進化の証


『総員戦闘態勢! TWパイロットは亜空間ドック内にて待機! 各部チェック急げ!』


 鳴り響くアラート。

 艦内に繰り返し伝達されるダランドの指示。


「うむ……! どうやら来たようだな……!」


「はいっ! 行きましょう……ボタンさんっ!」


 多文明艦隊総旗艦、ラースタチカのクルーたちは、ついに訪れた決戦の時をただ静かに、決意と共に受け入れていた。


 ルミナスエンパイア本星を滅ぼし、そこから逃れたルミナスの人々を追って多文明連合艦隊の居場所を特定したチェルノボグ艦隊。


 その陣容の全長は


 さらにその奥行きも数光年にも及び、幅だけならばにも相当する、この宇宙最大の人工質量体を形成していた。


 それに対する多文明連合艦隊。

 その総数はここまでの道のりで更に膨れあがり、総艦船は三十億隻を突破。


 しかしこれほどの軍勢を持ってしても、眼前に広がるチェルノボグ艦隊に対しては焼け石に水に等しい。正面から戦えば全滅は必至だった。


『やあ皆、ラースタチカ艦長のラエルノアだ――――突然でもないけど、いよいよ最後の戦いだよ。今から現在の私たちの作戦目的を説明するから、落ち着いてよく聞いて欲しい』


 そんな多文明連合艦隊を構成する全艦に向かい、総旗艦ラースタチカから艦長ラエルノアの声が響き渡る。 


『まず最も重要なことは、この戦いは必ずしもということだ。私たちの勝利条件は始まりの地に到達すること。そして始まりの地はもはや目と鼻の先――――私たちがいるこの場所から、に位置している。ラースタチカなら、な距離だ』


 太陽系連合。

 ミアス・リューン。

 ルミナスエンパイア。

 マージオーク。


 そして彼らに賛同して参陣した、多くの小規模文明の艦隊。


 常であればバラバラである筈の意思は今、辺りに響くラエルノアの言葉だけに耳を傾け、微動だにせずただ聞いていた。


『しかしこの場から。目の前の敵艦隊が。さらにあの冗談のような数の艦隊のせいで迂回は不可能。なら、私たちの取る戦法は一つだ――――』


 ラースタチカのブリッジ。自らの指揮官席から立ち上がり、眼前に広がるを射貫くように見つめるラエルノア。


 巨大な瞳のように輝く銀河の赤い輝きが、どこまでも広がる黒い影によって上下に割れていた。


『――――戦力を一点に集中させ、。亜空間封鎖は無制限に展開できる技術ではない。こちらの攻撃で綻びを生じさせ、その間隙を縫って即座に始まりの地にワープする。そうなれば、


 それは、一見すると余りにも無謀すぎる玉砕指示だった。

 もし上手くいったとしても、多文明連合艦隊は恐らく壊滅するだろう。


 たとえ新たなる宇宙に脱出出来たとしても、この場に集う艦隊やルミナスの戦士たちは、そののだ。


 しかしミアス・リューンのエルフも、艦隊と共に旅を続けた三十万のルミナスの戦士たちも。あのマージオークですら、その指示に異を唱える者は現れなかった。


『はっきり言って上手くいく可能性は高くない。だから私は、君たちに無理に戦えとは言わない』


 静まりかえる宇宙。ラエルノアは双眸そうぼうに決意の輝きを灯し、はっきりと、強い決意を込めてその言葉を発した。


『けれど――――けれどもし願うのなら。が君たちの中にあるのなら、どうか共に来て欲しい。この宇宙に満ちる全ての願いを、これからも続けるために――――!』


 それは、ラエルノアの願いだった。

 否、この場に集う全ての命の願いだった。


 ラエルノアの発した言葉が終わり、静寂が訪れる。

 しかしその静寂は一瞬。


 次の瞬間、マージオークの大艦隊から絶叫に似た歓声と花火が無数に打ち上がり、それを見た太陽系連合艦隊からも、備蓄の照明弾が次々と打ち上がった。


 やや遅れてミアス・リューンの宮殿艦隊から控えめな祝いの楽曲が流れ、ルミナスの巨人たちは全員でその拳を頭上に掲げて気勢を上げた。


 様々な方式で、しかし全ての文明が果てしない試行錯誤の末にここまで辿り着いた、に火がくべられる。


 三十億を超える艦隊のスラスターが、一斉に灯る。

 その輝きは進化の証。


 土塊だらけの大地に生まれ、やがて自ら思考し。ついには母なる星の重力を振り切り、どこまでも続く星の海へと漕ぎ出した。


 数十億年の時を超えて完成を見た、


「ありがとう――――」


 ラースタチカのブリッジ。

 その光景を見たラエルノアは一度瞳を閉じ、静かに呟いた。そして――――


「全艦、最大戦速! 最終目標、始まりの地に存在する中枢ターミナル! さあ、皆の願いを叶えに行くとしよう――――!」

 

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