最後の出撃
「ねえミナト。ミナトはさー。この戦いが終わったらどうするつもりなのー?」
目の前に広がる百万光年の艦隊。
その艦隊めがけ、一条の光芒となって突き進む多文明連合艦隊。
ラースタチカの艦内から、亜空間ドックで待機するクルースニクのコックピットへと向かうミナトに、ふらりと現れたユーリーはそう声をかけた。
「ん? なんだよこんな時に!?」
「こんな時だからだよー! ほんっとーになんにもわかってないんだからねー? 二人で話すのもこれで最後かもしれないでしょー?」
「へっ! 俺がこの程度で死ぬかよ! それに、お前だってそんな簡単にくたばる奴じゃねぇだろ!?」
「……そうかな? 私はミナトみたいに強くないからなー。結構あっさり死んじゃうかもよ?」
「お前……」
いつもの軽い口調でありつつも、どこか様子の違うユーリー。
ミナトもこれにはその表情を変え、目の前の少女にはっきりと視線を向けた。
「結局、一回もミナトに勝てなかったねー。言っておくけど、私とカレンのコンビってルミナスでも負けたことないんだよ? それなのに、ミナトには全然勝てなくてさ。せめて一回くらい勝ちたかったなー」
「ユーリー……お前さっき、この戦いが終わったら俺はどうすんだって言ってたな。今決まったぜ」
「んー?」
「全部にケリがついたら、すぐに俺とお前で勝負だ! これからもお前は、俺とずーーっと勝負すんだよ! ま、俺はそうなっても負けねぇけどなっ!」
別れと不安を映したユーリーのその弱気な発言。
ミナトはそんなユーリーに詰め寄ると、一気にまくしたてた。
「ふふ……ミナトって、そういうことも言えるんだね……?」
突然のミナトの勢いに目を丸くするユーリー。
しかし彼女はすぐにその表情を綻ばせると、目の前で輝く燃えるようなミナトの眼差しをまっすぐに見つめ、一瞬の隙をついて自らの唇をミナトのそれに重ねた。
「むぐっ?」
「んんんーーーー………………ぷはーーっ! はー、ごちそうさまでしたっ!」
「て、ててててて、てめ……ユーリー……っ!?」
「こうした方が忘れないでしょー? その他もろもろは戦いの後でいいから、とりあえずお互い死なないように頑張ろー!」
突然のユーリーの行為によって完全に貪られてしまったミナト。まるで石化魔法の直撃を受けたかのように硬直するミナトに、ユーリーは満開の花のような笑みを浮かべ、軽やかに離れていく。
「その約束、絶対守ってねー! ちなみにー、ルミナス人のずっとって数万年とかのことだから! ちゃんと自分の言ったことには責任もつんだよー?」
「っ……! 勇者に二言はねぇ! 死ぬんじゃねぇぞ、ユーリー!」
「はーい!」
そう言って背を向けたまま手を振るユーリーの背を、まだ頬を染めたままのミナトはしかし、強い決意と共に見つめ続けていた――――。
――――――
――――
――
『トリグラフの持つ三つの装備は全て使用可能! 一度出撃した後も、ほぼノータイムで亜空間ドックから換装可能になってますよっ!』
「わかりました、クラリカさん! それに、今回はもう一つ……」
『例のアレですね……ぶっつけ本番になりますが、ラエルが大丈夫だというのなら大丈夫なのでしょう。使うタイミングは私が指示します。時と場合によっては戦闘開始直後になる可能性もありますので、常にそのつもりで』
「頼もしいな! クラリカの視野は俺とはまた違う世界が見えている。俺もそれを信じ、今回はクラリカのサポートに回るとしよう!」
航行するラースタチカに懸架される形で追従する亜空間ドック。
通常空間とは別空間に備えられたその領域は、外部からの干渉を受けず、さらにはある程度の距離であればどこにでもTWを射出可能という、太陽系統合軍の基本技術となっている。
出撃寸前のタイミング。それぞれの機体の最終チェックを行うティオやクラリカ。
すでにドック内に見えるアラートは出撃指示待ちとなっており、ラエルノアの指示が下れば即座に敵艦隊のど真ん中へと飛び込むことになる。
『――――こちら、ナハグリフのロッテ・バッハシュタイン! 発進準備完了しましたっ』
『Cy_37のアーレク・ナタモフスキーだ。シミュレーションとはいえ、連携の訓練は何度もした。ティオのバーバヤーガから離れなければ良いんだろ?』
「はい! 皆さんへの攻撃は全部僕とボタンさんでなんとかします! バーバヤーガの補給タイミングは伝達しますので、その時は皆さんも一度ラースタチカに戻って下さい!」
「基本的にはラースタチカの護衛が最重要任務だ! ロッテ殿もアーレク殿も、ラースタチカの対空火力の届く範囲で動いてくれ!」
『承知です、ティオさん、ボタンゼルドさん。太陽系統合軍でも知られたトップエースの皆さんの足を引っ張らないよう、全力を尽くします……っ!』
独立派として思想を違えるロッテとアーレクも、ここに至るまでに何度となくラースタチカの正規パイロットと共に訓練を重ねてきた。
たとえ思想は違えども、それらは全てを救ってからの話だ。
今は共に戦う仲間として、二人もまた覚悟を持ってこの死地に望んでいた。
『――――悪い、遅くなった! クルースニクも大丈夫そうだぜ!』
『遅い! 遅いですよミナト! まったく、いつもは誰よりも先に乗り込んでいる貴方が遅刻なんて珍しいですね?』
『悪い! なんかさ、俺も色々とやり残してることが結構あったんだなってな……!』
『……? まあ、やり残したことがあると気付いたのは良いことでしょう。それがない人なんて、今この場にはいませんから――――』
かなり遅れてクルースニクへと現れるミナト。
遅れはしたものの、とにかくこれで全てのTWは完全に稼働可能となった。
ミナトの到着を待っていたのか、僅かに間を置いてドック内の圧が低下。
ビームフックによって懸架されていた全長300mから700mまでの決戦兵器、TWが無重力となったドック内で浮遊する。
『さあ、いよいよですねぇ……! 皆さん、どうかご武運を』
『今回は出し惜しみしねぇ……! 勇者の力全部をぶち込んで、何もかもケリをつけてやる!』
『地球で待つ私たちの仲間のために、この場で戦えることを誇りに思います!』
『やってやる……! 木星の家族を、これからも食わせてやらねぇと!』
瞬間、最後の戦場へと突き進むラースタチカの周辺に五つの空間湾曲が発生。
その空間ごとに幾重ものリングと二条のビームラインが伸び、漆黒の宇宙に幻想的なカタパルトを構成する。そして――――!
「皆さんのことは、絶対に僕たちが守って見せます! ボタンさん――――!」
「よし! LN.07D_バーバヤーガ――――ティオ・アルバートルス。ボタンゼルド・ラティスレーダーで出るぞ!」
その言葉と同時、ビームラインで通常空間と接続された亜空間が渦を巻いて展開。
間を置かず、五つの巨大な影がその渦から加速飛翔して出現する、
それは、太陽系人類が生み出した叡智の結晶。
純白の船体から飛び立った五機の巨神たちは、全ての希望を飲み込む目の前の大艦隊めがけ、その眼光を明滅させたのだった――――。
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