第七話 絶滅か生存か
三十分の決戦
「麾下全艦、敵艦隊中枢に突入完了した模様!」
「いいだろう、ここからは時間との勝負だ。封鎖された亜空間の解放作業はどうなってる?」
『こちらルミナス工作班! 目標の次元封鎖を確認しました! 相当に強力な障壁ですが、太陽系標準時間三十分で解除の見込み!』
「報告ありがとう。確認だけど、そこを解除すれば私たち全軍が一度にワープ可能になるという理解でいいかい?」
『そうなります! 幸いなことに、現在の我々は細長く伸びた陣形となっています。これならばそこまで大規模な解除をせずとも、全軍で跳躍可能です!』
360度全方位にチェルノボグの作り出した異形の艦船を望み、ブリッジ正面すれすれを、巨大な敵艦隊が無数の熱線を放ちながらすれ違う。
それでも前へ前へと突き進む純白の船、ラースタチカのブリッジ。
現在、多文明連合艦隊は始まりの地への時空間跳躍を封じられている。
その封印を解除すべく、亜空間障壁へと辿り着いたルミナス博士族からの報告を受けたラエルノア。彼女は博士族からの報告に頷くと、即座に友軍艦隊へと伝達する。
『こちらラースタチカのラエルノア。たった今工作班からの連絡が入った。ワープ可能になるまでの必要時間は太陽系標準時間で三十分。ワープ可能になり次第、全艦で一斉にワープする。それまでなんとしても持ち堪えてくれ』
突撃する三十億の艦隊に響くラエルノアの声。
三十分。僅か三十分というこの時間を生き抜けば勝利。
しかし迎え撃つチェルノボグ艦隊も、それをただ黙って見ているわけではない。
僅か三十分。
しかしラエルノアには、今から味わうその三十分が、この場にいる全ての命にとって最も長い三十分になることを予感した。
そしてそれと同時、ラースタチカに随伴していた太陽系統合軍の巡洋艦が、エルフのシールドをすり抜けた、たった一発のビームを炉心に受けて為す術もなく轟沈。
多文明連合艦隊では屈指の戦力を誇る、ミアス・リューンの宮殿戦艦が、ほんの僅かに突出しただけで嵐のような集中砲火を浴びて爆散する。
最も危険な砲撃戦による数の不利を最小限に縮めたとはいえ、チェルノボグ艦隊の火力、防御力は共に強大。至近距離の撃ち合いですら、連合艦隊の艦船は一対一では圧倒的に劣勢だった。そして――――
『き、来た――――! 敵の人型を確認――――! うわああああああっ!』
『っ! こちらボール隊のミケにゃ! 敵のデカブツが出てきたにゃ! とんでもない数にゃ!』
『へけっ! わかるのだ、こいつら強いのだ! ボールじゃ勝負にならないのだ!』
『我々は我々の任務に徹するのみだワン! しかしラエル、これは早急に手を打たねば食い破られるワン!』
それは、まるで攻撃を受けたアリの巣からわき出る無数の黒蟻の群れ。
異形の艦隊から黒い帯が――――否、軽く数十億を超える数の異形の巨大機動兵器が一斉に射出されたのだ。
一隻一隻の形が違う艦船と違い、チェルノボグ艦隊の運用する機動兵器は実に統一された物だった。
その全長は約700m。地球上のカニを思わせる四本の腕。下半身はクラゲやイカのように扇状に広がるチューブが尾を引き、灰色の粒子をまき散らしながら飛翔する。
おぞましい程の数を持って迫るそれらの機動兵器に、前衛を務める近接型TWが為す術もなく絡み取られて引きちぎられ、後衛の機体は一発の砲撃を撃つ間もなく押し潰される。
数では互角のマージオーク機動兵器が、一斉に敵の軍勢に組み付いて押しとどめようとする。しかし見た目からは想像もつかぬ圧倒的出力によって、組み付いたオークのロボは腕をへし折られ、呆気なく破壊された。
現れたチェルノボグの機動兵器。
その圧倒的力と数によって戦線が破られる。
『させるかっ! ルミナスの戦士たちよ! このルミナスエイトに力を!』
『応っ!』
しかしそれを見て取ったルミナスの大隊長エイトは、周囲の同族に合図を送る。
するとどうだろう、エイトの周囲にいた数百というルミナスの戦士たちが光になってエイトへと合体。仲間たちの力を受けたエイトは、その身を金色に輝かせた神にも等しい姿へと変貌する。
『はぁあああああああ――――! 受けてみろ――――これがアルティメットエイトの、ギャラクシースパイラル光線――――!』
閃光。
そして豪炎と閃熱の渦。
究極形態となったルミナスの戦士エイト。
ルミナス最強の戦士がなぎ払うように放った熱線は、迫り来るチェルノボグの機動兵器群を一撃のもとに粉砕。その一欠片も残さず消滅せしめる。しかし――――!
