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二人が現場に着いた時は大原警部が言った30分後よりさらに30分遅れた。急にコンビニのサンドイッチが食べたくなって新居刑事に買ってくるよう命じた。仕方なくサンドイッチを買って来たんだけど、大原警部は公園で食べたいといったのでしぶしぶ車を公園に走らせた。たっぷり時間をかけて吟味する大原警部の前でいらいらしながら歩きまわる新居刑事は、やっとの思いで我慢できた。


大原警部がこんな時間を無駄に使うことをするたび、新居刑事は自分が来た場所はちゃんとした場所なのか、疑い始めた。たが、噂によると、大原警部が取り掛かった事件は解決できなかった事件がないというので、我慢した。


「証拠収集は終ったかね?」現場についた大原警部はすぐ鑑識に訊いた。


「はい、今終ったところです。大原警部」大柄で肌黒な男性が答えた。


「後で資料を送ってくれ」


「はい!」


大原警部は目の前に建てているアパートを見た。どんどん増えていく、そして新しくなっていく周りの建築たちの中に、ひっそりと佇んでいるこのアパートはのどかで寂しそうな雰囲気を醸し出している。たが、こういう場所に限って殺人事件は起こりやすいかもしれない。なぜなら、殺人事件はいつも人の思いもよらない所で起こりがちなものだから。人が勝手に、ここでは起こらないと思い込んだのかもしれない。もったいぶった考え方をしたなと、大原警部は苦々しく頭を振った。


「大原警部、早く殺人現場に行きましょう」新居刑事は殺人が起こった場所で失態しないように、わくわくする気持ちを必死で押し殺した。


「やれやれ、あれほど言ったけどまだ行く気なのかい?」


「はい、自分の目で確かめたいんです」新居刑事はきっぱりと言った。


「なら行っていい」


2,3歩歩いた新居刑事は振り向いて大原警部を見た。


「警部はいかないんですか?」


「行かないよ」


「じゃ、僕一人で行ってきます」


「頑張ってね」


これを聞いた新居刑事は走ってアパートの中へ入った。


大原警部はアパート周囲を一回りしたなんの特徴もない普通のアパートだ。そして大原警部は管理人が用意してくれた一階の空き部屋へ入った。


まもなく鑑識の一人がノックして入って来て、資料を渡した。


大原警部は資料を手に取ってみようとしなかった。


「あっ、ちょっと」大原警部は出て行こうとする鑑識を呼びとめた。


「はい、なんでしょうか?」


「すまんが、苺牛乳を買ってくれないか?」


少し戸惑いはしたが、「はい」と答えた鑑識は出て行った。


資料に目を通すのは苺牛乳を飲んでからにすると決めた大原警部は部屋内を見回した。古いが手入れは怠らずにやっている。埃が積もってない。自分にとっては狭すぎる部屋だと大原警部は思った。


苺牛乳はまた来ていない。それまでに頭を休ませることができて大原警部嬉しそうな顔をした。


しかし、仕事柄から完全に事件の事を忘れることはできなかった。


このようなアパートで、なぜ一人の若い男性が殺されたのか?物証を探して犯人を突き止めるより、人間関係から出発した方がいいたと思う。人はみんな、「殺人犯」という結果にこだわりすぎている。事件が起こった時、人は常に早く解決しようと焦っている。物事には順序があって、一歩一歩しっかりと地面に足跡を残しながら進まなければいかない。ここに住んでいる住人たちは一体、どのような思いで殺された若い男性と付き合ってきたのだろう。そこにはきっと殺人の動機があるはず。


まあ、それを考えるのは苺牛乳を食べてからにしようと思った。それにしても、アパートのすぐ近くにコンビニがあった気がするのに、買いにいった人がなかなかかえって来ないと思って、ドアの方を見つめた。


それにしても、今頃、新居君は現場で大はしゃぎしないといいなあと、一人にやりとした。

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