第6話 魔王の存在

私は既に12歳になった


生きる術には困らなくなっていた


家族もみんないて、幸せな毎日で


友達だって出来た


ほんとに、毎日が楽しくて…



だから、油断していた



この世界に「魔王」が生まれるって知っていたのに



油断していたんだ









「ねえシロンちゃん、最近人族の人、増えたね」


私は食堂で見回しながら言った


今日の晩御飯はエルウッドさんとこの食堂で食べようって事になったからここに来て食べてたんだけど、ふと人間の冒険者がちらほらといる事に気が付いた


エルウッドさんは狼系の獣人でここの店の店主である


「うんそうだね。父の話では最近国交が順調らしいよ」


「ふうん。そっか」



深く考えずに返事をした

そもそもあの女神、私を人族に生まれさせてくれたらチートてんこ盛りだったのになあ…


はぁ、いけない。もうその事は気にしても仕方ないと割り切ってたのに思い出してしまった


獣人でも発動するチートを見つけないとな、なんて思って色々してるけどどうにも見つからない

小さい頃に気が付いた鑑定くらいのものだ


「そういえばハルちゃん、お姉さんに赤ちゃん産まれたんでしょ?」


「そうみたい。まだ会えてないんだけどねー」


「おう、ハルちゃんシロンちゃんも早く相手が見つかるといいな!あはははは!」


「もう、エルウッドさん変なこと言わないでよ!私もシロンちゃんもまだまだ先の話なんだからさ」


「でもフユちゃん、もう子供産んだのかー大きくなるのは早いねぇ」


ここは私ら親子代々でよく来ている食堂なので、エルウッドのおっちゃんとも仲がいい

父ちゃんとか兄ちゃんとか姉ちゃんと来た、思い出の食堂でもある


もっとも、味よりもうちから近いからよく来てたってのがあるけどね


「んじゃ、シロンちゃん帰ろうか」


「そうだね」


はやく会えるといいねぇなんて言いながら、その日は解散した


家について玄関をあけてただいまを言う

誰もいなくて、一人で暮らしている

ちょっと寂しい

父ちゃんからは姉ちゃんのいる里に行くかと言われたけど、一人で暮らすのもいいかと思って残っている


それでも私、女の子なので一人暮らしはちょっと不安なんだよね

だから家には幻術かけてる

見えなくなる幻術

あと、人が入ってきてもなんかいやな気分になって出ていくんだ

幻術の応用、まぁ人払いの魔法みたいなもんかなぁ


まぁセキュリティは万全って感じ



うちに帰ったら、いつもの日課をする


火魔法の練習


最近は触れても燃えない火ってのを出せるようになってる

幻術じゃないよ

圧縮しまくって、黒くなった火の玉

今まではこれが触れたものは一気に燃えてたんだけど、今では自分の意思で燃えるタイミングを操作できるようになった

まぁコツなんだけど、純粋な魔力でコーティングしておくような感じかなぁ

それで燃え移らないようにしてる


ちなみに昔感じた不安、コレが雲に突っ込むと爆発するんじゃないかってやつ

こそっと雨の日の夜に試したんだけど…当たってたわ

夜空に太陽が生まれたんじゃないかってほどの爆発で、雲全部吹き飛んだ

まぁ威力はあったねぇ純粋な火魔法だけじゃないしコントロールもできないけど


ともあれ、この技術で雲の中でも移動できるようになったの

自分の魔法で死ぬとか勘弁願いたいですし


毎日これをやってたおかげだと思うけど、今ではなんでも一瞬で発動できるまでになった



そんでそれが終わったら就寝


明日はどこに狩りに行こう…て思いながら寝る・・・・







それは明け方も近い、深夜だった



「ん?何…このにおい」


焦げ臭い匂いが鼻について目が覚めた

やばい、火魔法の制御誤ったかな


飛び起きて、周りを見るがなんともない

だけれども焦げ臭い…


まどから光が差し込んできていたので、寝すぎたかとも思ってカーテンを開けると



「街が、燃えてる?」



私は慌てて外に出る、そして家の結界の外に出ると、急に音が大きくなる

結界内だと音もあんまり聞こえないんだよね…とか思っていると



キャアアアア!



助けて!やめて!




え?何!?あちこちから悲鳴が聞こえてくる

自分の影が幾つも出来るほど、周りは燃えている


「おら、しねえ!」


そう叫びながら、


少し向こうで小さな女の子を抱いた母親に切りかかろうとする男が見えた


私はすぐに反応出来なかった


ざしゅ



悲鳴を上げながら、血飛沫を撒き散らしながらその母親の首が舞う


「え?」



母親が抱き締めていたその赤ん坊に、その男はとす、っと剣を降ろした



「え?」



夢?何コレ……殺した?



足元に母親の頭がころりと転がってきた


あ……市場の、エリールさん?

