3.第五話能力者
「遅いなぁ、優里の奴いつもならもう帰ってきている時間なのに」
「たまにはいいじゃない、きっと友達と遊んでて時間を忘れてるのよ」
「面倒事に巻き込まれてなければいいが」
夕飯時、都内のとある一般家庭、高校生の一人娘を持つ家庭のいつもとは少し違うなにげない一幕。
その何気ない日常は一本の電話によって、変貌を遂げる。
「噂をすれば優里から電話だわ、もしもし?」
「もしもし、渡辺さんのお宅でよろしいでよろしいでしょうか?」
「どちら様でしょうか」
「名乗るほどの者ではありませんが、あえて名乗りましょう、優里さんを誘拐させていただいた誘拐犯です」
その言葉を聞いた母親は電話を落とし、様子がおかしいと思った父親は側へと駆け寄る。
「どうかしたのか?」
「あなた、優里が」
青ざめた母親の表情を見た父親は電話を取り、声を荒立てる。
「優里! 何かあったのか!!」
「あ〜お父様もご一緒でしたか、初めまして」
「何者だ! 娘をどうした!」
「安心してください、娘さんは元気です危害は一切加えておりません。あぁ、もちろん騒がれるのは面倒なので今は薬で眠っていただいていますが」
「何が目的だ」
「目的、そうですね。娘さんの命が大事なら1週間以内に僕を見つけてください、警察に通報するなという在り来りなことはいいません、警察の力を使ってでも私を見つけ出してください」
誘拐犯からのおかしな要求に困惑しつつも、父親は音声を録音し始める。
「僕の声、優里さんの携帯のGPS、足跡はいくらでも残してあげますので」
「携帯の充電が切れるまでがタイムリミットというわけか」
「いえ、定期的に電話をこちらからかけさせて頂きますよ、そうじゃないと金銭要求をしていない相手を見つけるのは大変でしょうから」
「もう一度聞く、目的はなんだ」
「ただかくれんぼをしたかっただけ、という話を信じさせるのは難しいでしょうから。今思いついた即興の理由を教えてあげます、僕の目的はこの国への復讐ですよ、娘さんが選ばれたのはただ運が悪かっただけです」
※
翌日、優牙の通う中学。
「優牙〜ここの問題わかんないんだけど」
「ここは、今日習った部分だからノート確認しながらやってみれば自力で解けるでしょ」
先日の埋め合わせに2人の勉強会に付き合っていた優牙は放課後の図書室で机に向かっていた。
「テストに出てくる問題なんて、全部教科書に答えが出てるし、解き方も書いてあるんだから、それを覚えればいいだけだって何回言えば――」
優牙の言葉を遮るように携帯の音が静かな図書室に響く。
「うげっ、また本田さんだ、この前の件が、やっと落ち着いたと思ったのに」
前回の件は一般人では捕らえておくことが出来ないと言う理由から、男とツインテール少女の身柄はアイビスで引き取られ、優牙自身の手柄は輸送車の中で殺されていた四人の強盗団を警察に届け、決着が着いた。
結局、輸送車を襲った2人の動機はわからず、骨折り損に近い形ではあったものの。進展することがない以上、中途半端な状態を保持したまま何もしないというのが、優牙の選んだ選択肢だった。
「ごめん、ちょっと電話してくる」
「いってらー」
ひらひらと手を振る美香と、未だ変わらず不安そうな表情で優牙の背中を見つめる優那の距離感はどこかぎこちなかった。
「こーんな美女2人を差し置いて、優先するような男どう思う? 優那ちゃん」
「なにも、でも危ないことはしないで欲しいかなって」
「本当に健気だね、私じゃ敵わないや」
「もしもし、優牙くん? 今時間いいかしら」
「ダメって言ってもわざわざ連絡してきたってことは野暮用なんでしょう?」
「ええそうよ、ちょっと事件が発生してね貴方経由で黒いけど確かな情報を手に入れてくれる人に連絡して欲しいのよ」
