3.第四話 忍び寄る影
「そうか、俺は間違っていたんだな」
「うん、残念だけど。本当のストーカーの方は捕まえてここに来る途中に突き出してきたから、罪は償うことになるよ」
「なにからなにまですまないな」
「別に、僕は何もしてないよ、それに本当の事が全部わかったわけじゃないしね」
「礼は言わせてくれ、君のおかげで自分の罪の深さがよく分かった」
透明なガラス越しに俯く満の姿を見る優牙は全ての真実がわかってない事に多少の罪悪感も抱いていた。
「それじゃ、僕はこれで。ちゃんと罪を償ってね満さん」
「あぁ」
面会室のドアを開け、出て行った優牙は出口で腕を組みながら待っていた女性へと軽く頭を下げた。
「本田さんありがとうございました。わざわざ話す時間を作ってくれて」
「別にいいわよ、ストーカーを捕まえてくれたし。あなたの言う通り不幸な人を作ってしまったのは私たち警察のせいだから」
「それはそうです、僕には関係ない話ですけど」
「また何か問題を起こすときは呼んでね、事後処理くらいはしてあげる」
「起こしませんし、金輪際危ない事に首を突っ込む予定もありませんよ。周りの人間を巻き込まないようにするためには、自分が危ないことをしないのが一番ですから」
「それもそうね」
戦う準備はしても、戦う必要は無い。
なにも身の回りに危険なことが起きないならそれに越したことは無い、自分の周りの人を守るだけの力だけあればいいと、優牙は心の底からそう思うのだった。
それから二年後。
優牙の元に警察官である本田から一通の報告を受けた、後藤満が収監されていた刑務所内で自殺した、と。
そして、物語は動き始める。
※
2014年10月30日。
「ハッピーハロウィン! お金出さないと皆殺しにしちゃうぜ! ヒャーッハッハッ」
透き通った秋空に響き渡る似合わないアサルトライフルの銃声、相も変わらず治安の悪い東京の一角で中学二年生になった優牙は電話に出ていた。
「うん、今日は早めに行くようにするよ。それまでは二人で楽しんでね。
え、銃声が聞こえるって? 気のせいじゃない? 多分電波が悪いんだよ」
要件を伝え終えた優牙は急ぎながら電話を切り、銃声のする方へと目線を向ける。
「いつも通りだけど、お祭り騒ぎを目の前にして大人しく傍観は出来ないよね」
腕を大きく回し、優牙は強盗にあっている銀行へと目線を向ける。
「久しぶりだから飛ばしていこう」
客の人質を見張っているのが二人、カウンターの先にいる銀行員たちに銃を突き付け金を出すよう急かしているのが二人。全員で四人の強盗団を視界に入れ、ガラス張りになっている銀行のドアへと走り出す。
ガラスを割りながら四人の注目を集め素早く間を詰めながらカウンターの傍にいた二人を殴って無力化し素早く残りの二人へと視線を向けようとするが、その前に二人から銃を向けられる。
「動くんじゃねぇ!」
「おっと、少し油断しすぎたかな」
「手を挙げてそこに膝を着きな! じゃないと人質を殺すぞ!」
「殺せば? 僕が市民の安全を守る警察官に見えるなら多分眼科に行った方がいいと思うけど」
「なんだと!!」
間抜けに構えている二丁の銃に両手でアンカーを放ち、二丁とも絡め取りながら残りの二人も無力化する。
「ごめんね、こっちにも飛び道具はあるからさっさと撃つ方が最適解だったよ。それと僕は一応警察関係者って事になってるらしいから、市民の安全は守るよ。
って聞こえてないか」
気を失った四人の強盗団の手首を縛り銃の弾を抜きながら電話を掛ける。
「なに、今日はあっちこっちで強盗が起きてて暇じゃないんだけど」
「奇遇ですね、その強盗団の一部を捕まえたので引き取って欲しいんですけど」
「あー、すぐに回収に向かわせるわ」
「早めにお願いします僕はこの後用事があるので」
「なに、また美人のガールフレンド二人とデート?」
「デートじゃないですよ、ただ会って遊びに付き添うだけです」
「そういうのを世間一般ではデートって言うのよ」
強盗団を銀行の入口の方へと運びながら、そのついでに優牙は割ってしまったガラスと、天井に着いた弾痕へと手をかざす。
すると、みるみると割れたガラスの破片と天井から落ちた破片が元あった場所へと戻り、元通りに直ってしまった。
「流石に割ったままにはできなからないし、後で本田さんに請求されるのも困るからバレないうちに直しておこう。あ、あと服も直しておかなくちゃ」
