「やっぱり、僕には理解できませんよ。人を殺すっていう気持ちを」


監獄から出てきて、新居刑事が言った。


「理解しなくっていいよ、新居君。そんなの理解しなくても、事件は解決できるんだから」


「そうですか。でも、よく言うんじゃないんですか?犯人の立場になって犯人と同じ思考をしてみろうって」


「そうだね。なら、新居君は理解したい?」


「理解したくありませんよ」


「そうりゃそうね。理解しなくていいよ。新居君は新居君のままでいていいんだ」


「それじゃ成長しないように聞こえますけどね」


「違うよ。成長はするでしょう」


「本当ですか?」


「本当だよ」


「そんなもんですかね」


パトカーに乗った新居刑事はどこへ行くかって大原警部に聞いた。


「話もたくさん聞いたし、おいしいもんでも食べに行こうか?」


「そう話すと思いました。じゃ、何食べますか?」


「ラーメンとかどう?」


「ラーメン!いいんですね。行きましょう」


「じゃ、私の知ってる店までいこうじゃないか」


「はい!」


二人は楽しそうにラーメン屋に向かった。


「一つ聞いていいんですか?」


車を走りながら新居刑事は訊いた。


「何?」


「いつからそんなに食べ物にこだわったんですか?」


「それはね……話すと長くなるんだが大丈夫かね?」


「全然大丈夫ですよ。警部の教えた店まで時間がかかりそうだし、時間ならたっぷりありますから」


「そりゃそうだね」


大原警部は話しだした。自分が食べ物にこだわった理由を。


「大したわけがあったわけでもないんですね」


大原警部の話を聞いた新居刑事がつぶやいた。


「そうよ、大したことではないだろう」


「どころで、警部」


「うん、なに?」


「結婚はしないんですか?」


「なぜそう聞くんだね?」


「だって、周りの先輩に聞いてみましたけど、大原警部は警察になって以来、恋愛をしたことなど一度も見たことないって」


「そうだろうな」


「まさか、誰も知らないんですけど、実は結婚していたなんてことはないでしょうね」


「そんなことはしないよ」


「じゃ、なんでですか?」


「機会がなかったってことかな?」


「機会ですか?合コンとかもあるんじゃないんですか?ではなぜ?」


「合コンと結婚は別々の問題なんだがね」


「そりゃそうですけど。気になるんじゃないんですか。大原警部が今まで結婚しなかった理由が」


「大した理由はないよ」


「えぇっ?本当ですか?」


「本当だよ。恋愛の機会がなかったっていえばいいのかな?」


「恋愛の機会がないって、嘘っぴですよ。こんなに毎日お茶屋、食べ物に時間を費やしているのに、時間がないって。信じられませんよ」


「なぜかね?」


「その時間を付き合うことに使えるんじゃないんですか?」


「それも一理あるね」


「そうでしょう。だから教えてくださいよ。なぜです?」


「本当に時間がなかったんだ」


大原警部は言ったのは本当だ。警察になってから三十代まで、大原警部は必死で事件を解決した。その必死で能力が認められた。でも、ある事件をきっかけに大原警部は必死になるのをやめた。


「噂によると、警部はある事件を境に人がぐるりと変わったと聞きましたけど。どんな事件だったんですか?」


「……」


「聞いても誰も教えてくれませんので、気になって仕方ありませんよ」


「本当に聞きたいのかね?」


「はい!ぜひ教えてください」


「話が長くなるからラーメンを食べてからにしよう」


「はい!」


ラーメン屋に着いた二人は注文した。


「ここ!おいしいんですね!」


「だろう?」


新居刑事はすぐ食べ終わった。それから大原警部が食べ終わるのを待った。


「警部、速くたべません?時間がありませんよ」


「時間ならたっぷりあるんじゃないか」


「それはそうですけれおども、警部の昔話まで聞くとしたら時間がありませんよ。本部に戻る時間が遅くなりますんで」


「それなら大丈夫さ。私たち二人はいなくたって仕事は回るんだよ。本当に必要なら電話でもくるんだろう」


「そりゃそうですね」


「だから、もう一つもらおう」


「えぇ?!」


「そんなに驚くほどじゃないだろう?一つで足りると思ってるの?」


「思いませんよ」


「なら、君も頼んだら」


「じゃ、お言葉に甘えて」


ラーメン屋を出た二人は近くの喫茶店に入った。


「いよいよ話してくれますよね」


「どこから話そうか……」


甘いジュースを一口飲んだ大原警部は話し出した。

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【完結】アパートのマーダー 武佐井 玄 @loveeoed

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