「警察嫌いの人間だから無理だと思うけど」
「人の命がかかってるの」
「わかった、10分で向かうよ」
警察嫌いのアビスを丸め込んで手伝わさせる面倒さと、せっかくの憩いの時間を潰された事にやり場のない気持ちを抱えながら優牙はポケットに携帯をしまい2人の元へと戻る。
「二人ともごめん!! また改めて埋め合わせするから!」
「はいはい、行ってらっしゃい」「気をつけてね」
「行ってくる!」
自分の荷物を手に取った優牙は2人に手を振りながら慌ただしくその場を後にした。
※
「入るよー! 頼んでた物と調べものを~」
アビスの部屋の中に優牙が入るとつけっぱなしのコンピューターの音だけが部屋の中に静かに響き、いつもならアビスが居るはずの場所には頼んでいた物数点と、置手紙が置かれていた。
「珍しいな出かけてるなんて、頼んでたものは出来てるみたいだし監視システムは使えそうだから問題ないかな」
拳銃とホルスターなど少し前から調整を頼んでいた物が置かれたテーブルの上に手を置き、一緒に置いてあった取扱説明書&設計図と書かれた紙を手に取る。
「ホルスターはサイズピッタリだし、銃の方もスミス&ウェッソンのM&Pっていったっけ、握りやすくなってるし、よくわかってないけどこれで金属探知機に引っかからなくなってるんだよね。そういえば母さんがこういうの好きなのか家にたくさんモデルガンが箱詰めされてたっけ・・・モデルガンじゃなかったりして」
銃をホルスターにしまい書類をペラペラとめくり内容を速読する、優牙は用意してもらっていたヘッドホンを頭に装着し電源を入れた。
「優牙これを聞いているということは俺はいつもの場所から姿を消したということだろう。まあここを出る前に録音してるからそりゃそうなんだが」
「えぇ」
(先読みの事前録画じゃなくてここを出て行ったときに録音したってことは余程時間が無かったのかな)
「お前が今つけてるヘッドホンはボタン一つでマイク内蔵の無線機、通信機、電話、音楽プレイヤーを切り替えれるようになってる、バッテリーの持続時間は最低40時間、音楽を入れるためのメモリは1TB、ちなみに新しく楽曲を入れたい場合はスマホかPCからダウンロードしてくれ、詳しくは説明書に書いてあるから読め。一応お前の好きな歌手の曲は一通り入れておいた」
「用意周到な、メモリ内蔵のヘッドホン作って欲しいって言っただけなのに」
「銃の方は一通りの改造と金属探知に引っかからないようにする特殊加工の方は済ませておいた、マガジンは予備も含めて10個、弾薬は隠し戸の中に200発程予備がある、無くなった場合はどっかで適当に仕入れてくれ。ホルスターは手製でホルスターにもマガジンが2つまで横に入るようになってる。ただ壊れた場合はヘッドホンの方もだが、設計図を見て自分で直してくれ」
「その為の設計図ね」
「ここからは真面目な話だから聞いても聞かなくてもどっちでもいい。出会って少し経ったときお前がなんで情報屋をやってるのかって聞いたことがあったな」
「答えてはくれなかったけどね」
「その理由は戻って来た時、まだお前が生きててこの世界が残ってれば話せるようになると思う。だから死ぬんじゃないぞ、また会う日を楽しみにしておく。
マガジンポーチとサイドバックはおまけだ。達者でな、サイファーに気を着けろ」
「サイファー? 聞いたことない名前だけど、いまはいいか」
「でもアビスが居ないとなると、先に本田さんと会って情報を受け取った方が都合がいいかもしれないな、ここからだったら本田さんのとこまでは近いし」
そう思っていた矢先、優牙のスマホに本田からの着信が入った。