アンカーが突き出たときに内側から破れ穴の開いた服も上から撫でるように手をかざすと、穴はふさがり元通りになった。
「あ、あの、ありがとうございました。おかげで助かりました」
「いいんですよ、市民の安全を守るのが警察の仕事です。僕は警察じゃないですけど」
お礼を言ってきた銀行員と人質になっていた市民たちを軽くあしらい、近づいてくるサイレンの音を頼りに外へと強盗団を運ぶ。
「お疲れ様です、これが強盗団の四人と持っていた銃、それと弾です」
「お、お疲れ様です! 確かに受け取りました。いつもお世話になっております!」
「それと、本田さんに謝礼とか賞状とかはもういらないですって言っといてください」
「はっ! 伝えておきます!」
最近はトラブルに巻き込まれることが多くなり、仕方なく警察の治安維持に協力するようになった優牙はトラブルなどが起きたときに人員不足の場所へと手を貸していた。
結衣奈にはもちろんバレ危ないことはするなと何度も念押しされたが、見過ごせないほどに治安の悪化した東京を見逃すことは優牙にはできなかった。
※
「おっそーい!」
「ごめんごめん、少し道が混んでてさ警察車両が多くて来るのに手間取っちゃったんだ」
「それならいいけど、もう少しで帰ろうと思ったんだよ?」
「それは、間に合ってよかった」
14歳になった美香と優那、そして優牙の三人の仲はいまだ変わらず。
こうして休日を共に過ごしていた、そしてそれは危険なことに巻き込まれ首を突っ込む優牙にとって心の癒しになっていた。
「優那もごめんね、今日は楽しみにしてたのに」
「ううん、来てくれただけで嬉しいよ。優牙くん最近は学校でも上の空なことが多かったから」
「本当にね、授業中も窓の外ばっか眺めてて全然授業に集中してる感じじゃないのに、先生に刺されても問題なく答えてるし、テストの成績もいいしさー」
「テストは、そうだね。数学は少し難しいけどあとの教科は教科書に答えが出てるし、簡単じゃない?」
「ぜんっぜん! それを覚えるのが大変なんじゃん」
「国語の作文とかは苦手だけどね」
何気ない会話の一つ一つに安心する優牙は座っていた椅子の背もたれに深く腰掛け、少しだけ目を瞑った。
「お疲れみたいだね」
「いつもそうだけど、疲れた顔してるから。少しだけ心配になる」
「私たちにはなにも言わないけど、優牙は何か頑張ってるんだろうね」
「二年前のあの時みたいに?」
「うん、あの時から。あの時から一回り大きくなった感じがするの、遠くに行っちゃったようなさ」
「寂しい?」
「それはもちろん、優那ちゃんもでしょ」
「うん」
目を閉じている優牙に聞かれないように手話で会話する二人は、どこか悲しそうにしていた。
目を閉じて休んでいた優牙の携帯が鳴り響き、直ぐに目を開いた優牙は電話相手の名前を見てため息をつき電話に出た。
「はい、優牙です」
「優牙君? いまさっきの強盗犯なんだけど輸送中に襲われたみたいなんだけど、様子を見に行ってくれない?」
少し間をおいて優牙は二人へ頭を下げた。
「ごめん二人とも! 急な呼び出し受けちゃったから行ってくる、埋め合わせは近いうちにするから!」
「「行ってらっしゃい」」
口上は快く、それでも表情の曇っていた優那と美香を背に優牙は再び電話を耳に当てる。
「本田さん、場所は?」
「輸送車ごと新宿方面に向かっているらしいわ、強盗犯が逃がされるのはともかく襲われた警察官は二人共重体でいま病院の集中治療室にいるわ」
「外傷は?」
「特になし、銃に撃たれたようなケガも打撲痕も無かった。でも二人とも綺麗に全部の関節を外されておまけに内臓もぼろぼろ、正直人間技には思えないわね」
「人間技に思えないか、それを僕に相手させる理由はよくわからないんだけど」
「素手でアサルトライフルを持った四人組相手に突っ込んでいくくらいには無茶苦茶だから大丈夫だと思うわ。本当に危なかったらさっさと逃げていいわ」
「わかってる無茶をするつもりは無いよ」
※
所々が長い時間の経過と共に風化し、崩れたビルが立ち並ぶ普通の人には目にも手にも触れることのない場所、それが境界都市新宿。
目標のトラックはもうすでに優牙の視界の中に入っていた。
「あれが目標。うん、迎えに来た人が乗ってたやつとナンバーは同じだ」
護衛がいるような気配も無く、車両を操作しているであろう運転手と助手席に座っている可能性のある二人目の人物、それと後部座席に四人の強盗団。
