第16話ありていにいえば酔っ払い

さて、南の森では精霊とエルフが宴を開いている

これが大陸全土を覆った祝福の正体


そこに踏み込んだマトラとラライラはエズラと出会った


その不思議で綺麗な空間で、マトラはエズラの言葉を聞く


「ああ、よく見ればリメイじゃない、あなたも変わったわねぇ」


エズラはラライラを見てそう言った

次にマトラを凝視すれば


「あなたも精霊に愛されてるわね。でもなんで契約しないの?」



と言った。エズラが魂で人間を視ているなど、二人は知らないので意味もわからない事を言う人だと、マトラ達は少し不安になる


「リメイ?って誰の事でしょう…」


「わかんないわ。私も契約しないのって精霊人よりは見えるってだけでほとんど見えないのに」


二人で顔を合わせ、ひそひそと話していると急にエズラに手をつかまれた


エズラに手を引かれる

暖かくて、柔らかくて、細い指にドキリとする


「二人とも少し参加していきなさいよ、ワインもまだ少し残っているし」



そう言って、奥のエルフの舞う宴に参加させられるのであった


ラライラはそのワイン一杯で潰れてしまった。エズラは相変わらずリメイはお酒弱いねと笑っていた

ワインの銘柄を見ると、それは見知ったワインで高級なものだということは知っている、なかなか手に入らないと愚痴っていた同僚を思い出す



酒の進む中、ふとここに来た目的を思い出した

そしてマトラは今回の祝福についての事を聞く事にする


「この大地の祝福はあなた方が?」


すると隠すつもりもないのだろう、エズラがにこにこと笑いながら喋りだす


「ええそうよ、ここまで大規模になるとは思わなかったけど、エルフがこれだけ集まっているのだから当然よねぇ」


ここにはエルフが、数十人だが住んでいる様だ

皆見目麗しく、そして優しく接してくれる


「そう…なの。これっていつまでも、ずっと出来るの?」


「うーん。そこに積んである酒と、チーズとかが無くなったらおしまいかなぁ。もうパンは食べちゃったし」


「ではそれを補充すればまだこの祝福は続くと?」


そうなのであれば、国に戻ってこのことを進言し、大量のワイン等を持ち込むことを考える


だが


「うーん。出来ない事も無いけど、あれよ、一杯になったコップにはそれ以上なにも注げないのと同じで、これはそういうものでもないけど、意味はないわ。それに大地の大精霊もこれで十年はお腹いっぱいだと思うし」


エルフが行うこの行事、本来は10年に1度が限度らしい

それ以上頻繁にしても祝福はされないとの事だった。今回は久しぶりなので、一度の祝福で数年はその効果があると思われるとか


それ以降も、効果が落ちていくが、それほどひどいことにならないという


大昔はこの祝福が、きちんと行えていたらしい

それこそ10年毎に

だから昔は飢えなどなく、しあわせだったんだとか…


でもその結果、人が増えすぎ、エルフが散らばっていき、いつの間にかこの行事が出来ないまでになっていたと言うことをエズラは語ってくれた





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「だからね、それで私はアリエッタと旅に出る事にしたのよ。って聞いてるー?」


ほろよいのエズラに、アリエッタとは何者か?を聞いたところ、何故か昔話が始まったという所である

マトラも他の子と同じように、アリエッタの絵本は大好きだった


なにせ大陸を統一したとされる英雄譚の主人公


師匠の家に、絵本だけではなくその時代の歴史考察本や実在の証拠とか仲間の事についても色々と書いてある文献を見たことがある


当然それも学んだ


絵本の内容からは、彼女がどんな剣の使い手で、どんな魔法を使うのかとか考察して小さなころは真似をしたりしていた


そして目の前のエズラはその生き証人だ。

もうすこし話が通じれば、もっともっと詳しく色々と知りたいことはあるのに


「それでリメイってどんな人なんですか?」


そうマトラが聞いても


「ほら、そこで酔っぱらって寝てるじゃない」


となってしまい、なかなか確信にたどり着けない


一瞬武力行使と頭によぎったが、それだけ。

到底かなうはずもないと諦める


エズラの目で見えてる魔力量だけで、世界は終わりそうだと思った

そう思うと、自分がちっぽけで笑えてくるから不思議なものだ


正直エズラは言葉は交わしにくいが、非常にいいひとだと思うし

今酔っぱらって寝て、介抱されているラライラの方をみれば、物凄くエルフに優しくされているとわかる



ああ、どうして戦争をしようと思ったんだろう

それに協力しようと思ったんだろう


ノーチェスの大地が貧しいから、それもある

50年前の略奪に似た取引で苦渋を舐めさせられたから、それもあるだろう


ワタシが、孤児だったから…それも、あるのかな?