「もしもし優牙君? こっちに来る前に聞きたいことがあったんだけど」
「その前に、こっちの情報屋なんですけど、居なくなってました」
「居なくなってた!? じゃあ当てが外れちゃったってこと?」
「監視システムくらいだったら僕でも扱えますけど、その程度で大丈夫ですか?」
「まぁ確かな情報を調べてもらおうにもその元が無いって話をしようと思ってたの」
「僕が言うのもあれなんですけど、本田さんって結構無能・・・」
「私じゃなくて情報を集められない警察組織が無能なの!」
「とりあえず監視システムに何か映ってないか調べてみるので、最後に確認された場所とか色々教えてもらってもいいですか?」
「最後にGPSが確認されたのがお茶の水公園、現地に数人捜査員を送ったけど誰も見つかってないわ」
「わかったそれならお茶の水公園周辺のカメラで確認してからそっちに行くよ」
「よろしくね」
慣れた手つきで監視システムのキーボードへ手を伸ばし2つのモニターを切り替えつつお茶の水公園付近を映すカメラを複数表示させ確認していく。
「こっちが付近の建物とか公園に備えてるので、こっちがアビスが日本中に散らして設置してる隠しカメラ、正確には未来の遺産とか言ってたっけ。よくわからないけど」
両画面を素早く切り替えつつ、細かな変化や違いを注視して見るが、周囲には捜査官のような人物が見えるだけで不審な人物や物は見つからなかった。
「うん? これこっちには映ってるけど隠しカメラの方には映ってない、画角とかの問題じゃなくて、確実に映って―—」
カメラに映る人物と画面越しに一瞬目が合ったような感覚が走った優牙の視界から、画面に表示されていたように見えた人影が消え、他のカメラと同じ様にその場所には何も映っていなかった。
カメラを切り替えもう一度その影を探す、そしてかなり離れた位置にあるカメラには同じように人影が映り、一拍ほど置いてまた画面から目の合ったような感覚と今度は殺意のような物を直感的に感じ、カメラからその人影は消えた。
「こういうのは警察の管轄でも僕の知ってる分野でも無いな、瞬時にカメラから消えて、他の景色が変わってるってことはダミー映像を流されてるわけでもない」
はぁ、と重いため息をつきながら少し考えてスマホから電話を掛ける。
「また怒られるんだろうな」
「優牙? どうしたんだいこんな時間に」
「母さんに聞きたいことがあって、アイビスの人なら何か知ってるんじゃないかと思ってさ」
「また警察の手伝いをしているのか」
「最近は断るようにしてたし、母さんも嫌がるから本当はこんなことしなくていいんだけど、今回は人の命が掛かってるんだ。だから力を貸してほしい」
「わかった、どういう状況なんだい?」
「犯人の姿が防犯カメラとか現地では確認できないんだけど一定距離離れた場所で、カメラに映ることがあったんだ、すぐに消えちゃったけど。そういう不思議なことができる人って存在するものかな?」
「これは噂話で、私も実際に見たことは無いから正確にはわからないが、昔の人には能力者(ホルダー)という特殊な能力(ラック)を持つ人間が存在していたらしい」
「ラック? ホルダー?」
「理解はしなくても大丈夫だよ、そういう人間の中に優牙が見たような事象を引き起こせる人間が存在する、可能性もあるかもしれないって話だ」
「見ることのできない相手と戦って勝つ方法なんてあるの?」
「不可視でも存在がなくなるわけじゃないだろう、先制して何か手を打てば可能性はあるかもしれないね」
「相手の認識の外から接近して、先手で見失わない方法を編み出せば」
「見えなくても実体が存在するなら」
「いくらでもやりようはあるね、ありがとう母さん」
「今日の夕飯は唐揚げだ、遅くならないように帰っておいで」
