第4話アエリア教師のまねごとをする

その日からしばらくエリーシュとライザッハはアエリアの住む離の屋敷に滞在する事になった


午前中は、図書館で勉強


学園での勉強過程はジンが取り寄せて、アエリアがそれを予習と復習という意味でエリーシュとライに教えていく


そこでも、2人はアエリアに度肝を抜かれる事となる


その教え方がものすごくわかりやすいのである


そしてアエリアは教える内容を全て覚えているのでスムーズな授業を行った


それが2人には不思議だった

確かにここ図書館には学園で使う教科書なども納められているが、それをアエリアが独学で理解したというのが信じられないのだ


しかし、エリーシュやライの質問には全て答えるし納得出来るものだった


エリーシュが得意とする歴史などでも、より深い部分をアエリアは教えてくれた


剣一筋で勉強を苦手とするライは、ゆっくりと復習と言った形で理解できるまで教えている様はまるで本当に教師のように見えるのだった




昼食を挟んで、午後からは庭の広場でエリーシュは魔力の使い方を教わる


ライは剣の使い方、体の使い方だ


アエリアはたった1人で、天才と呼ばれているライザッハに剣技を


聖女の再来と呼ばれている程のエリーシュに魔法を教える


そしてその、アエリアの力量はその二人を持ってしても底が見えないのだ



「お姉様は、一体どれほどの魔法が使えるのですか?」


エリーシュが気になって訪ねると


「そうさな、おおよそ殆どは教えられると思う」


そう美しい笑顔で答える



「師匠は、これ程の剣の極みにどうやって」


ライがそう言えば


「己が何が出来て、何が出来ないかそれを知ることだ、できない事を出来るようになっていけば自然とな」


そう答えた


ライはすっかりとアエリアに対する認識を改めていた

初日にボコボコにされたのも大きいだろうが、今では師匠と呼ぶまでになっている




おおよそ1ヶ月が過ぎ、エリーシュとライは流石に帰らなければならない事となる


学園へと戻る日が近いのだ



「ここでお姉様に教わる方が、学びがいがあるのですけれど」


「ダメだよ、エリーシュ。学園で学ぶのは知識や使い方だけではないよ、それこそ世渡りのやり方など、今、そこでしか学べないものがあるのだから」


「僕もアエリア様に剣を教えていただくとより高みに上れそうなのですが」


「いいかライ、お前に必要なのは今は切磋琢磨する仲間だ。私では剣の上手さは教えられてもそれを振るい、仲間を作る場を与える事はできない、そのためにも学園で生涯信頼できる仲間を得るのだ」


