第17話始まりの王1
なぜ、私の名前を…って、そうか、ラライラが居たわ。彼女が言ったのね
それよりもこの人は…
「あのぅ、アリエッタ様で宜しいんでしょうか?」
これを聞かずには居られない
「はぁ、君は何を聞いていたのかな?私の名前はアエリアだよ」
「え?あれ?そ、そうでした…先ほど言っておられました」
ふふとアエリアは笑って
「まあ座りたまえ、美味しい紅茶を入れてあげよう」
そう言うとアエリア自ら、紅茶を注いでくれた
ふわりといい香り漂ってきた
「二日酔いにも多少、効くかもしれんからな」
そう言われて少し効く気になってきた
マトラは有難く頂かせてもらうことにする
「さて、丁度二人揃った所で聞かせてもらうか。君らはなぜ、あそこに居たのかな?」
あそこ、とは、そうだ、エズラ…のいた森!
「もう恐らく、そこのラライラからお聞きになられてるようですが、調査です。そしてそれが秘宝であれば持ち帰り、人であれば連れ帰る。それが任務でした」
まるで上官に報告する様に話し始める
結論である任務の説明を行い
次に、その状況
入国した時の状況から始まり、影武者を置いたこと
そして馬を手配して、近くの村まで行った後に夜を待ち、そこから魔法を使用して空を飛びながら南の森へ行く
そしてラライラの精霊をと話せる特性を生かした調査など
無駄なくアエリアに話していく
それを言い終えると、一言
「以上です」
やり切ったと言わんばかりの説明なのだが
「いや君、面白いね。私にそんな説明をしてどうする気だ?気づいていないのかもしれないが、私はサウセスの貴族の娘だ。それも公爵家のな」
それを聞いた途端、ぶわりと嫌な汗が全身から噴き出すマトラ
「え、っと、いや、その」
マトラ自身も分かって居なかった
アエリアを見ていると完全に格上の、それも、最上級の人間だと勝手に認識して話していたのだから
「まあいいじゃないか。よく分かったよ、つまり君はあの祝福を頼んだ存在を探していたのもな。ただ、危なかったね?」
「え?」
エルフの宴、それも大地の大精霊に対して行われていたそれは儀式だ
そこに踏み込んだ、そして参加していた
「もし私が行かなければ君らはいつまであそこにいたのか分からなかった」
「それは、どう言う?」
「おそらくだけれどね、君らが来た時期がノーチェスの王が来た時期だとしたらだがー、既に1年前の事だよ?」
それは理解が出来なかった。いかにマトラが聡いとは言え、魔法に精通していたとしても分からない事である
「あの里ではせいぜい、数時間滞在したつもりだったろう。しかし振る舞われた酒を飲んでしまってはいけないね」
見るとその事を聞いてなかったのか、ラライラも絶句している
「っつ、て、どうし…」
「あれは豊穣の宴、そして言うなれば儀式魔法だよ。しかも時間としては数年は続く。しかしながらそんな時間は彼らにして見れば一瞬でありながら、短縮はできない」
カップから1口、アエリアは紅茶を飲んでから
「だからしかしそれすらも彼らは短縮するのさ、その魔力で、願いでね。君らは歪んだ時間のあそこに数刻居ただけで、1年も滞在したことになったんだよ」
つまりは、あの宴に参加した事で、ワインを飲んだだけで儀式に参加した事になり、僅か数刻が外の時間では1年間経過していた事になったという
「ありがとう、ございます」
そして、助け出されたのかと理解する。だからお礼を言った
「あそこでの正解は酒を飲まないこと。それだけだったんだよ」
そんな無理な事と、マトラは思った
目の前にいたのはエズラだ、魔王とも破壊の化身とも異名があり、エルフである事から存命が指摘されていたが、そもそもエルフなんてものが本当にいるだなんて思ってもみなかった
だからマトラは、好奇心に負けて
そして機嫌を損ねないように勧められるがままにワインを飲んだのだ
その結果が、1年もの時を無駄にした事になる
であれば、どうなった?あれから国は、どうなったのか
「あ、アエリア様、失礼ながら教えていただけますでしょうか。わが国と、私たちの状況を」
「マトラ、君は物凄く賢い。だからわかっているのだろう?おおよそは」
「ありがとうございます。おおよそ、ですが…」
そこからマトラが頭の中でシュミレーションを行った結果を話し出す
「ノーチェスは、滅びましたか?」