ワインを少しづつ口に含んでは飲んでいく


コップに注がれたワインが無くなるころに、その人は現れた




視界に銀色の毛をした生き物が、ゆっくりと入ってくる

ぼーっとしてそれを眺めていた


「やあ、お土産だ。エズラ」


「アリエッタ!約束覚えてたのね」


「もちろんだ、それにそろそろ酒もパンもなくなるだろ?宴が終わってもエズラは好きだったと思って持ってきた」


「嬉しい!」


それはとても美しい黒髪の綺麗な目をした女性だった


大きな銀狼の背に乗って、こちらを見下ろしている


「なんだ、客人か?よくここまで来れたな」


「ええ、アリエッタ、今日はお友達のマリアは居ないの?」


「あいつはまだ王都だな。またそのうち連れてくる」


アリエッタ…?

あの、アリエッタなの?でも本と、絵本と、姿が違う…あたりまえだけど


「ん?なんだ、この魂…リメイじゃないか!はは、すごい…いや、しかし、記憶はないのか」


「そうねー。でも、リメイはリメイだわ」


「そうだな、思いだすか、覚えていればあの後のことを聞きたいんだけどね」


「ねぇアリエッタ、ちゃんと祝福は世界に届いてた?」


「ああ、もちろん。これで世界は少し良くなればいいのだがね」



マトラは、少し酔っぱらった事を後悔した


(だめだ、あたま、回んない。アリエッタなら、ワタシの大好きな、アリエッタ…)






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目が覚めた


うあ、体重い…腕も重い…あと頭、めっちゃ痛い…ガンガンする


飲みすぎた……あれ?ここどこ?



窓からカーテンを揺らしながら優しい風が入ってくる


寝ていたベッドから起き上がると、まだ体がふらついているのが分かる



喉が、乾いた……痛いほどにカラカラだ



ガチャリとドアが開けられて、一人のメイドが水差しを持って入ってきた


「あ、お目覚めですかー?大丈夫ですか?顔、青いですけど」


「え、ああ、大丈夫…でもないかな」


自分の声がガラガラだ。何コレ、面白い…って、頭痛い……


「ゆっくりしてくださいね。これ、お薬です」


メイドはそう言うと、コップに水を入れて一緒に渡してくれた


ありがたい……水…喉がもう、限界だってくらいには乾いていたから


受け取った水を、薬と共に一気に飲み干した


「美味しい」


おもわず出た言葉に


「お連れのラライラさんはお庭でアエリア様と一緒に居られますよ。どうされます?もう少し休んでから行かれますか?」


ラライラも居るのね


あれ?ここ、どこなんだろう?


しばらく惚けていたが、薬と水を飲んだお陰か急に頭が回り出す


まって、確か南の森にラライラと、2人で行っていたはず!

それでエズラに出会って、それで……ワインをたくさん飲んで……


アリエッタと呼ばれる女性が現れて


大きな銀狼、あれ聖獣、だよね?しかもヤバいほど強力な気がする



残念ながら、記憶はそこ迄だ

マトラはメイドに言って、ラライラのいる場所まで連れて行ってもらう


豪華な家ね。見事な調度品…貴族の屋敷かしら?


足音さえしない絨毯が、その高級感をより感じさせる


廊下一面に絨毯とかどんな金持ちよ…ここ、ホントに何処なの?



庭に出て、その先にある屋根付きの庵に連れて行かれる


庭の手入れも完璧ね…すごい



「ええー!そうなんですか?」



聞き覚えがある声だ

ラライラがそこに居た



「あ、マトラ様!聞いて下さいよお!」


笑うラライラの向こうに、一人の女性が座っていた


長い、黒髪の女性……そして美しいと、マトラは思った

自然と口から出たその名前は


「アリエッタ、さま?」


するとその女性は立ち上がり、きれいな髪の毛をその手で跳ねる



「アエリア・ル・シャルだ。よろしくな、マトラ筆頭魔法使い殿」



そう言って、アエリアは微笑んだ

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