「しかし!」


「あのな、お前が護るのは誰だ?目的と手段を取り違えるなよ。強くなる事ばかりを優先して護るべきエリーシュを放り出してどうする?」



そう言って二人を送り出す


乗り込んだ馬車が遠くへいくまで見送った


「ああ、楽しかった。エリーシュは本当、よい妹だ」


「はい、アエリア様」


「ライの坊主もなかなかサマになって来ていたからな、だが次に来る時にちゃんとできていなかったら余分にしごいてやろう」


そう言って笑う


「はぁ、アエリア様はライザッハ殿に厳しいですな」


「当たり前だろう?可愛い妹を護る騎士だ、それなりに強くなければ安心できんだろう」


そう言って笑うアエリアは、とても楽しそうだった

遠目に馬車をみながらアエリアは言った


「で、客人か?今度は誰だ」


今でた馬車とすれ違う様に、大きく豪華な馬車が此方へ向かって来ているのが見える


「おそらくは、ご当主かと」


「なんと、父上か?それはまたなんとも…困ったな」


「困りますか?」


「ああ、困るよ。なにせ、私は父上に今まで迷惑ばかりかけていたからね。合わす顔がない」


「ではお隠れになりますか?」


「そういう訳にもいかぬだろ?と言うかジン、笑っているな?」


「申し訳有りません、しかし、今のアエリア様がこのような事を申されるとは思いませんで」



この二か月のアエリアは以前と全く違う



あの日、メアリが痩せたアエリアを連れ帰った日から、それは始まった

一体何があったのか、メアリに問いただしても要領を得なかったのだが、その美しい女性がアエリアだというのは納得が出来た

あの美しかった奥方そっくりだったのだ


そういえば我々使用人を集め、今までの事を謝罪をしてくれたのにも驚いたし

知識が足らんといって図書館の本を一気に読破したのも驚いた

そして庭の手入れ、さらに狩りと驚かされっぱなしである


元々アエリアは引きこもりがちで、実のところ使用人ではメアリくらいとしか会話をすることが無かった

なのでその人となりを知る事が出来たのはそれが初めての機会だった


今までは、おどおどとしていたかと思えば突然キレて暴れるというイメージしかなかったのだけれど

あの日以降、聡明で美しくさらには強い

そんな尊敬できる女性になっている



「誰にでも弱い所はある。それにだ、今の私の姿を見れば、なんと言われるか想像がつくというものだ」


「奥方によく似ていらっしゃいますからね」


「だろう?エリーシュはたまに、お母様と私を呼んでいたぞ?」


そう言うアエリアは笑顔だ


「お嫌では無さそうですね」


「ああ、私もまだ幼かったが、母上の事はよく覚えている。とても美しく、優しい人だった。エリーシュは覚えてはいまいよ、だからこそ本来は私がその代わりになれたら良かったのだがな…」



あの頃のアエリアは自分を御する事はできなく、また子供だった


今は前世の記憶を思い出した事でコントロールが出来るようなったのだが


「今からでも代わりになれるものならば、なってやりたいと思っている」



「そうでしたか」



「ん?馬車はこちらに来ずに引き返しているな、エリーシュを迎えに来ただけのようだ」


ふう、とため息をつく


「少し残念そうですね」


「まあ、少しな。しかし時間猶予が出来たのは良い。どの道エリーシュから話を聞けば明日にでもまた来るだろう。さて、少しばかり片付けようかジン」


「はい、アエリア様」




その日、アエリアは夢を見た


それはあの、アエリアがいつも手入れをしている庭だ


そこには黒髪のほんとうに美しい女性がいて、小さな赤ん坊を抱いている


「アエリア、あなたの妹のエリーシュよ。仲良くしてあげてね」



「はい!お母様!」




ああ、夢か。覚えているとも


この頃のアエリアは、母が大好きで、妹と言われるエリーシュにはピンと来なかった…




場面は移り変わり、母はやつれた顔でベッドに横になっている



「アエリア……エリーシュをお願いね……」



それだけ聞くと、アエリアは父に部屋から連れ出され、二度と母と会う事は無かった



そこから、アエリアは少しづつ自分をコントロール出来なくなっていく



寂しかった



母に会いたかった


出来ることなら、また抱き上げて欲しかった


叶わないと知ってからもずっと




「アエリア、良く、頑張ったな」


これはアリエッタの記憶が言わせた言葉だ


以前のアエリアと別人なのではない


その魂は間違いようもなくアエリアのものだから。ただ、アリエッタの記憶がそこにあるだけだ


ただ、人格が変わるほど影響力が有っただけのこと



ふっと、目の前が庭園に変わる


「せわしない夢だな」



そこにいる母



「アエリア……いえ、アリエッタ様、ありがとうございます」



なんだと……こんな記憶はないぞ?



目が覚める

むくりと起き上がる

外はまだ暗い


「いや、まて……あれは何だ?母はまだどこかにいるのか?そんなはずは……」


そんなことはないだろうなと笑う



「母上に、ありがとうと言われてしまったな」



アエリアの両目から涙がこぼれ落ちる


「ふふ、私の願望が夢になったとしても、これは嬉しいものだな」



さて、寝直すかと、アエリアは再び横になった



ー本当に、感謝していますー



何処からか、声が聞こえたような気がした

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