5
「警部!また事件が起こったんです!」
新居刑事が大原警部の携帯に電話した。
「どこへ行ったんですか?」と新居刑事。
「ちょうど用があってアパートまできたんだがね」
「アパート?何を調べるためにあそこまでいったんですか?それに、僕を一人取り残して。ずるいですよ!」
「そういわないでくれ。一人で調べたいことがあってね」
「いったい、事件は解決したんじゃないんですか。それなのに……」
「言いたい事はわかるよ」
「じゃ、調べたことって何ですか?」
「大したことではないんだがね。住人たちが何をしているのか気になって」
「そうですか」
住人たちの近況について聞いたと知った新居刑事は急に興味がなくなった。
「それより、警部!早く戻ってくださいよ。事件が起こったんです」
「事件?どんな事件なんだね?」
「それがですね、田中富士子が暴露したんです」
「何をかね?」
捕まえてしまった田中富士子がどんなことを暴露したのか、大原警部にはすぐ興味がわいてきた。
「それがですね。前にも人を殺したことがあるっていうんです」
「なるほどね」
「驚きませんね、警部」
「そりゃそうさ。ただ噂話の中心になるために人を殺すなんて動機がよわい。だからほかに何か動機があるんじゃないか、もしくは人を傷めることに罪悪感が薄い人ではないかって思っていたんだがね」
「そうですか。田中さんは大原警部に話したいといって監獄でまっているんですって」
「そう。じゃ、速く迎えにきてくれ」
「はい!すぐ行きます」
それから約1時間後、二人は田中富士子に会えた。
「警部、こんにちは」
「こんにちは」
「驚いてませんよね」
「驚くこともなにも、田中さんには隠したことがあるって思っていましから」
「そうですか。何もかもお見通しってことですか」
「それほどでもないんですよ。だって、田中さんが何を隠しているかまではわかりませんよ」
「でしょうね。誰にも言ったことないし、それに、ちゃんと隠しましたから」
「じゃ、話してくれませんか?誰を殺したのかを」
田中富士子は淡々の自分の事を話した。
田中富士子は大学に入ってすぐ彼氏ができた。そして、すぐ子供もできた。田中富士子のことが大好きだった彼氏はすぐ結婚を申し込んだ。こうやって、二人は結婚した。結婚しても大学はやめなかった。
大学生なのに、妊娠して結婚までしたので、両家の両親たちはすっごく反対した。そこで二人は決心した。縁を切ることを。
彼氏は田中富士子のお腹の子供のために昼は勉強、夜はバイトで頑張った。
そんなに頑張っている夫を見て、田中富士子も元気な子供を産むために努力した。そして、健康でかわいい男の子を産んだ。
でも、幸せな家族は長くつづかなかった。悲劇は二年後に起こった。
夫は過労に死んだ。もともと体が丈夫じゃなかったせいもあって、夫は死んだ。
あれから田中富士子は母親として頑張ることにした。大学も中退してバイトをしはじめた。でも、田中富士子の努力と裏腹に、息子は彼女を期待とおりに成長しなかった。
夫に死なれた田中は息子を厳しく、しっかり教育しないといけないと思った。父親の分までしないと思ったから。
同級生と遊ぶのはもちろん禁止。学校が終っては塾へ行かせる。塾が終ってから深夜まで勉強させる。子供は勉強より遊ぶべきと主張する親もいるけど、そんな間抜けな親のせいで、子供は大人になっても自力できないと田中富士子は思った。自分もいつ死ぬかわからないので、できるだけ息子が自立できるようにしつけた。
田中富士子の努力もあって、小学生の時は本当に優秀な息子だった。誰も「かわいいね」「勉強も運動もできる子じゃないの、羨ましいわ」と褒めてくれる息子だった。
息子の性格がひねくれ始まったのは中学校に入ってからだ。「ママ大好き」と言ってくれたのも、遠い昔の事になった。いう事を聞かない、反抗する、ののしる、いろんな問題を起こすようになった。「くそばば、死ね!」と息子が叫んだ時、田中富士子はこれ以上もなっく悲しくなった。今まで自分が努力してきたすべてが壊れたような気がした。
このままではいけないと思った田中富士子は、今までよりもっと厳しくするようになった。そして、田中富士子が息子を殴るようになったのはあの頃からだった。最初は、殴られて落ち込む息子を見ると、心が痛くなって、「ママが悪かった」と慰めたけど、回数が重ねるにつれ、悪いのは私ではなく、息子の方に問題があると思い始めた。息子を打つ手も加減というのを知らなくなった。
息子も田中富士子が殴っても敵を見つめるめて、睨んだ。その視線がもっと田中富士子を怒らせた。
