最後の機神


『いっくぜええええええええ――――ッ!』


『マインドリンクは一度私に合わせて下さい! そこからはシミュレーション通りです――――!』


『はい! お願いします、クラリカさん!』


『よしっ――――行くぞみんな! モード、だ!』


 それは正に、光速の出来事だった。


 超加速された全面戦争の中、チェルノボグの操る全長1800mの巨大機動兵器めがけ、青白い尾を引いて飛翔するクルースニク・トリグラフ・バーバヤーガ。


 三機は互いに渦を巻くような螺旋機動を描いて一点に集まる。

 そして次の瞬間。


 クルースニクはその全身を上半身と下半身に分離。トリグラフは三顔それぞれから真下へと引き裂かれるように割れ、バーバヤーガは自らを覆う装甲板を脱ぎすてると、脚部の巨大なスラスターを二つに展開して切り離す。そして――――!


『合わせろ――――!』


『待っていました、ミナト。こちらの準備は出来ています』


 三機がそれぞれ分離したその領域に、巨大な白い戦闘機が亜空間から出現。

 それを操縦しているのは、――――キア。


 下半身を切り離したバーバヤーガが、魔女の大釜ヴェージマ・ペチカを輝かせながらフォーメーションの中央へと移動。


 バーバヤーガの上半身に、左右に展開されたクルースニクの上半身が覆い被さるようにして接続。特徴的なバーバヤーガの細く長い両腕にも、クルースニクの力強い腕が接続される。


 そしてスラスターを失ったバーバヤーガの下半身部分めがけ、三つに分かれたトリグラフの一つ。最も細く、しかし全ての機能が収められた中枢部分が下方から繋がり、胴体部分を形成。

 

 そしてさらにその下。脚部に当たる部分にはクルースニクの下半身が結合し、太ももからふくらはぎ部分背面に、トリグラフの残り二つの本体が接続される。


 残されたバーバヤーガの巨大なスラスターは、そのまま二つに分かれて背面下方に差し込まれるようにしてセット。


 そしてその流れの最後。


 キアの乗る純白の戦闘機が巨体の背面を完全に覆い尽くし、クルースニクの頭部を兜として、二つの青い眼光を輝かせた新たなヘッドパーツが、せり上がるようにして出現。


 その額部分から、一角獣を思わせる特徴的なブレードアンテナが構築され、ついにその全貌が顕現する。


『よっしゃああああ! 上手くいったぜ!』


『これが、私たちの世界を守る究極の決戦兵器!』


『ラエル艦長が作ってくれた、僕たちみんなの力――――!』


『その名も! LN.12FW_ドモヴォーイ!』


『――――です』


 その全長――――1000m。


 太陽系での半年の改修期間を経て、ラエルノアが全文明の叡智を注ぎ込んで作り出した、最終最後、究極の決戦兵器――――LN.12FW_ドモヴォーイ。


 その力強い威容は背面に巨大な白い翼を広げ、下方からは一対の巨大なスラスターが八の字状に伸びる。


 機体中央部分では魔女の大釜が紫色の閃光を放ち、荘厳に突き出た両肩からは、クルースニクの純白のマントと、バーバヤーガの鈍色の装甲板がたなびく。


 キアが乗り込んでいた戦闘機――――戦術支援爆撃機LN.11TS_セマルグルに設けられた、に亜空間転移して集結したミナト、クラリカ、ティオ、そしてキアの四人。


 そしてさらにはその


 そこには、一部の隙間もない専用ソケットに収まったボタンゼルドの、のだ――――!


「はっはっは! これは凄い! 負ける気がしないぞっ!」


「来てくれて助かったぜ! ありがとな、キア!」


「はい……私は、ずっと貴方と一緒です。ミナト」


「油断は禁物ですよ! このドモヴォーイは、私たち全員の思念が互いにリンクされています! つまり一人でも諦めれば、その弱気は他の全員に伝わるということ! そんな奴は、この私がすぐさまからそのつもりで!」


「はいっ! よろしくお願いします、みなさん!」


 青白い輝きを灯すコックピット内部。四人は互いに信頼に満ちた笑みを浮かべて頷き合うと、自らの操縦桿を一斉に握りしめた。


『おーやおやおやおやっ! これはまた凄いのが出てきましたね!? さっきまで私なんて眼中にないって感じだったのに、実はちゃーんとを用意して待っててくれたんですねぇ!? 嬉しいなぁ――――いよいよじゃないですかッ!』


「はっ! ――――! どうせこうして目の前にいる貴方だって、本物なのかどうか、最後なのかどうか怪しいもんですよっ!」


「けどよ――――ここまで来たら、てめぇがなんだろうと関係ねぇ!」


「あなたが僕たちみんなの居場所を、壊そうとするのなら――――!」


「お前は今ここで! 俺たちが叩き潰す――――ッッ!」


 混迷する決戦の宇宙。

 ついに光臨した究極の機神。


 ドモヴォーイは眼前に立ち塞がる1800mの悪魔――――チェルノボグを、その二つの青い瞳で見据える。

 

 そして自らが倒すべき敵を認識したかのように、その眼光を輝かせた――――。

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