姉ちゃんがバイトしてたとこの、娘さんだ…最近子供生まれてたはずの…え?さっきの子供…



私が呆然としていると、そこに


「ハルちゃん!逃げろお!」


「エルウッドさん!?」


食堂の、おじさんが私を庇ってさっきの男に斬られる所だった

私にエルウッドさんの血がばしゃりとかかった


私、私は、私は、私は!


「ああ、あ、いやああああああああ!!!」



私の制御出来なくなった魔力が荒れ狂う


一瞬で手足に黒く、四角い魔力が現れて上空に飛び上がる

ここから逃げようと思った意思で魔法が発動したのだ


「くそ、飛びやがった!」



その男が言ったが、私の耳には入らない



「あああ!何これ何これ、幻術、幻術?ちがう、ちがうの?」



しかし先程のエルウッドさんの血が、私にかかった血が生暖かい



足元見える街の至る所から火の手が上がっていた


何処からかビュンビュンと私目掛けて弓が飛んできて、足を貫く



「ひぐっう!」


痛い、いたい、いたい


これ、現実なの!?



頭が整理できない……あああ


貫かれた足を見て、血の気が引いた






死ぬ





そんな感覚が、死の感覚が私を支配する


やらなきゃ……やられる……



今の間に、もう一本矢が私を貫こうと飛んで来る


「火炎結界」


見えない炎の結界魔法を張る

矢は私に届くまでに燃え尽きていく



足の矢を、魔法で燃やして消した

怪我の部分は、服を破いて止血する


そうだ、シロンちゃん!


私はそのまま飛行魔法でシロンちゃんの家に飛んでいった

目の前に大きな屋敷が見えてくる



「よかった!まだ燃えてない!」



シロンちゃんの家は様々な結界とかで護られているから、火が付けれなかったのかな


なんて思いながら入口に行くと


扉が破られて、壊されていた


私はそのままどたばたとシロンちゃんを探す


「シロンちゃん!シロンちゃん!どこ、何処にいるの!」



すると廊下に1人の女性が倒れていた


私は駆け寄って声をかけるが、返信がない




ぞわり




まさかシロンちゃ……


ちがう、これ、お手伝いさんだ


「ごめんなさい」


私はそう言って彼女を床に寝かせると再びシロンちゃんを探す


そうだ、気配察知!



「だめ、心が静まらない、察知出来ない」


仕方なくシロンちゃんを探してそのまま奥に進むと、幾人もの男の死体があった

切り口からしてシロンちゃんだろう


倒したのか、そう思って男をよく見る


人族の冒険者?


どの死体も、尻尾とか角とか、そういったものはない。



嫌な予感がした



私は火魔法で灯りをつけると、そのまま奥に行く


「お姉ちゃ……」


声!


行くと、そこにシロンちゃんが居た


「シロンちゃん!」




「おね、え、ちゃ」












「ねえ、嘘だよね、シロンちゃん。なんで、なんで」


シロンちゃんは、妹を抱き締めていた


その背中に、数本の剣を生やして

床には真っ赤な大量の血が水たまりを作っていた


抱きしめられた妹は、まだ息があると思い引き離すが背中から突き刺された剣が突き抜けて……


シロンちゃんの妹も息を引き取った


「嘘だぁ、幻術だよね……嘘だぁ……」


私はゆらりと立ち上がる


「嘘だよぉ……シロンちゃん……シロンちゃん……」



涙は出ない……それどころか心がどんどん静かになる


気配察知が使える


まだ幾つか、この家に人がいる


私はその部屋に行くと



「くそう、あの娘、思ったよりやりやがったな。仲間が3人もやられちまった」


「お前らが弱すぎんだよ、あんなガキに手こずりやがって」


「うるせえ!あいつ強かったんだぜ?まあお前が妹を引きずり出してくんなきゃ2人とも危なかったけどな!ギャハハ!」


そんな会話が聞こえてくる


そうか、コイツらがシロンちゃんを……





「みろよ、あいつの使ってた刀、業物だぜ?」


「ああ、この家だけ燃えないと思ってたけど予想通り金持ちだったみたいだな、結構金目の物がありやがる」


「最後に楽しんでやればよかったかなあ」


「おめえ、あんなガキがいいのかよ」


「うるせえよ、良いだろうが……結構キレーな顔してたな。首だけハネにいくか」



ぼっ ぼっ ぼっ

火魔法が発動する



「許さない……」



「あん?なんだあ、まだ居たのか」



「お前ら、許さない!」



私の魔力が暴れる


火魔法・黒輪


黒く回転する極薄の火魔法


それを男の首へ飛ばす


「おい、気を付けろ!狐族だ!こいつらー」


そこまで言った所で反応できなかった2人の首を飛ばし、そのまま燃やした


「はあっ、はあっ、はあっ」


呼吸が荒い、私、人を殺した。けれどそんな事よりもシロンちゃんの姿が目に浮かぶ


冒険者の男が燃え尽きて、持っていた刀がそこに残る





私はそれを拾うと、怪我をした足を引きずりながらシロンちゃんの元へと歩いて行った



もう動かない、シロンちゃんの所へ


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