「わかった」
通話を切り再び本田へと電話をかけ直す。
「もしもし本田さん? 用意してほしいものがあるんだけど」
※
「——であるからして犯人は何かしらの電波妨害または中継器を使いお茶の水公園から連絡、そして電話しているように見せているのだと思います。つまり元を見つけなければ被害者の発見は困難を極めるでしょう」
「捜査は進展しました?」
「するわけないでしょ、そっちの方は?」
「一応進展のありそうな情報はあつまりましたけど、正直警察の管轄じゃないっていうのが僕の判断です。それと頼んでたものは?」
「一応用意できてるわ、手錠3つ。用意できるのはこれが限界だったわ、私が普段携帯してる奴も入ってるから慎重に扱ってね」
「約束はできないかも、犯人逮捕には協力するけど」
※
「どうして警察ってこうも無能なんだろうな」
お茶の水公園の中心フードを深く被り佇む者が誰に言うわけでもなく、周囲を監視する捜査官たちを見つめながらつぶやく。
「ちょっと小細工しただけでたった一人の棒立ちしてる不審人物も見つけられないなんて。まぁ、こっちのテリトリーに不用意に入っちゃったらしょうがないんだけど。
さっきの謎の視線だけ気にはなるけど、今の所は何の問題も無いな」
「僕もそう思うな。でも、ちょっとした小細工が人間や機械の視覚を誤魔化しちゃうレベルなら仕方ないと思うけど」
男が声のした方向を振り向くと左手首に手錠が掛けられ、透明な膜の中から現れた優牙に驚き、逃げようとするが。
優牙の右腕にも着けられていた手錠とワイヤーを挟んで繋がれていたため、一定の距離以上は離れることが出来なかった。
「どうする? 大人しく捕まって誘拐した子の場所を教えるっていうなら手荒なことはしないけど、抵抗するっていうならチェーンデスマッチで相手するよ」
「くそっ」
手錠とワイヤーを強引に切り離そうとする男だったが両方とも簡単に外れる訳は無かった。
「無駄だよ手錠はともかくワイヤーの方は特殊な素材で作られてるから簡単には切れないし、なんだったら警察の応援が来るまで自己紹介でもする?」
「するわけないだろ」
そういいながら右腕で何かを投げるようなモーションを起こした男はそのままワイヤーを引き、優牙を引き寄せる。
「何も視界から外せるのは姿だけじゃないのさ!」
優牙の耳に風を切る音が聞こえたのと同時に、何かによって左肩が切られ、手錠が破壊された。
「見つけてくれたから名前くらいは教えてあげるよ、俺の名前はダズ。もちろん偽名だけど」
ダズと名乗った男は刃の付いたリングのようなものとブーメランのように見える武器を腰のポーチへとしまう。
「ふー、飛び道具相手は分が悪いな」
「真っ当な殴り合いなら勝てるって? 舐めないで欲しいんだけど」
視界からダズの姿が消え、距離を一瞬にして距離を詰められた優牙は腹部に当てられた拳によって強い衝撃を受けた。
「残念だけどあの女の子は君たちには返さないよ。人質なんてつまらない使い方より、こう、もっと効果的に使う方法を思いついたからさ」
殴られた衝撃で吹き飛ばされた優牙は車の走る道路まで吹き飛ばされ、運の悪いことに走行中の車に跳ね飛ばされ宙に浮かぶ。
「まずっ、流石に意識が飛ぶっ」
高く宙に浮かびあがったのを利用しダズを視界に捉えフックショットを打ち込んで元の場所へと復帰する。
「ちっどうなってんだよ! 車に跳ねられてまだぴんぴんしてるなんて。勘がいいだけかと思ったけどお前もホルダーか!?」
「母さんも言ってたけど僕はそのホルダーってのを知らないから自分が該当するのかどうかもわからないんだけど」
「クソッ」
ダズが下投げで何かを放るのと同時、その手から放たれたものと共に視界から消える。