相手にする分には問題は無いはずの六人もしくは五人の敵に優牙は事前情報のせいで、仕掛けられずにいた。
そして、その不安は車から飛び出た黒い影によって危険だという確信へと変わった。
「今何か、いや気のせい――」
優牙の視界に一瞬だけ映った黒い影、気のせいで済まそうとしたその些細な現象はそれが慢心だったとわからせた。
鈍い音と共に勢いよく地面に叩きつけられた優牙は、激突の直前に勢いを横に流し近くの廃ビルに突っ込む形で止まった。
「攻撃された感覚はある。でも姿が見えない、トラップに引っかかったわけでもないとしたら、考えられるのは」
何者も居ないはずの地面から、蹴り上げられたように舞い上がった砂埃を見逃さなかった優牙は何も居ない所へと拳を振る。
予想とは相反して当たらなかった拳だったが、予想は合っていたのか後方からまた一撃見えないものからの攻撃を受ける。
「殺意は感じるけど、刃物とか銃器を使ってこない」
それはつまり、姿を見せる見せない以上の条件として、真っ当な殴り合いで優牙を圧倒するだけの自信と実力のある相手ということ。
「これ以上深入りしないほうがいいって警告の段階なのか、それとも」
再び砂埃が上がり、感覚として何かが近づいて来ている。
「僕が子供だからって舐めるのも大概にしたほうがいいよ」
付近に散乱していた瓦礫にフックショットを打ち込み自らの元へ手繰り寄せる、先ほどの蹴られた位置と回避のパターンをある程度考慮して当てようと試みるが、瓦礫は一直線に手繰り寄せた優牙自身に向かってくる。
当たる直前にジャンプし、瓦礫同士が衝突し舞い上がった砂埃を見ながら空気の流れを注視する。
そして、一点。
追撃のために下から飛び上がって来たのか、砂埃が不自然に動いた場所を鋭く右脚を蹴り下ろす。
「三度目以降は逃がさないよ」
深く入った脚をそのまま重力に乗せて地面へと踏みつける、着地の時には既に逃げていたのか優牙の脚に踏みつぶした感覚まではなかったものの、勢いそのままに地面と衝突した脚によって、大きく砂埃が上がった。
「素早すぎるのがあなたの敗因だよ、空気を揺らすようなスピードで来なければやられなかっただろうに」
死角方向の砂埃が割け、その位置に向けて優牙は鋭い回し蹴りを打ち込み。それと同時に優牙の脚が風を切る鋭い音と、骨の砕ける鈍い音が順番に響き、最後には見えない何かが廃ビルの壁に激突した音が境界都市内に響いた。
「あっ、いまの回し蹴り、ドクを蹴とばすのと同じような威力でやっちゃった。流石に蹴り飛ばしたときに治してるし、死んではない、よね?」
安否確認のために衝突した場所へと向かった優牙の前には黒いマントのようなものを装着した男が倒れていた。
「光学迷彩? それにしてもだいぶ出来がいいような、戦いながらでも人一人隠せるなんて。都合がいいから少しだけ借りていこう、使い方わからないけど」
物色しているうち、マントの下にあったホルスターと拳銃も拝借し、トラックの追跡を再開した。
「弾は入ってるし、都合がいいのはサプレッサー付きってところだね。でもこんなもの持ち込むのはいかがなものかと思うけど」
※
追跡していたトラックが停車しているのを確認し、廃ビルの上から見下ろす。車から降りているような気配も、なにかをしているような気配もなく。
「さっきの人を待ってるのかそれとも別の目的があるのか、どうにも関りがあるようには見えないんだよな」
たとえ強盗を計画した協力者だったとしても失敗した相手をわざわざ助けるような危険を犯すほど強盗達は優秀には見えない、他言されて困るような情報を持っているんだとしても、生かしておくメリットはそこには存在しないわけで。
「マントの方はボタン一つで消えれるみたいだし、上手くやってみるか」
光学迷彩のマントに身を包みトラックへと近付こうと身を乗り出した時だった。
「動くな!!」
女性の声と共に、撃鉄を起こす音が聞こえ、優牙はその場に硬直した。
「手を挙げて両手を頭の後ろに、そのままこっちを向くんだ」
なにかで口元を遮っているのか多少こもった声に指示されるまま優牙は手を上げ振り向いた。
(警察の人だったら僕の事は知ってるはず、それに境界都市内に警護以外で警察が入る例はゼロに等しい。ということは)
「っ、優牙」
「その声、聞きなれてる気がすると思ったら」
「どうしてこんなところに居る!」
「警察のお手伝いだよ、母さんは危ないからやめろって言ったけどそういうの聞くような性格じゃないのはよく知ってるでしょ?」
