謹慎処分

 ここで一つ。私が高校時代に唯一停学処分になった事件を話すとしようか。


 中学時代は少々ヤンチャをしていたこともあった私だが、高校は基本的に誰とも分け隔てなく過ごし、かといってどのグループにも属さない中立の生徒だった。

 無論暴力なんてもってのほか。

 みんな仲良くしようよ――と争いを止める立場だったのだが、サッカー部に入部したばかりの頃に一度だけ先輩と本気ガチの喧嘩をした。


 なんでそんなことをしたのか問われると、それはを強要されたことだ。

 私の世代から上の人は身に覚えがあるという人が多いだろうし、二十代、特に前半や十代ともなるとそんな時代があったのかと驚かれるかもしれないが、運動部の男子というのは大抵坊主にされる。

 これは中学でも通った道なのだが、高校生ともなるとかなり抵抗感がある。

 そりゃそうだ。なぜなら女子からの視線が辛いから。

 で、入部して一週間くらいすると二年生が圧力をかけ始めてくる。


「おい。いつ坊主にするんだよ」と。

 それにたいして、一年生はなんとか逃れようと様々な言い分けを並べたり策を労するのだが、一人、また一人と坊主頭にされ、とうとう私ともう一人の同級生を残すのみとなった。


 こうなると先に坊主にしていた同級生達は、ゾンビ映画のごとく坊主仲間に取り入れようと二年生側に寝がえり、とうとう私も屈することになってしまった。

 どこで坊主頭にしたかというと、男子トイレの和式個室――さっさと坊主にしたいらしい二年生がバリカンを持参し、前日にカットしたばかりの髪に容赦なく刃を突き立てられた。

 端からみると壮絶な苛めのような光景で、その理不尽さに唇を噛んで堪えた。途中トイレに入ってきた生徒はギョっとしていたことを覚えている。


 で、そこまでは古き体育会系の慣習に馴染もうと我慢していたのだが、その日に件の喧嘩は起こってしまう。

 部活が始まる前、これまた慣習で一年生が部活の準備など任されるのだが、遅れてやって来た二年の一人(トイレで坊主にしていったうちの一人)が、近寄ってきて「おー。朝から手間かけさせんじゃねぇぞ」と言いながら、不揃いな坊主頭をポンポンと叩いてきたのだ。


 ――はぁ!?手間かけさせんじゃねぇだとぉ!?


 と、疾風伝説 特攻の拓の一コマみたいに頭上に「!?」の吹き出しが出ると、その場で先輩に思いきり背負い投げをかましてやった。

 そこからはもう総合格闘技のように倒れた先輩を怯えさせる程度にやってしまった。


 その事件以来、一年生の不満は爆発し、二年生とは冷戦もかくやという状態となった。

 学校側も長年黙認してきた悪習に対処せざるを得なくなり、その年から一年生への坊主の強要、体育会系の縦社会の押し付けは禁止となる。


 まるでベルリンの壁が崩壊したように一年生は喜んでいたが、その影で古き体制の崩壊に導いた私は、ひっそりと一週間の謹慎を命じられるのであった。


 解せない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る