「消えた、けど見えないだけで存在はしてるはず」
見えない何かを捉える時、やみくもに探すという行為でも、1度に広範囲を薙ぎ払うことが出来れば発見の可能性は多少の変化がある。
だからというわけではないが、優牙は直感的にフックショットを発射し壁に刺さらない程度に伸ばしたところでケーブルを掴み、そのまま横へケーブルを振る。
「いてぇ」
「そこかっ」
声のした場所へとホルスターから抜き出した拳銃を向け引き金を引いた瞬間、腰のあたりに激痛が走った。
「なーんてな」
距離を取るため数歩、振り返りながら距離を取り2発銃弾を放つ。
「無駄だろ、銃を撃つ前に民間人が居ないか見るために一瞬のラグがある。甘すぎるよお前」
今度は左から脇下へと一撃を加えられる。
「あーあと、その位置気を付けてな。ちょうどさっき投げた俺の武器が戻ってくる場所だから」
加えられた不意打ちに近い衝撃を抑え込めずふらふらとよろめいた先で再び風を切る音と共に、目の前に出現したブーメラン2つが優牙の両眼へと突き刺さる。
「はぁ、これで流石に死んだよな」
仰向けで倒れ込んだ優牙の顔からブーメランを回収し、ダズは軽く嗚咽を出す。
「自分でやっててあれだけど、俺グロNGなんだよなぁ。どうしよ今日眠れなくなったら」
「大丈夫だよ、今日はゆっくり眠れるさ檻の中でね!」
いきなり、そして2回目の手錠をダズは左手に手錠をはめられ手首を強く掴まれる、そのうえで肩を掴みながら勢いを付けた優牙に思い切り頭突きされる。
頭突きをされた衝撃で倒れ込みそうになるダズだったが、掴まれている手首と自分に着けられた手錠の先にある優牙の腕によって、よろけるだけで倒れ込めはしなかった。
(視界が悪い、完全に目が直せてない証拠だ。でもこの距離なら何も外すことは無い!)
「クソが」
(さっき顔面で食らった時に少しだけ弱点が見えた気がする。この人の能力は自分で回収するときには安全の為に、相手に当てる時はぶつかる直前に可視化される)
「距離が近すぎて足技は使えないが! 吹っ飛ぶときはお互い様なら迂闊には飛ばせないでしょ!」
「そうそう簡単にやらせるほど俺は甘くねぇ!」
ダズが力の限りに腕を振り、無理やりにでも手錠を壊そうと試みる。
しかし、お互いの腕に軽く食い込むだけで終わり、力の流れに身を任せる優牙のせいで壊れるような兆しも見えはしなかった。
「無駄だよ、僕はあなたが諦めるまで絶対に逃がすつもりは無い。誰かの命がかかってるっていうなら尚更ね」
「なら、今度は殺し損なわねぇぞ」
手錠をはめられた側の腕をつかみ返し、そのまま優牙を直上へと持ち上げる。
(体格は僕と変わらないのにどこからこんな力が出てくるんだ)
理解不能の力に一瞬優牙の思考が鈍った瞬間だった。
確実に我に返るほどの大量の金属音が響き、金属の束が宙に向けて投擲される。
「距離を稼いでくれるならこっちにも攻撃のしようはある」
持ち上げられた右側の関節を外し、そのまま脚力+加重&遠心力で力任せに右足を振り下ろす。
「はっ、それを待ってたんだよ!!」
ダズが腕を下ろし、空中での姿勢を崩された優牙へとダズが腕を伸ばし、ホルスターへと手を伸ばす、そして迷いなく互いの腕をつなぐ手錠を打ち抜き。
そのままの流れで優牙へと膝蹴りを繰り出すが、そこまでは読んでいた優牙の手が当たる直前でダズの膝を押し返し、姿勢を直して着地する。
「少し種明かしをしてやるよ、どうせ今度は殺すからな。俺のラックの1つは【流動】って言ってな、お前の目にはブーメランかなにかに見えてるかもしれないが、本来短時間宙に飛ばせて殺傷力があればなんでも構わないんだよ。
俺の意思1つでどの位置どの角度からでも、攻撃できるんでな!」