田中富士子は自分教育方針は間違っていないと自分に言い聞かせた。自分が悪いんじゃないなら、悪いのは息子だと決めつけた。
息子のために何をしても、息子は変わらなかった。だんだん不良になっていく一方だった。そんなストレスで田中富士子はアルコールに依存するようになった。
あの頃、田中富士子が一番嫌いだったのが親同士の親睦会だった。母親たちが集まって子供の自慢話をする会だ。話すのはいつも、「あななの子供はどう?うちのはね、本当に困ったもんだよ」とか何とか言ってるけで、顔には自慢の表情を浮かんでる。頭にくる。その顔面に蹴りを入れたいと田中富士子はいつも思っていた。
そうなると、田中富士子はもっと息子が変わってくれるのを期待しながら生きるしかなかった。息子は今はまだ若いから、いくらでも変えられると田中富士子は自分に言い聞かせて、もっと厳しく教育した。
息子への期待の失望で過ごす毎日。そんなある日、スーパーである子に出会った。とても利口でいい子。もし、この子が私の子供だったらどんなにいいんだろう、と田中富士子は思った。他人の子供と比べてはいけないと知っていても、つい比べてしまう。
田中富士子はどんなに辛くても我慢してきた。頑張れるのはだった一つの息子が優秀な人間になってくれることだけが願いだった。しかし、息子はそんな田中富士子の期待にはこたえてあげなかった?
息子の頭はなぜよくならないの?なぜ、私の話を聞かなくなったの?
こんなネガティブな考えは田中富士子の頭から離れなかった。
田中富士子は息子を殴れるのはそう長くは続かなかった。だって息子の背広も軽く彼女を越してしまったから。
ある日、殴ろうと手を挙げた田中富士子を、息子は突き飛ばした。床に倒れた田中富士子を、息子は冷ややかな目で見下した。これが自分が長年育てた息子だと思うと、死にたくなる気持ちになった。
息子が田中富士子の金を盗んだ時も、ショックを受けた。悪い事をどこから、誰から教わったのと聞きたいけど、結局やめた。
田中富士子はどう育てた方がいいか悩んだけど答えが出なかった。からといってほうっておくべきではないと、思っている。
そんなふうに悩んでいるとある日、田中富士子は見てはいけないものを見てしまった。不良少年が子供をいじめているところを見てしまった。田中富士子はびっくりした。不良少年の中に、自分の息子もあったからだ。
あんな息子をみた夫はどう思うかな?きっと悲しむんだろう。あんなふうに成長するってわかっていたのなら産むんじゃなかった。
産むんじゃなかった?この言葉がずっと田中富士子の頭の中で回った。そして、その思いは息子がこの世からなくなってほしい気持ちに膨らんだ。
田中富士子は自分がこんな思いをしているのにびっくりした。どんなに苦しくても、息子は変えれると信じているから、ここまで来れた。しかし、子供をいじめながら笑っている息子を見て、田中富士子はもう自信をなくした。
もちろん、息子を捨てて一人違う場所へ行けばいいけど、世界は小さい。いつかまた出会うかもしれない。こんなだらしない息子なんていらない。
やはり、息子がいなくなるしかない。そうすれば、自分は新しい人生を始めることができるかもしれないと田中富士子は思った。新しい恋、新しい結婚、新しい子供も。今度子供ができたら、今の息子より優秀なのに決まっている。私の教育に狂いはないはず。
ここまで考えると、田中富士子は決心した。社会に迷惑をかける人間になるんだったら、社会に出る前に消させると。
田中富士子は心に決めた。息子を殺すことを。自分の新しい人生のために、息子を殺すしかない。
厨房で包丁を手にした瞬間ある問題に気付いた。息子の死体をどう処理すればいいかってことだ。どうすればいいだろう。息子の死体がばれたら、自分を迎えるのは新しい世界ではなく、おぞましい監獄生活に決まっていることに気づいた田中富士子は嘘うつくことに決めた。
息子を殺すことを決めた田中富士子は彼を騙して田舎に連れて行った。そこで山奥で田中富士子は息子を殺した。
他の人が息子の行方を聞くと、田舎のお婆さん家に送ったといった。学校には転校手続きをした。
実の母である田中富士子はこういったので、誰も疑っていなかった。
これが田中富士子の最初の殺人だ。
「でも、ですよ。息子がなくなっても、あたしの生活は変わりませんでした。バラ色の恋愛も、幸せな結婚生活も望めませんでした。なぜでしょうね」
大原警部は何も言わなかった。
「あれからでしょうかね、一度やったので、二度目はそんなに怖くなかったんです」
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