ため息をつきながら目出し帽を外す女性はブロンド色の長髪を揺らしながら、優牙との距離を詰める。
「相手が誰かわかって戦っている、ってわけではなさそうだね」
「そんなにやばい相手なの?」
「それに関しては何も言えない、優牙を守るためなんだ、わかってくれ」
「納得できる話じゃない」
「それもわかってる」
「それに、母さんこそなんでこんなところに居るわけ? 母さんの仕事って一体」
「それも帰ったら話す、だから今は――」
「みーつけたっ♪」
ピンク色のツインテールが、優牙と結衣奈の視界に入り手に持っていた標識のようなもので、ビルごと二人は吹き飛ばされた。
「くっ気づかれてたか」
「母さんは下がってて! 僕が相手するから」
「優牙!」
飛ばされるまま後ろに身が流れていった結衣奈が着地のために態勢を持ち直したのを確認した優牙は、反撃のために宙に舞うビルの残骸を蹴とばしながら、フックショットを放ってツインテールの女との距離を詰める。
(リーチと破壊力はあっても、そう何回も空中で振り回せないはず)
「まずは確実に、地上に落とす!」
フックショットで得た推進力をそのままに右足を上げかかと落としの要領で鋭く空中で打ち込もうとするが、かかとが当たるより先に脇腹に標識が突き刺さる。
「そんな甘い考えは私には通用しないよん♪」
「怪力女め」
「女の子にそんな言葉を使う悪い子は~。ぺちゃんこになっちゃえ♪」
空中で素早く転身したツインテールの少女によって振り下ろされた標識によって地面に叩き落とされた。
「まったく、母さんの前で格好つけたのにこんなざまじゃ格好悪いな」
「あれれ~、車とかならぺしゃんこになってそうな強さで殴ったはずなのに。
君、結構頑丈なんだね」
骨の砕けた散った感覚のある優牙の傷は少しずつ治り、叩きつけられた身体を少しずつ持ち直し立ち上がった。
「神経は傷ついてないな、ちゃんと痛みを感じる。大丈夫、まだやれる」
「怪我が治るんだ、面白いねぇ君」
「治るだけじゃなくて、治すこともできるけどね。でも、あなたは治す必要が無さそうだ」
「え~、女の子には優しくしなさいってお母さんに教わらなかったのかな?」
「暴力的で尚且つ怪しい女の子じゃなければ優しくする方がいいんだろうけど、今更弁明できるとも思ってないでしょ?」
「それもそうね、じゃ、殺し合いを続けましょうか」
優牙が完全に態勢を整えたのを見計らって標識を振りかぶりながら少女が近づいてくる、先ほどの空中戦闘で分かったことといえば、空中でもそれなりに動き回れる身軽さと見た目で分かる標識のリーチの長さ、そして純粋なパワー。
(リーチを埋めるために足技の特訓を受けたのに、真っ当な殴り合いじゃなかったら意味がないし、それ以上にパワーで負けてたら意味が無い)
「小手先だけで勝てるほどあまくないだろうけど。悪い賭けじゃない気はするし、大人しく諦めるか」
「何をしようとしてるか知らないけど、さっさと死んでもらうよ!」
振り上げられた標識は鋭く優牙の左肩を肉を切り裂きながら刺さり、完全に切り落とされる前に左腕で、標識を止める。
「あはっ、避けられなかった?」
「避けられなかったんじゃなくて避けなかったんだよ、骨を切らせてもあなたの気を失わせれば、僕の勝ちだからね」
「そんな状態で、こんな至近距離でどうやって私を気絶させるのかな?」
「至近距離での戦闘なら、標識無しの分片手が使えなくても僕の方に分があるよ、残念ながらね」
先ほどの男から奪って居た拳銃の銃身を右手で強く握りグリップで少女の首元を素早く狙う優牙だったが、標識を手放し少女は素早く距離を取った。
「んもう、どうなったら切り落としかけの腕を動かせるの~? 殺せる気がしないんだけど。最悪の場合連れて帰ればいっか、気は失ってくれるんでしょ?」
身体を切り裂いた標識を引き抜き放り投げ、真っ赤に染まった服と共に肉の裂け目がどんどんと繋がっていく。
「とりあえず標識は取れたし思い通りには行ってないけど、目的の半分はクリアだからよしとしよう。勝てるかどうかは別問題で」
「良い事教えてあげる、私の主戦は格闘なのここからは容赦はしないよ♪」
「生憎とこっちも戦うなら素手同士の方が都合がよくてね」
互いに身構え、お互い隙を窺う。
手数をそんなに出していない優牙に対し迂闊に出れない少女と、純粋な戦闘能力で少女に負けている優牙は互いに一歩踏み出すことは出来ない。