震える声で、話す
ラライラの目が見開いたのが見えた。そしてアエリアが目を伏せる所だった
そして、先ほどと同じように結果を先に述べてから理由を話し始める
「聞こう、マトラ」
「はい。私とラライラが戻らない、その結果ノーチェスは軍を動かし、サウセスに入ります。目指すのは私が報告していた南の森を調査するため。演習を装ったその行軍が本物であると気づかれるまでどこまで入り込めたかはわかりませんが、隠蔽を得意とするラライラが居ないためにおそらくはすぐにばれたのではないかと」
マトラとラライラは貴重な戦力である
マトラは貴重すぎる戦力だ。だから、脱走をしたのではと思われた可能性もあるだろう
だがそれ以上に、ラライラには秘密があった
両親から離されて、離島で育てられた秘密そのものだ
「第一王女であるラライラを、ラライラ様を取り戻すべく全軍での戦闘行為が行われ、結果は敗北…だれが活躍したかも想像できますが、それはもうどうでもいい事です…敗北の結果、ノーチェスは、サウセスに、吸収…されたのではないか、と」
「うん、良い読みだ。おそらくはそうなっただろうね」
涙で前が見えなくなっている。
豊穣の祝福のなにか秘密を手に入れればという想いで行動していただけだ
それが、こんな結果を生むだろうとは思わなかった
奥の手だって持っていた
マトラとラライラには貴重な転移系の魔法具もいくつか持たされていたのにもかかわらず帰れなかったのだ
「どうし・・て・・」
絶望がマトラを包む…
うつむき、涙をこぼして
そしてそれを見たアエリアは
「いや、すまないな。少し試してみただけなのだがね」
「え?」
「実のところ、1年は大嘘だ。君らが飛ばされた時間は二か月といったところだよ。そして今ノーチェス軍はサウセス軍と向かいあう一歩手前だ。君らの言うところの演習の予定が立ち上がっているところだよ」
ばっと、うつ向いていた頭を上げる
ぐるぐると、止まっていた頭が走り出す
先ほどのシュミレーションで放棄していた解決策を導き出そうと
だがそこにアエリアが待ったをかける
「君ら二人が居ないだけで滅んでしまう国とは一体何なんだろうね?」
さらに続ける
「前回の宣戦布告に至る経緯もそうだ、そこに何らかの意図が、下手をすれば悪意があるね。少なくとも10年前からだが」
そして、回り続けていたマトラの思考はそれを加味して加速する
「なるほど、なるほどです!たしかにおかしい、これはおかしい!どうして私達は滅ぶまでの影響力を持っているのか、わずか10年前に軍に拾われた私、おかしいです!」
「その答え、出たんじゃないか?」
「思い出しました。リメイ、その名前を。アリエッタから国を譲られた王が、確かリメイ。なぜ譲られたかは不明ですが。エズラはラライラをリメイだと言いました、それが、答え?」
そしてラライラを見る
ラライラはきょとん、としていた
「そう、リメイ・フォルム・ソラン。彼女の持っていたのは天運、カリスマだね。まあ、彼女が臨もうが望ままいがその周りは全ての支配を始めるのさ。彼女の為にね」
「これが、神の呪いと言われた程の天運ですか…」
「いやあ、リメイ、彼女の軍は手強かったよ。それこそ最強の四属性魔法使いがいたからね。そしてアリエッタは敵だった彼女を仲間に引き入れて大陸を統一。その後、リメイに国を譲ったのさ」
「まさか、150年前の大陸を統一しかけたアレも」
「詳しい文献は残っていなかったけどね。そこにも居たのかもしれない。転生していたリメイがね」
ふふふとアエリアは笑う
そして既にノーチェスの国へ向けて、ラライラが無事な事を伝えたと言った
それならばこの演習は、ほんとうに演習になるだけだろう
「まあ今回はこれでリメイの役目はお終いだ。なんせ、エズラと私、そして君が、マトラが気づいた。だからリメイの役割は発動しない。その昔、アリエッタが気づいた時、リメイ・フォルム・ソランはその役割を終えたのだから」
それに、と続けた
「それだけでは二人が居ないだけで戦争になどはなりえない、まだ何かある…その天運そのものを動かしている何かが。だからラライラが欠けただけで、ありえない方向に話がすすむのだ」
そうアエリアは言った
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