第18話始まりの王2
アエリアは、マトラが知りたいであろうことを話し始める
「お礼だ、話してやろう。メアリ、マトラとラライラに菓子を頼むよ」
いつの間にか傍にいたメイドのメアリにアエリアは指示を出す
「はい、アエリア様」
先ほどまでの重い雰囲気はもうどこにもなかった
アエリアから感じていた威圧感も薄くなった気がする
「まぁ君に色々考えてもらって、言ったら楽になったろう?ラライラ=リメイに気にすることはない。その昔にアリエッタがリメイを仲間に引き入れたときに色々調査されてね」
「調査ですか?」
「ああ、何せリメイは戦争など望んでいなかったんだ。不思議だろう?戦争を仕掛けてくるその親分が戦争を望んでいないんだ」
「民の声、ですか?」
「それも違った。彼女の周りにいるものが、自然と戦争を起こすんだ。色々な理由をみつけてね。まぁ利用されやすかったと言えばいいか…おそらく今回の宣戦布告もそうだ。しばらくしたら君らノーチェスは再び戦争を仕掛けたろうね。勝ち目があると勘違いして」
「それ・・は」
確かにその動きはあった。祝福による豊作、それで一時休戦したのは食糧問題があるだけではない
元々食料は減っていたのだ、そして十分に食料を得る手がそこにできた
ノーチェスは勝率を上げるために休戦したに過ぎない
「負けてもよかったんだ、ノーチェスは。そしてその後ラライラを旗印にクーデターを起こしてサウセスを乗っ取る気だったんだろうがね。そこまでできたらノーチェスの勝ちだ」
どうしてそれを、と言いかける
アエリアが答えを先に言った
「同じなんだよ、作戦そのものが。リメイがアリエッタと戦ったときにやろうとしていた作戦そのままなのさ。その時も失敗していたけどね。リメイ、彼女がその昔エヴァと呼ばれた王女であった時にやった作戦で、エヴァの時は成功していたらしいよ」
つまり、繰り返している、とアエリアは言った
「防ぐ方法は至極簡単。エヴァの物語を知っている人間が、それと同じだと気づいたときにその呪いは消える」
「呪い…」
「始まりのカギは、リメイが、いまだとラライラが四属性魔法使いと出会うこと。それにどんな意味があるのかは知らないが、きっと何かあったんだろうね」
あるいはそれは唯の偶然なのかもしれない。未だ解明されていない「運命」とでもいう呪いなのだろうか
「私がラライラと出会う事で…戦争に舵が切られたの…」
「まあ気にするな。当事者であるから困惑するであろうけどな?マトラ、君も戦争などしたくない人間だろう?居場所が欲しかっただけで」
ドキリとした。それこそが、マトラとラライラの行動原理だったから
「まあ、虐めるのはこの位にしておこうか」
そこまででマトラは不思議に思った。なぜこの人をこんなにも信頼しているのか
今の話が作り話だという事も考えられるし、なにより時間経過だ
1年は嘘だったとして、二か月すら嘘かもしれない
ただ、アエリアの言葉がすべて嘘だとは到底思えなかっただけのことである
◇
時は戻り、場所も変わり
サウセスの王が、謝罪を終えて国に帰る岐路の馬車
その馬車の列は20を超えており、多くの護衛が付いている
「ダフマン、マトラとラライラが帰って来てないと言うのは本当か?」
ダフマンと呼ばれた、中年の男が答える
「はい陛下、残念ながらですね。南の森という場所に入ると最後の手紙が届いておりましたが」
それは召喚魔法で呼ばれた小鳥が運んでくる手紙だ
ありふれたポピュラーな召喚魔法であり、習得している人間も多い
「マトラの小鳥、フィラが運んできたものです。それによると南の森に多くの精霊を確認したとありました」
「なるほど、ではそこで何かがあったのかもしれんな」
陛下は手を目に被せてため息をつく
「ラライラの精霊視が必要だったとはいえ、同行を許すべきではなかったか…」
「しかしマトラのことを師匠と慕っておりますからな」
「そうだな、それでどうする?どうやって探しに行く?」
ダフマンはそう聞かれて唸る
まさか帰ってこないなど、連絡が途絶えるなど思ってもみなかった為だ
「すでに5日、経っていますからね…ああそうだ、例の作戦を早めますか」
「例の?」
