6
「やっぱり、僕には理解できませんよ。人を殺すっていう気持ちを」
監獄から出てきて、新居刑事が言った。
「理解しなくっていいよ、新居君。そんなの理解しなくても、事件は解決できるんだから」
「そうですか。でも、よく言うんじゃないんですか?犯人の立場になって犯人と同じ思考をしてみろうって」
「そうだね。なら、新居君は理解したい?」
「理解したくありませんよ」
「そうりゃそうね。理解しなくていいよ。新居君は新居君のままでいていいんだ」
「それじゃ成長しないように聞こえますけどね」
「違うよ。成長はするでしょう」
「本当ですか?」
「本当だよ」
「そんなもんですかね」
パトカーに乗った新居刑事はどこへ行くかって大原警部に聞いた。
「話もたくさん聞いたし、おいしいもんでも食べに行こうか?」
「そう話すと思いました。じゃ、何食べますか?」
「ラーメンとかどう?」
「ラーメン!いいんですね。行きましょう」
「じゃ、私の知ってる店までいこうじゃないか」
「はい!」
二人は楽しそうにラーメン屋に向かった。
「一つ聞いていいんですか?」
車を走りながら新居刑事は訊いた。
「何?」
「いつからそんなに食べ物にこだわったんですか?」
「それはね……話すと長くなるんだが大丈夫かね?」
「全然大丈夫ですよ。警部の教えた店まで時間がかかりそうだし、時間ならたっぷりありますから」
「そりゃそうだね」
大原警部は話しだした。自分が食べ物にこだわった理由を。
「大したわけがあったわけでもないんですね」
大原警部の話を聞いた新居刑事がつぶやいた。
「そうよ、大したことではないだろう」
「どころで、警部」
「うん、なに?」
「結婚はしないんですか?」
「なぜそう聞くんだね?」
「だって、周りの先輩に聞いてみましたけど、大原警部は警察になって以来、恋愛をしたことなど一度も見たことないって」
「そうだろうな」
「まさか、誰も知らないんですけど、実は結婚していたなんてことはないでしょうね」
「そんなことはしないよ」
「じゃ、なんでですか?」
「機会がなかったってことかな?」
「機会ですか?合コンとかもあるんじゃないんですか?ではなぜ?」
「合コンと結婚は別々の問題なんだがね」
「そりゃそうですけど。気になるんじゃないんですか。大原警部が今まで結婚しなかった理由が」
「大した理由はないよ」
「えぇっ?本当ですか?」
「本当だよ。恋愛の機会がなかったっていえばいいのかな?」
「恋愛の機会がないって、嘘っぴですよ。こんなに毎日お茶屋、食べ物に時間を費やしているのに、時間がないって。信じられませんよ」
「なぜかね?」
「その時間を付き合うことに使えるんじゃないんですか?」
「それも一理あるね」
「そうでしょう。だから教えてくださいよ。なぜです?」
「本当に時間がなかったんだ」
大原警部は言ったのは本当だ。警察になってから三十代まで、大原警部は必死で事件を解決した。その必死で能力が認められた。でも、ある事件をきっかけに大原警部は必死になるのをやめた。
「噂によると、警部はある事件を境に人がぐるりと変わったと聞きましたけど。どんな事件だったんですか?」
「……」
「聞いても誰も教えてくれませんので、気になって仕方ありませんよ」
「本当に聞きたいのかね?」
「はい!ぜひ教えてください」
「話が長くなるからラーメンを食べてからにしよう」
「はい!」
ラーメン屋に着いた二人は注文した。
「ここ!おいしいんですね!」
「だろう?」
新居刑事はすぐ食べ終わった。それから大原警部が食べ終わるのを待った。
「警部、速くたべません?時間がありませんよ」
「時間ならたっぷりあるんじゃないか」
「それはそうですけれおども、警部の昔話まで聞くとしたら時間がありませんよ。本部に戻る時間が遅くなりますんで」
「それなら大丈夫さ。私たち二人はいなくたって仕事は回るんだよ。本当に必要なら電話でもくるんだろう」
「そりゃそうですね」
「だから、もう一つもらおう」
「えぇ?!」
「そんなに驚くほどじゃないだろう?一つで足りると思ってるの?」
「思いませんよ」
「なら、君も頼んだら」
「じゃ、お言葉に甘えて」
ラーメン屋を出た二人は近くの喫茶店に入った。
「いよいよ話してくれますよね」
「どこから話そうか……」
甘いジュースを一口飲んだ大原警部は話し出した。
【完結】アパートのマーダー 武佐井 玄 @loveeoed
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