二つの宝物
混沌とした中学時代、現在の私の血肉となる二つの存在と出会った。
『小説』と『hide』だ。
漫画は昔から好きだったが、小説は小学生の頃に叔父の所有していた村上春樹作、「ノルウェイの森」上巻を読んで挫折して以来、すっかり読む機会がなかったが、中学校の図書室に陳列されてることを知った私は時間があれば読み耽るようになった。
昔から一つものにのめり込むと没頭する性質だったので、フィクションの世界に一度ハマると下校のチャイムが鳴るまで気づかないこともあったくらいだ。
それから現在に至るまで活字中毒、もとい活依存症になるわけだが。
hideとの出会いは、たまたま入店した某レコードショップで、吸い寄せられるように手に取ったベストアルバムだった。
当時、既にhideは亡くなっていたが、彼の存在は当たり前のように知っていた。
X JAPANのギタリストであったことはあまりに有名だったし、小学生の時にテレビで見た告別式の映像は、彼の偉大さを世に知らしめるには十分すぎるものだったから。
それまで漠然と「凄い人」とイメージしていた彼の曲を、その時初めて視聴したのだが――あれほど一つの曲に魂が揺さぶられた経験は後にも先にも一度もない。
それほど彼の曲には強いメッセージが込められていたのだ。
中学二年生になると、私は放送委員という役職に就く。
委員と堅苦しい名がついてはいるが、内容は昼と放課後に決まった校内放送を流すだけだった。
それだけならわざわざ委員会に属することもなかったのだが、放送委員は昼休みに好きな曲を流せるということを知り、すぐに誰もやりたがらない放送委員に立候補した。
世は※MD全盛の時代で、昼になると自分の好きな曲を流してほしいと、自らのMDを持ち込む生徒が殺到し、モーニング娘やMONGOL800、スピッツにSMAPと大衆受けしそうな曲を選曲しつつ、かなりの割合で自分が好きな曲を流していた。
私の選曲が気にいった先輩から音源は調達できていたので好きに流し放題。まさに
真っ昼間の学び舎にそぐわない曲を大音量で流し、同じ放送委員のM君と放送室でふざけあっては楽しんでいた。
そんなことを繰り返していると、とうとう教師から呼び出されて注意されてしまい、その後は先生の許可を受けた曲でないと放送できなくなってしまったことは後輩たちには申し訳ないと深く謝罪したい。
※ソニーが1991年(平成3年)に発表し、翌年の1992年(平成4年)に製品化したデジタルオーディオの光学ディスク記録方式。
2000年代後半以降、録音媒体としては主にフラッシュメモリに取って代わられていった。
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