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「誰が犯人でしょうね?物証になる凶器には内田さんの指紋があるから、犯人ではないかって思ったんですけど、橘さんの証言によると、内田さんには犯行を犯す時間がない。なら、長野さんはどうかって思ったんですけど、そんなのできない人にみえますね。それに、度胸がないと思いますし……」
「本当にそう思うかね?」
「えぇっ?何ですか?可能性はあるってことですか?」
「私からみればみんな可能性はあるんだよ」
「みんな?」
「陶芸教室の橘さんさえも」
「本当ですか?」
「もちろん本当さぁ。娘を守るために嘘をついたかもしれない。娘を守るために犯行を犯したのかもしれない」
「でも、管理人を襲ったのはどう説明します?犯人があんなにも堂々とほかの人を襲いますかね」
「そうね。しないね」
「なら誰です?もし橘さんの証言が本当なら、内田さんと二人ともアリバイがあって人を殺せませんよ」
「時間的には無理ね。管理人が酔っ払った長谷川君に会ったってたんだから。その時間帯じゃ橘さんは人を殺せないし、内田さんも人を殺せない」
「そうですね」
「じゃ、管理人さんが犯人っていう線は?」
「いくら憎い相手でも、管理人は金を第一に思うんだけどね」
「でも、その金になる長谷川さんがもう引っ越すから、離れるまえに殺してやる~~ってことはないんでしょうかね」
「人が死ぬとアパートの価値もおちるんだよ。そんなことはすると思うかね?」
「しませんよね」
「そうなんだ」
「長野さんは?殺人するには動機も充分ですし、彼の証言を立証する人も何もないんじゃないんですか。それに、来週のアニメが見たいからなんとかで犯人候補から外すのはちょっと」
「長野君の動機が一番強いかもね」
「そりゃそうでしょう?自分の好きなアイドルをあんなふうにするといった人をほっておくわけにはいきませんね」
「新居君は好きなアイドルのために殺人をする?」
「僕ですか?う~ん、好きなアイドルがいないので、よくわかりません」
「好きな人のためには?」
「それとこれは違う問題でしょう?アイドルは好きになっても妄想、現実じゃないんですから」
「ははっ。でも、長野君にとっては現実だよ」
「じゃ、長野さんの犯行っていうことでいいんですか?」
「それもどうかね。私と握手会へ約束までしたんだ。犯行はしないと思うね。好きなアイドルの手を取るのに、自分の手に汚れを付けるわけではないね」
「そんなもんですか?」
「あるんじゃないか。憧れの人と握手をすると、手を洗いませんとか言う人」
「あ~、いますね。でも、僕は普通に洗えますよ」
「長野君はどうかな~」
「多分洗いませんね」
「うん」
「じゃ、犯人は鈴木さんですかね?」
「彼には、足枷があるんだがね」
「足枷ですか?なんなんですか?その足枷って」
「確かなことではないのだが芸能人じゃないかな」
「えぇっ?なんでそう思います?」
「部屋にギターがあったのじゃない?それに、とあるエンタメ会社へ送ろうとした封筒もみたんだよ」
「へえ~そうなんだ」
「芸能人になろうとするのに、変な噂は避けるはずだろう?」
「そうかもしれませんね。でも、鈴木さんは今だにはっきりとしたアリバイがないんで」
「そうかもな」
「じゃ、田中さんはどうです?おしゃべり好きなおばさん」
「どうかね?」
「ただ噂好きで、誰かを殺すような人には見えませんね」
「そうかもね」
「えぇっ?何ですか?殺せるっていうんですか?」
「私はそんなこといっていないよ」
「でも、口調からは……」
「田中さんも有力な容疑者ってことだ」
「でも、動機がないんですね」
「動機ね。動機から見ると、内田さんと橘さんだね」
「そうですよ。でも、二人にはアリバイがあるんじゃないんですか。難しいんですね」
「そんなにも難しい事でもないよ」
「なぜですか?」
「排除法で犯人じゃない人を一人一人のぞくと残りの人が犯人ってわけだ」
「動機がなくってもですか?」
「動機は必ずあるよ。ただ、今は見つかっていなかっただけなんでね」
「じゃ、内田さん、橘さん、管理人さん、長野さん、鈴木さん。この五人をのぞいたら残りは、田中さん?!」
「まだ断言できるわけではないんだけどね」
「じゃ、犯人はだれですか?」
「それは、鈴木君ともう一回話してみると分かるかもよ」
40分後、二人はアパートに着いた。
パトカーから降りるさい、大原警部の携帯が鳴った。
「大原です。はい、はい……そうですか。ほかに何かありました?それだけですか?はい、はい。わかりました。ありがとうございます」
電話を切ったのを待ったかのように新居刑事が問いかけた。
「大原警部、誰からですか?」
「本部からの電話だった」
「何かあったのですか?」
「新しい情報が入った」
「新しい情報ってなんですか?」
「長谷川健也の事務所から連絡があったそうだ」
「事務所ですか?なぜですか?」
「それが、面白いことに、鈴木竜が長谷川健也の曲を自分名義で送ったらしいんだ」
「えぇっ?それって盗作じゃないんですか?」
「私もそう思うよ。でも、鈴木竜がそんなことをするような度胸がないと思うんだけどね」
「人は見た目によらずっていいません?」
「そんな見方もあるね」
「そうですよ。じゃないと、なんで長谷川健也の曲を自分の曲のようにおくったのでしょう」
「そのことは直に聞くことにしよう」
「はい」
二人はアパートの前に到着した。
今日も昨日と同じ、田中富士子は玄関のまえで警部を待っていた。
「警部さんがいらっしゃるのを待っていました。今日は本当に、それはそれはびっくりするほど大切なお話しがあります。ずっと悩んでいました。話そうかどうか。でも、この際、話さないといつあたしに不幸な事故が起こるかわかりませんからね。で、勇気を出して話そうとしました」
大原警部は微笑みながら答えた。
「それはそれはどうもありがとうございます。でも、本当にもうしわけありません、田中さん。今から急用があって、鈴木君に尋ねなければなりません。お話しは次回にしてもらえないでしょうか。鈴木君には案件を解決する重要な手がかりをもっていますので」
情報を聞かないという大原警部に、田中富士子は顔をしかめた。
「なんです?鈴木君が持っている手がかりって?あたしが教えることより大事な情報ですか?」
「そうなりますよね」
「うそおっしゃい。あたしの持っている情報が鈴木君の持っている情報よりもっと捜査の役に立つと思いますので、ぜひ聞いてください。そんなに時間が必要とすることではありません」
「田中さん、時間ありましたらまた伺いますので、ここで失礼します」
大原警部は田中富士子の引止めを断って、新居刑事をつれてアパートに入った。
「警部は証言を一番に思っているんじゃないですか?なぜ、田中さんから話しを聞こうとしないんですか?」
「その事については、今後話そう」
「音楽事務所の事で、まず鈴木と話をするんですか?」
「それもあるなぁ」
こういって、大原警部は104号室のドアをノックをした。
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