「ええ、国盗りの作戦です。破棄していた作戦を応用するのです」
それは、この宣戦布告で戦争を始めて上手く負ける
そしてノーチェスが油断しきる2年ほどを待って、クーデターを起こす作戦だった
しかしながらそれは撤回された
なので、この豊穣の恵みが得られるうちに再び国力を上げ、サウセスに好意的な態度で親交を深めておく
それだけの、借りがサウセスにはできているからこれは成功するだろうと
そこで兵士の合同演習を行って、そこに全兵力を投入
一気にノーチェスの国盗りをするという作戦だ
その作戦の立案こそ、このダフマンが主導し行っていた
応用、つまりその合同演習からそのまま攻め込むという所だけで行こうというのだ
「上手く行くだろうか?」
不安げに王は言った
「しかし、ラライラ様を失うわけにはいきませんぞ…」
「そうだな、それでいこう」
しかしながら、その作戦の成功率は限りなく少ない
だからこそさらに作戦を練る必要があると、その馬車の中で話し合われた
それからふた月が過ぎる頃
そこはノーチェスとサウセスが合同演習を行うという平原に来ていた
「ワシが死んでも、ラライラが居る。いいか、ワシの命などどうでもいい、ラライラをなんとしても探し出すのだ…探し出せれば、ノーチェスは滅びぬ」
国王は真剣な、そして色々と振り切った顔でそう言った
「陛下、お任せください。もしも陛下のお命を守りあげ、そしてラライラ様を救出した暁には」
「うむ、そもそもおぬしに嫁がせる気でいたのだ。問題はない、ルキウスよ、見事その手で救出せよ!それとな、ワシの命が失われようとかまわん。だから、頼んだぞ」
ダフマンの息子、ルキウスはノーチェスで最強の騎士だ
そして、知らされてはいないがラライラの婚約者でもある
様々な策略を練りサウセスに向かう。それが今日だ
兵は一糸乱れぬほどに精錬されている、そして武具や兵糧も豊富に揃っている
負けるという事はあり得ないと思われている
そして演習では、刃をつぶした剣で行われることになっている
だが当然ノーチェス軍のものは刃をつぶしてなどはいない
殺傷能力の手加減ができないとのことで、魔法の方は不使用との事になっているが当然魔法使いも大量に引き連れてきている
すべて通常の騎士と兵士に偽装してあるので、気づかれる事はないだろうとも
ここまで用意周到にして、あと2.3日後には合同演習が始まろうとする
その最後の王の演説中に、それは来た
ばさり、ばさりと音を立て、大きな鷹が一羽飛んできた
その寸前までその気配を誰も感じなかったのも無理はない。高度なその鷹には隠蔽が行われていたためだ
そしてあっけにとられているその場にいる全員の前に、一つの手紙を置いて、再び飛び立った
誰もが言葉を失う、そしてダフマンが駆け寄り慌ててその手紙を開封する
中から指輪が2つ、コロリと出てくる
地味な意匠が付いたそれはマトラとラライラが持っていたノーチェス限定の転移魔法が込められた魔道具だ
そして中に入っていた手紙を取り出し、震える手で読む
「これ…は‥‥」
そして読み終えると、へたりと座り込んで手紙を落とした
その指輪を見た王も、よろよろとダフマンの落とした手紙を拾い上げて読んだ
「まさ…か!?これは、誠か!?」
いまだ放心状態のダフマンに問いかける
「は、はい。この指輪は、本物です…マトラと、ラライラ様が持っていた物に間違いはありません」
「そう!か!」
王は安堵と、泣きそうな表情をした
その手紙に書いてあった事、それは極秘事項になった
そしてその後日行われた合同演習は何事もなく、無事に行われた
7日に及ぶ合同演習が無事に終わったのだ
ノーチェス軍はそれで帰っていった
その手紙に書いてあった事
それには、この合同演習でノーチェス軍が企んであるであろう事を書いたものだった
そして、マトラとラライラを無事に保護したという事
もしも企て通りに、作戦を決行した場合
ノーチェスは滅び、その後のクーデターも失敗するであろうことが記されていた物だった
最後に、記して手紙を送った者の名前
アリエッタ
そう、書いてあった
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