「だろうね、だから僕も戦い方を変える」
ダズの元へと走りだし、それと同時に優牙の視界からダズが消える。
「戦いながらその能力の欠点がいくつか見つかった、その中でも攻略の糸口になりそうな大欠点が、1つ。その能力はあなたが認識していない物は、消せないってこと」
優牙が目印を頼りにダズへと掴みかかり、そのまま再び頭突きを打ち込むそして視界の身動きを取り辛くするために空へと投げ飛ばす。
「足跡、焦って動くときに飛ばす土や砂埃、そして足音。いくら隠そうと努力しても焦っていれば多少のボロは出る!」
「それがどうした! てめぇは死ぬんだよ! 無数の刃に貫かれてな!」
ダズがそういうのと同時、背中や足、腕にいくつもの刃が刺さり、肉が切られ血が飛ぶ。
「悪いけど、アドレナリンが出っ放しでねさっきからほとんど痛みは感じなくなってるんだ」
頭上を舞うダズに狙いを定め、強く踏み込む。
「これだけビルがあるとやりやすそうだ」
飛び上がり蹴りを入れながら正面のビルへとフックショットを打ち込み高速で巻き取る、そしてビルの壁を足をバネにし踏み込んでさらに加速しながらダズを蹴り上げる。
それを何度も繰り返すうち、完全に意識が飛びかけているダズの身体の中心へと地上へ向け右足で踏みつぶすように蹴り抜く。
「ソニックライジング! なんちゃって」
地面に叩きつけられ砂埃が柱のように舞い上がる、下がアスファルトやコンクリートじゃなかったのは尚更よかったが、ダズ自身の傷はしっかりと治され、命に別状はなさそうだった。
そして、物音と騒音を聞いてか集まった捜査官たちが優牙の元へと駆けつける。
「というか、気絶させちゃったらまずかったのかな」
「君! そこで何をしてるんだ!」
「事情はあとで適当に説明するから、警視庁の本田って人に連絡してもらえますか? 近くに居ると思うので」
そう捜査官に言いながら視界に入らないように銃を回収し、ホルスターの中へとしまう。
「それと、この人の両手に手錠を。僕の方はちょっとだけ血が足りないので寝ます」
力を完全に使い果たした優牙の服はボロボロでそこら中に自身の血が付着し、体の方は傷1つないとはいえ、ダズを死なせないために治療を先回しにし、自分を後回しにした、そのうえで激しく動き回った上での出血量は危険なものになっていた。
それもあってか、ダズの真上へ覆いかぶさるように優牙は倒れこむ、完全に意識を手放して。
※
「お疲れ様」
現場付近の病院、倒れた後そのまま運び込まれた優牙は目を覚まし、後始末を終え身元保証人という事で来た本田と話していた。
「多少後手には回りましたけどね。犯人の方は元々の話通り警察の管轄じゃないと思うので、誘拐された人の情報だけ聞いて、専門家に引き渡すのがいいと思います」
「それがね、犯人を移送中にまた襲われたらしくて、行方不明になったわ。誘拐された女の子はその数分後に庁の前で倒れていたのを発見されて、犯人が捕まってないこと以外はハッピーエンドって感じね」
「相手の方が行動が早かったって事ですね、僕が力尽きてなければ」
「いいのよ、あなたがいなかったらそもそも被害者が帰ってくることもなかったかもしれないしね」
「もう体調も大丈夫なんでしょ? 送っていくわよ」
「じゃあ、今日はお言葉に甘えますよ」
せっかく捕まえた犯人を逃がしてしまったという悲報を聞いても、元々警察では相手するのも不可能だと思っていた優牙は、落胆もしなければ、本田同様被害者が戻っていただけで十分だった。
戦い始める前に比べて少しだけ悪くなったしかいに苦労しながら優牙は帰路へとつくのだった。
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