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レストランでおいしい昼ご飯を食べてから大原警部は署に戻った。
「警部!遅いじゃありませんか?」新居刑事は相当いらだっていた。
「すまんすまん、それで橘さんの事は調べたんだね」
「はい、橘れいこ、46歳、23歳に結婚して26歳に長女を産んで離婚。今は独身。陶芸教室に引越ししたのは確かに3が月前です。それに、あの部屋は前も陶芸教室だったので、そのまま貸す形になったそうです。一番おかしいのは、費用は驚くほど高いのに気にしていないらしいことです。それに今まで、生徒は一人もいなかったそうです。変ですよね。陶芸教室をしているのに、生徒の募集もしないで、なんのためにそこを貸したんでしょうね」
「確かに、おかしいんだね。橘れいこについてはこれまでなのかね?ほかになんかないのかね」
「実はもう一つありますけど」
「なんだね?」
「橘れいこは末期癌だそうです。これからの半年以内に死ぬらしいんです」
「それはそれは気の毒な話だね。しかし、強い女性だよ」
大原警部はソファーに腰を下して考えにふけった。
「警部?」
真剣な顔をしてたのは始めてなので新居警部もどうすればいいか分らなくなった。小心に声かけたけど、大原警部はなんの返事もしなかった。
「新居君」
「はい!」
「内田薫の同僚から得られた証言を教えてくれ」
「はい。まず、同僚の証言によると、あの日は確かに終電ぎりぎり間に合うように、居酒屋を出たらしいんです。45分頃アパートに着いたということは信じていいと思います。ただ、犯行時刻のアリバイがあいまいなので、容疑者リストから外すわけには行かないと思います」
「うん、分った。一つ教えてあげよう」
「何ですか?」
「長野卓男からの証言なんだ。殺人がおこなった夜、0時15分まで長谷川健也が生きていたことは確かだ」
「長野卓男が嘘をついているかもしれないんじゃないです?」
「いや、長野卓男の証言は100パーセント信じていいと思わないけど、ここまで来たんだから、誰かの証言を信じてほかの証言と照合しなければならない」
大原警部は長野卓男が聞いたという足音の事を教えた。
「足音ですよね。しかし、田中富士子は何も言ってないのはなぜですか?」
「たぶん、明日教えてくれるだろう。今日うっかり話すところをぐっとこらえたのが分かったよ」
「本当に、何を考えているのかわかりませんえん。それに、なんで明日ですか?なんで今日教えてくれなかったんですか?」新居刑事はあきれたようだった。
「その問題はまずおいといて、4回、行ったり来たりした足音の中に、きっと一人が犯人だっていう事は確かだ」
「毎回違う人なら4人になりますよね」
「君の言うとおり。それに……」
「それに何ですか?」
「1番目と2番目は誰なのかははっきり知らないけど、3番目は多分内田薫だと思う」
「なぜ内田薫ですか?」
「翌日、引越しする長谷川健也に何か言いたいことでもあったのだろう。そこで、死体を発見し腰が抜けて廊下にへたり込む。その時、管理人が後をついて行って、内田薫と死体を見つける」
「どうして、そう断言するんですか?」
大原警部は田中富士子から聞いた昨夜の事を思い出した。しかし、今はそれを新居刑事に言うべきではないと思って、話題を変えた。
「橘れいこと長谷川健也が一緒に喫茶店に入ったとしたら、二人はどういう関係だと思う?君は」
「いつの間に、そんな情報まで得たんですか。でも、考えてみたら、二人は親子ではないのは確実です」ここで、何か閃いたかのようだった。「情婦ですかね。だから、内田薫と別れ話をした」
大原警部は新居刑事の推理を遮って、喫茶店で得た証言を話した。
「警部、そんな情報もあるならもっと早く言ってほしいです」新居刑事は眉をしかめて続けた。「『あの子を離れないでください』という言葉を『内田薫から離れないでください』と解釈してもいいと僕は思います。なら、橘れいこと内田薫の関係は、親子関係ですか?先夫との間で生まれた長女が内田薫という事になりますね」
「本当の事ははっきりしていないけど、一応、橘れいこと話し合ってみたほうがいいと思うんだね。電話番号教えてくれ」
「はい、でも陶芸教室へ行けばいいじゃありませんか?」
「今日行ったんだよ。休業だった」
「何で一人で行ったんですか!僕も行きたかったんです」
「それより、橘れいこに連絡してくれないかね。今から会って話をしたいんだ」
「もちろん、僕も一緒ですよね」
「もちろん、君も一緒だ」
新居刑事は携帯を取り出して橘れいこの番号を押したけど、誰もでない。
「どうしますか?警部」
「橘れいこが行きそうな場所も分らない。困ったもんだな。もし」
「もし、何ですか?」
大原警部は答えなかった。
橘れいこが今行きそうな場所はどこだろう。もし、あの夜の出来事を見たのなら?もし、管理人に脅されている事も知っているのなら?
大原警部は急に立ち上がってドアに向かって。
「警部、どこへ行くんですか?」
「アパートだよ。急を要するから、早く車を準備してくれ」
いつもと違う大原警部に戸惑いながらも、これこそが真の警察のやり方だと、新居刑事はとても嬉しく思った。
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