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大原警部は公園を出て陶芸教室へ向かった。
本日休講っていう札があるのだが中からは声が聞こえてきた。
大原警部はノックした。
「はい、どうぞ」橘れいこの声だ。
「こんにちは」
大原警部はこういいながら教室に入った。
「あら、大原警部。今日はどんなご用件で?」
橘れいこは嬉しそうに大原警部を出迎えた。
「この間は本当にお世話になりました。本当にありがとうございます」
こういいながら橘れいこは頭を下げた。
「いいえ、私はなにも」
「大原警部じゃなかったらあたしはどうなったか」
「管理人も後ろめたいことがあったから起訴しないといったんですよ。私がやったことは何もありません」
「そうおっしゃらずに」
橘れいこは大原警部を椅子に案内した。
「で、先まで会話していたのは……」
大原警部の問いに答えるかのように、内田薫が奥の部屋から出てきた。
「私です」
「内田さんでしたか」
「はい。今日、陶芸教室を片付けてお母さんと一緒に田舎に帰ろうと思ってます」
「田舎にですか?それはいいですね。空気もいいし、食べ物もおいしいし。それでは会社の方は?」
「やめました。私についての噂が広まっていて、もうあそこにはいられません」
「そうでしたか。残念ですね」
「でも、後悔はしていません。お母さんと最後の日々と過ごしたいんです」
「娘には悪いんですけど……」と橘れいこ。
「お母さん、そんなこと言わないでよ。私が好きでやってることなんだから。最後くらいはお母さんと暮らしたいの。これまで失った分、ちゃんと取り戻そうね」
こういいながら内田薫はお茶を大原警部に勧めた。
大原警部は内田薫が持ってきてくれたお茶を飲んだ。
「それはよかったんですね。いい思い出になるんでしょう」
「今まで作れなかった分、いっぱい作りたいと思ってます」
内田薫の顔は幸せで満ちていた。
「その前に、いろんな場所へ行ってみたいんですね」
こう言いながら内田薫は橘れいこの方み見つめた。その目には暖かい何かがこもったいた。
「最初はどこへ行こうかしら?」と橘れいこ。
「お母さんはどこがいい?」
「そうね?どこがいいかしら。大原警部はおすすめの場所とかいません?」
橘れいこの問いに大原警部はすぐ返事した。
「温泉とかはどうですかね?体にもいいし」
「それ、いいね!じゃ、どこの温泉にいこうかな?」
「そんなことはゆっくり考えましょう」こう言ってから橘れいこは大原警部を見つめながら言葉をつづけた。「大原警部はなんのご用件で?」
「特にないんですよ。ただ、挨拶でもしようと思ってきてみただけです」
「そうですか。やさしいんですね。大原警部は」
「そんなことないんですよ」
「ご謙遜を」
「でも、田中さんが犯人だなって思ってもいませんでした」
内田薫がぼつりとつぶやいた。
「そうね。そんな人には全然見えませんでしたもの」
橘れいこが相槌を打った。
「お腹のお子様は?」
大原警部は優しくきいた。
「産みますよ、もちろん」
内田薫はきっぱりとした口調で話した。
「わたくしもそばで手伝います。孫が生まれるまで頑張って生きてみます」
「お母さん、孫が生まれた後もお世話にさせてくださいよ」
こういう内田薫の声は震えていた。
「うん、お母さん頑張ってみる」
「これからは大変になりそうですね」と大原警部。
「でも、娘と一緒にいると、なんか心強いんです」
「私もお母さんと一緒にいられると思ったら何も怖くありませんよ」
この親子を見ると、これからどんなつらいことがあっても乗り越えると思った大原警部は残りのお茶を飲み干した。
「お代わりいかがです?それに、お菓子もありますよ」
もう帰ろうと思った大原警部だが、お菓子もあると聞いてお茶をもう一杯もらった。
「ならお言葉に甘えて」
「大原警部って本当にお菓子がすきですね」
「大好物ですよ。脳の回転にもいいし、気分転換にもいいし」
「でも、健康には注意しないといけませんよ。もう年なんだから」
「うちの若い者にも同じことをきかされたんですよ」
「思いやりのいい子ですね。もしかしてあの一緒にいた元気な若い警察さん?」
「そうですよ。元気があふれていてちょっとついていけないんですけどね」
「でも、年を取った人にはあんな元気の人と一緒にいると若返ったような気がするので、わたくしは好きですよ」
「それもそうですね」
それから三人はどこの温泉がいいかについて討論した。
約一時間が過ぎて大原警部はようやく帰る木になった。
「それでは、私はここでお暇します」
「あら、もうお帰りになるんですか?」
橘れいこは大原警部と離れるのが悲しいようだ。
「はい、ほかによる所がありまして」
「そうですか」
「それじゃお元気で」
「はい、警部も」
大原警部は親子の二人が仲よくなったことを見て安心した。
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