『はぁっ……はぁっ……! くっ! なんという数だっ!』
しかし、それでも迫り来るチェルノボグの大群は止まらない。
爆炎の渦をかき分け、灰色の粒子と混ざり合った炎の尾を引いて、禍々しいチューブ状の触手をなびかせた異形の軍団が変わらずに迫る。
至近まで迫る機動兵器に対して、エルフの障壁は効果が薄い。
機動兵器戦で敗北すれば、それは三十分を待たず三十億の艦隊が全滅することを意味していた。
迫り来る軍勢に連合艦隊の先陣が飲み込まれ、果敢に戦う先頭艦隊とエルフの障壁艦が炎を上げ――――
『――――指向性ナノマシン、全域散布完了。消えなさい、ゴミ虫!』
瞬間、先陣のみならず、全方位から迫っていたチェルノボグ機動兵器群が、寸分の狂いもなく完全に同一のタイミングで一斉に内部から爆裂。
『よおおおおっしゃ! 行くぜクルースニク! 今日は俺とお前でダブル勇者だ!』
青い閃光がラースタチカを中心とした超広範囲を奔る。その青い軌跡に触れたチェルノボグの巨大艦船が、全て真っ二つに両断されて轟沈。
『にゃははー! さっすがエイト、私も負けてられないねー! タイプチェンジ、カレンレーーーッド! バーニングイドラディウム光線!』
先ほどのエイトの放った物とは明らかに違う、翡翠色に輝く光線がだめ押しとばかりにチェルノボグの機動兵器群を押し戻す。
これらの攻撃は全て、ラースタチカの周辺領域から放たれた一撃。
『さあ! 賞賛なさい! そしてひれ伏すが良い! この木星帝国第三皇女クラリカ・アルターノヴァと、軍神トリグラフが来たからには万事解決、無病息災間違いなしですよッッ!』
スラヴ神話に謳われる三顔の軍神。その背に巨大なキノコ状の殲滅兵器を背負った巨人――――LN.09AD_トリグラフ。
『おいユーリー! どっちが多く敵をぶっ潰すかで勝負だ!』
『いいねー! じゃあ私が勝ったら、また後でご褒美貰っちゃおうかなー?』
純白に輝くマントを纏い、その両手に握る二刀を青く輝かせた悪魔狩りの騎士――――LN.08SA_クルースニクと、滑らかに輝く銀の体表に、翡翠のラインを描く快活な融合戦士、ユーリー。
現れた三者は瞬く間に戦況を押し戻すと、戦場全てに届く声で名乗り上げた。
『す、凄い……っ。改修を受けたのは知っていましたが、まさかここまで強化されているなんて……!』
『お、俺たちの出番なんてないんじゃないのか?』
そしてその後方。
二丁の大口径拳銃を構えた、流麗な白と黄色の装甲板を持つ高機動型TW、ロッテ・バッハシュタインの駆るナハグリフと、全長700mの巨体を誇る、重装型作業用TW、アーレク・ナタモフスキーのCy_37。
あまりに桁違いの三人の活躍に呆気にとられる二人。
三人が見せた圧倒的殲滅力。それによって押されていた戦線は一時的に拮抗。
しかしそれも一瞬のこと。
間断なく押し寄せるのは機動兵器だけではない。味方の残骸をさらに撃ち抜き、周囲のチェルノボグ艦隊が再び雨のように熱線を放つ。
『
だがそこに、さらにもう一条の光芒が奔る。
ラースタチカを中心とした陣形前方に巨大な湾曲空間が展開され、放たれた熱線を全てある一点へと――――魔女の大釜へと飲み込んでいく。それはつまり――――!
『そしてここだ――――! 炉心圧力制御! ベクトル指定完了だ!』
『はいっ、ボタンさん! 魔女の大釜、解放します!』
最後に戦場へと現れた巨神。それは機械仕掛けの魔女――――LN.07D_バーバヤーガ。
バーバヤーガは魔女の大釜に吸収した億を超える熱線を一点に集中。艦隊前方方向を薙ぐように振り払い、進行方向を埋め尽くす無数の艦隊を火の海に沈めた。
『今はただ、皆がやれることをやる時です……! ロッテさんとアーレクさんはラースタチカを!』
『来るぞティオ……! この禍々しい殺意……チェルノボグは、間違いなくこの艦隊の中にいるっ!』
『ハッ! 来るなら来やがれ――――! その方が手っ取り早いぜ!』
『フフ……珍しく意見が合いましたねミナト。私もその考えに賛成ですよっ!』
『だねー! せっかくだしー、誰が先にボスを倒すかでも勝負しよー!』
様々な因縁の果て、ラースタチカに集っていた最強の巨神たち。
再び迫る無数の軍勢を前に、しかし彼らは誰一人としてその心に恐れを抱いてはいなかった――――。
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