ずっと一緒に
「ラエル! 亜空間からの次元震確認――――! 封鎖が解除された模様!」
「よし――――よくやってくれた。全艦に連絡! 亜空間封鎖は解除された。友軍をまとめ、一気に始まりの地にワープする!」
「了解! TW隊、ボール隊に帰投指示、出します!」
激戦続くラースタチカのブリッジ。ダランドからの報告を受けたラエルノアは、即座に連合艦隊全艦にワープ許可を出す。既に戦闘開始から四十五分が経過。
艦隊の損耗は大きくなっていたが、それでもまだ彼らは戦う力を残していた。
しかし――――
「ドモヴォーイとユーリーからの連絡は?」
「ドモヴォーイは健在です! ですが、ユーリーの反応は……」
「わかった。なら、私たちラースタチカは、ユーリーが向かった亜空間座標を経由して跳躍する。彼女を置いて、私たちだけ先に行くわけにはいかないからね」
「……わかった、お前の言うとおりにしよう。ラエル」
ラエルノアのその指示に、ダランドを初めとしたブリッジクルーは誰一人として異論を唱える者はいなかった。
「置いていったりはしない。絶対に――――」
ラエルノアは静かに頷いて席に座り、正面の宙域をまっすぐに見つめて呟いた――――。
――――――
――――
――
『な、ん……ですと……ッ!?』
『馬鹿な……なんということを……っ!』
チェルノボグとストリボグ。
二人の創造主が共に驚きの声を上げた。
ビッグ・チェルノボグに搭載された無限のエネルギー。
それを暴走させ、自爆させる。
さすればこの亜空間も、通常空間にいる連合艦隊も。
なにもかもが吹き飛ぶはずだった。
チェルノボグにとっても、それは覚悟の自爆だった。
もはや彼に予備の肉体はない。創造主としての力をティオによって今度こそ完全に奪われたチェルノボグに、この自爆から逃れる術はなかったのだ。
それは黒き神チェルノボグが、自らの命と引き替えに掴んだ勝利のはずだった。しかし――――ああ、しかし!
「うおおおおおおおおお――――ッ!」
「はあああああああああ――――ッ!」
「……っ! う……っ!」
『な、なにを……!? 貴方たちは何をやっているんですか!? 何をしようとしているんですか!?』
収束し、今にも全てを吹き飛ばそうと膨張する漆黒のエネルギー。それは宇宙を生み出したビッグバンの衝撃にも匹敵する極大の力だ。
しかし、それは押さえ込まれていた。
ミナトが、ユーリーが、そしてキアが。
三人共にその身から直視することすら出来ない程の力を発し、ビッグ・チェルノボグの自爆を食い止めていたのだ。
「ここまできて――――やらせるかよッ! テメェの好きにはさせねぇ!」
「ミナト一人じゃキツそうだったからさー! 私もちゃんと、付き合ってあげるー!」
「二人の力は、私が導かなくては、上手くいきません。このままこの力を別次元に送ります――――!」
『なにをしている!? それは君たちの力でどうにかできるものではない! そんなことをすれば、君たちも何もかも残さず――――!』
漆黒のエネルギーと虹色の光。それらが激しく拮抗する中、ミナトがその渦に突き立てた聖剣ヒストリアが砕け折れ、エネルギーの渦に飲み込まれて消滅。
ミナトは更にその力を増して両手をその渦に叩き付けると、自身の手の平が裂け、鮮血が迸るのも構わず不敵な笑みを浮かべた。
「はっ! 放っておいても同じ事さ! 覚えておきな、ストリボグのおっさん! 勇者ってのはな――――どんな時でも諦めねぇから勇者なんだぜっ!」
『放っておいても、同じ事――――……どんな時でも、諦めない――――』
『な、何をこんな時に偉そうに! 私だってねぇ、今のは命張ってたんですよッ! これでようやくヴェロボーグさんとの約束を果たせると――――! そう思って命を賭けたんです! それなのによくもまあこんな――――!』
「あはは……っ! 命賭けてるからなにー? そんなの、ここにいるみんなとっくに全部賭けてるよ――――っ!」
『こ、この――――!』
「私は――――あの時ミナトとユーリーが来てくれなければ、消えていました。我らが神の思いを知ることもなく。おいしいお料理を食べることもなく――――」
三人の放つ輝きが増す。それは全てを破砕しようとするチェルノボグの闇を徐々に押し込み、削り取っていく。
しかしどうだろう。その輝きを放つ三人もまた、その姿が光の中にぼやけ、まるで彼ら自身が光となったかのように朧になっていく。
「――――私にとって、この世界はとても楽しかったです。そして、その楽しさを――――これからも、ミナトやユーリーと一緒に、続けたい」
「うん……私もそうだよ、キア。絶対に……終わらせたりなんてしないからっ!」
「そうだぜっ! キアの夢も、ユーリーの夢も! 俺の夢も他の奴らの夢も! まとめて全部、面倒みてやらああああッ!」
『やめろ――――! やめろやめろやめろ――――! ヴェロボーグさんに敗北するならばまだしも――――貴方たちのような! いきなり現れた、どこの誰ともわからない脇役に――――この私の欲が劣るなど、敗れるなど! そんなこと、あっていいはずが――――!』
チェルノボグが叫ぶ。それは普段の道化じみた余裕のある態度ではない。
焦りも露わに、口からつばを飛ばし、今にもその輝きに飛びかからんばかりの激昂。怒りだった。
『ミナト! ユーリー! キアもそこにいるのかい!? 急いでラースタチカに戻ってくれ! ワープはもう――――!』
通常時空への障壁を切り裂き、純白の船――――ラースタチカがミナトたちの遙か後方から突っ込んでくる。三人の姿を見たラエルノアは安堵の声を漏らし、必死に呼びかけた。だが――――
「へへ……! ラエルか! なら、他のみんなも無事だな――――!」
「やっほー、ラエル! 頼まれた仕事、ちゃんとやっておいたからねー!」
「どうか私たちには構わず――――行って下さい」
『っ!? 君たちは何を――――!?』
ラエルノアの目には、光の中で振り向く三人の表情を見ることはできなかった。
あまりにも眩いその放射。その向こうから聞こえてくる三人の声だけが、最後の情報だった。
「今までありがとよ――――後は、頼んだぜ――――!」
瞬間。漆黒と虹。
二つの極大エネルギーは、辺り一帯全てを飲み込んで対消滅を起こす。
『やめろおおおおおおおおおおおおおおおおッ!』
響き渡るチェルノボグの断末魔すら飲み込み、亜空間全土を輝きが照らす。放出される膨大なエントロピーの渦。ラースタチカのブリッジにすら吹き荒れる、凄まじい光の風。そして――――
(私たちに逃げろって、最後まで言わなかったね――――?)
(言うかよ――――ずっと一緒だって、言っただろ)
(そうですね――――ありがとう、ミナト――――)
その光の風の中。ラエルノアは三人の声を聞いた気がした。
だが、それは駆け抜ける閃光のように過ぎ去り、遠く去って行った――――。
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