残りは一戦でちょうどいいだろう。
「あっ! スタンプラリーですって。あちらはどうです?」
「…………分かった」
返答までには少し時間が掛かった。
しかし勝利に浮かれるブリジットは気にしていなかった。
◇◇◇
(さて、と)
スタンプラリーの台紙を両手に持ったブリジットは、意気揚々と歩き出していた。
もちろん単独行動だ。勝負相手のユーリも既に出発している。
『ぴぴ、ぴっ?』
「うん、ぴーちゃん。わたくし頑張るわね。応援してて!」
『ぴー?』
ぴーちゃんは何やら不思議そうにしているが、大人しく再びポケットへと戻っていく。
すると、聞き覚えのある声に呼び止められた。
「ブリジット様!」
駆け寄ってきたのはキーラである。
「キーラさん! それにリサさんも」
そんなキーラの後ろには、ちょこんとリサの姿もあった。
事前に聞いていたのでブリジットは知っていたが、キーラとリサは二人で建国祭を回っていたのだ。
ちなみにニバルはといえば、クラスの友人と一緒に回るらしい。
今のところは会えていないが、彼もどこかで楽しく過ごしていることだろう。
そんなことを考えていると、ふとリサと目が合った。でもすぐにそっぽを向かれてしまう。
以前のリサは嫌がらせをしてきたり、魔石獲りで危険な行動を起こしたりと、何かとブリジットに突っ掛かってきた。
しかしそれが、ジョセフにいいように操られた結果だとブリジットは知っている。
リサ本人も謝罪してくれたので、その件は水に流したつもりなのだが……リサとしては、やはり気まずいらしい。
空気を読み取ってか、キーラが明るく話しかけてくる。
「ブリジット様は、何をしてらっしゃったんですか?」
「わたくしはユーリ様と勝負中なの」
「勝負、ですか? そういえばオーレアリス様の姿が見当たらないような……」
見回すキーラ。しかしユーリの影も形もない。
「お互いにスタンプラリー中なのよ。王都に五箇所あるスタンプをどちらが早く見つけられるか、勝負しているの。先に屋台に戻ってきて、景品をゲットできたほうが勝ち」
と、説明したときだった。
「……馬鹿みたい」
ぼそりとリサが呟く。
キーラが咎めるような目をする。リサは言いにくそうにしつつ、「だって」と続ける。
「デート中だったんでしょ? それなのにどうしてわざわざ別行動を取るのよ……」
「!!」
ブリジットの身体に激震が走った。
(ほっ――本当だわ!)
言われてみればリサの言う通りである。
せっかく二人でお出かけしているというのに、なぜよりにもよってスタンプラリー。
そういえば次の勝負にスタンプラリーを提案したとき、一瞬だけユーリは変な顔をしていた気がする。
あれはもしかすると、はしゃぐブリジットの手前、反論しにくかったのかもしれない……。
(何やってるの、私ったら……!)
あまりの不手際にショックを覚え、沈黙してしまうブリジット。
「良かったらわたしたちが一緒にオーレアリス様を捜しますよ、ブリジット様っ」
「はぁ? なんであたしまで」
「いいじゃない。リサちゃんも、ブリジット様とお話ししたかったでしょ?」
「誰がいつそんなこと言ったのよ!」
ぎゃいぎゃいと喚いているキーラとリサ。
なんだか今のブリジットにとっては、それすら救いに感じられる。
「ありがとう二人とも。お願いしていいかしら?」
「お任せください! それで、どの方向に行ったかとかは分かりますか?」
キーラの言葉に、ううんとブリジットは首を捻る。
「ええとね、確か……」
そう呟きながら、見回してみたときだった。
ブリジットの目が、不審な一団を捉えた。
無造作に人混みを掻き分けているのは、祭りにそぐわない黒ずくめの格好をした五人の男たち。
周囲に迷惑そうな顔をされながらもまったく気に留めず突き進む姿は、どこか異様な光景だった。
(あの人たち……)
そしてもうひとつ、おかしなことにブリジットは気がつく。
彼らは、まっすぐにブリジットを見ている。
――否、ブリジットの赤髪を見て、こちらに近づいてきていた。
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