「これじゃあ埒が明かないから、私が先に。殺してあげる」
(まだ左腕は動かないけど。仕方ない)
接近してきた少女の拳を蹴り上げ、右手を地面につき押し上げながら少女の腹部をそのまま蹴り上げる、自分から突っ込んで来ている相手を空中に流すのに体の傷を心配する必要のない優牙は足の骨を折りながらでも受け流し打ち上げるだけでいいため、無駄なパワー負けしている点での不足はなかった。
「捉えた! こっからはこっちのターンだ」
態勢を立て直した優牙はそのまま少女の胸ぐらを掴みながら頭突きし、そのまま力の限りに宙へ放り投げた。
「動かない左腕の借りは返させてもらうよ!」
放り投げた少女へ向かい飛び上がった優牙は飛び蹴りの要領で、下からさらに打ち上げるように蹴り砕いた。少女は頭突きの時点でひるんでいたのか心配していた空中での反撃は無く、蹴り上げた時の怪我は攻撃と同時に治しているため少女の命に関わることはなかった。
「おっとと、気を失っちゃってるか」
気絶してしまった少女は打ち上げられてから力なく落ちてきた、空中で受け止めそのまま少女の頭をかばいながら一緒に地面へと落ちた。
「優牙!」
少女を地面に寝かせ砂埃を払う優牙に、遠くで見守っていた結衣奈が近寄って来た。
「一応倒しはしたけど、これでいいの?」
「あ、あぁ。もう一人の男は既に収監してる、彼女も同じ場所に送ろう」
(うちの部隊が六人がかりでかかって負けた相手をこんなに簡単に倒してしまうなんて、昔から不思議な力を持ってるとは思っていたが、ここまでとは)
「彼女が送られる場所の話なんてどうでもいいけど、いったい何者なの? 標識を発泡スチロールみたいに軽々と振り回す女の子なんて僕は初めて見たけど」
「その話は今は出来ない、一般人にどこまで情報を開示していいものか、私も悩んでいるんだ」
「巻き込まれたのは僕の自業自得だけど、詳細を話す気が無いなら彼女の身柄は渡さない、彼女本人から話を聞いた方が早いだろうからね」
「ま、待て! 彼女の身柄を受け渡すまで時間がある。私がわかっていることを全部話そう、だから危険なことはしないでくれ、頼む」
強気の優牙に押され観念した結衣奈は少女に高速具を着け、目を合わせる。
「まず、母さんはなんの仕事をしてるの?」
「そこが一番難しい部分なんだが、信じられないとは思うし私も全てを思い出したわけではないんだ。でも、一つだけ確かなのは私はいや、優牙、多分君もこの時代の人間じゃないんだ」
「話が跳躍しすぎててわからないんだけど」
「私は今アイビスという、私と同じ境遇の者たちの組織で働いてる、といっても自警団のようなものだが」
「同じ境遇ってことは、未来人ってこと?」
「そうなるんだろうな、14年前この国に何が起きたかはわかっているかい?」
「日本の人口が約8000人増えて、この場所境界都市新宿が生まれたっていう」
「そうだ、そしてその日に増えた約8000人に私と、優牙も含まれているんだ」
「理解は出来るけど、それと今の状況がどう繋がるのかよくわからないんだけど」
「未来の人間だとわかっているのか居ないのか詳しいことは知らないが、私たちを狙う組織がいてねそれが彼女達だ」
「母さんがどうして事情を説明できなかったのか納得できないんだけど、僕も彼女の組織に狙われる可能性があるってことだよね? 尚更説明すべきなんじゃないの?」
「優牙自身も何度か狙われたことがあるんだ、それを未然に私やドクが防いでいた。優牙には普通の人生を送って貰いたいんだ私たちのように他人の血で手を汚すことのないように」
理屈は理解できる優牙だったが、納得は出来ていなかった。
危険に巻き込まないために守っているという結衣奈自身も敵からは狙われている存在で、いつまでも過保護に守り続けられる立場の人間ではないのだ。
「言ってることの意味は分かる。でも、それでも納得は出来ない本当に僕も狙われているんだとしたら、僕が狙われているせいで回りの人達が傷つく事があるんだとしたら、僕は自分を許せないから。だから、僕も戦うよ。母さんに止められようとその意志は曲げない」
「優牙、それは」
「僕のエゴだよ」
「わかった、それならもう私から言うことは何もない」
「ありがとう母さん、その人の事よろしくね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます