力の代償
「うおおおおおおおっ!? し、死んだ……っ!?」
「うむ。俺の勝ちだな!」
「凄い……! やっぱりボタンさんは凄いですっ! これでもうボタンさんだけで八十連勝ですよっ!」
ラエルノアとストリボグを中心とした戦術会議の後。
ボタンゼルドやティオといったラースタチカ所属のTWパイロットたち。
一行はようやく異世界から帰還したミナトを交え、ラースタチカ艦内に設置されたTWの実戦シミュレーターで訓練――――というよりも、親睦会を兼ねた対戦会を実施していた。
「
「あははー! ミナトももう何十回も戦ってるのに全然駄目だねー? っていうか、あと少しで倒せそうってことにもならないねー?」
「うるせーッ! くそっ! もう一回だ!」
「な、なんなんですかこのマスコットロボは……!? こんな超高性能AIが開発されていたなんて、全然知りませんでした……っ!」
「だから俺はマスコットではないのだが!?」
「信じられねぇ……! お、俺は一度、エルドラド星系でマージオーク艦隊のボスとタイマンを張ったこともあるんだっ! 皇女様ほどじゃないが、TWに乗れば木星でも上位の腕だって言われてたんだぞ……!?」
「私もそうです……私は以前、ルミナスが取り逃がした宇宙怪獣を単独で撃破した功績で今の階級に上がりました。でも、ボタンゼルドさんの強さは、私の知るどれとも違う……」
独立派という異なる主義信条を持ちつつも、それを脇に置いて新たにラースタチカに加わった二人のTWパイロット。
ロッテ・バッハシュタインと、アーレク・ナタモフスキー。
二人もまた、自ら言うように決して凡百のTWパイロットではない。
クラリカやティオ、ミナトには及ばぬものの、もしあの太陽系動乱時に投降せずに戦っていれば、間違いなく骨が折れる相手となっていたことだろう。
「いや、ミナトもクラリカも。ロッテ殿もアーレク殿もとても良い腕をしている! もし君たちが俺のいた世界にいれば、あっという間にエースになっていただろう!」
「慰めなんていらねーんですよッ! まったく……私からティオを奪っただけでなく、TW戦でもここまでボロクソにされるとは……! 初めてですよ……私をここまで虚仮にしたお馬鹿さんはねぇ……ッ!」
「でも、やっぱりロッテさんもアーレクさんもとってもお強いですよっ! ミナトさんやクラリカさんとは全然違う戦い方で……」
「ありがとうございますっ! 私の家は代々、地球に住む高貴な方々の身辺警護を行ってきました。私も、私のTWであるナハグリフも、あまり多数を相手にするのは得意ではありませんが、一対一ならば自信がありますっ!」
「俺はあんたらみたいに特別な力があるわけじゃねぇ……俺は元々ガニメデにある採掘場で、作業用TWのパイロットをやってたんだ。腕がいいってんで、軍にスカウトされたんだよ。俺のCy_37も、それを軍で改造したTWでな」
ティオとボタンゼルドから褒められたロッテとアーレク。
二人は素直に喜びを口にしたが、クラリカは正に怒髪天の勢いで怒り狂っていた。
「ぎゃーーーーーッ! ま、また負けた……! 勝てねぇ……! ボタンの野郎……余裕で大魔王よりつええ……っ!」
「ミナト……貴方は今、ボタンゼルドとの戦闘中に勇者の力を使いましたね。全ての反応速度を光速に引き上げる、青の力を……」
「うっ!? き、キア……お前なんでそれを!?」
「えー!? そんなチート使っても勝てなかったのー? ねぇねぇ、私もボタン君と戦いたーい! こんなゲームじゃなくて、外に出てやろうよー!」
「それは無理だ! シミュレーターならば問題ないが、俺ではバーバヤーガを一人では完全に操縦出来ない! 一度だけグノーシスとの戦いで完全に制御出来たことがあったが……それ以外は全てティオが俺の補助に回ってくれたから出来たことなのだ!」
「そ、そうですねっ! バーバヤーガに乗っているときは、ボタンさんには僕のサポートをして貰ってて……」
「なーんだ、つまんないなー! 私はTWの操縦は全然駄目だから、外で思いっきり殴り合いたかったのにー!」
あまりにも圧倒的なボタンゼルドの操縦技術。
その強さは、かつてゲーム上でラエルノアが唯一食らいついただけで、それ以外の状況では一度たりともボタンゼルドが窮地に陥ったことはない程だった。しかし――――
「なあボタン――――お前はそれで困ってねぇのか?」
「困っている……?」
だがその時。シミュレーターのシートから立ち上がったミナトが、ボタンゼルドに尋ねた。
「俺もさ、いきなり異世界の女神様から勇者の力なんてのを貰っちまって、昔から今までずっと苦労してるんだよ。強いってのはいいことばっかりじゃねぇ……お前だって、そうだったんじゃねぇのか?」
「そういうことか……」
いつになく真剣な眼差しでそう語るミナト。
無数の異世界を渡る伝説の勇者ミナト。
彼もまた、かつてはどこにでもいる普通の少年だった。
しかし突然与えられた勇者という肩書きと力によって、今の彼はいつ終わるともしれない邪悪との戦いを宿命づけられている。
だからこそ、ミナトにはわかったのだ。
同じく人知を絶する力を持つボタンゼルドが、その力によってただ恩恵だけを受けてきたわけではないことを。そして――――。
「――――俺がこの手で奪った命の数は、恐らく数百万人を超えている」
ミナトが自身に向ける、どこかボタンゼルドの身を案じるようなその眼差し。
ボタンゼルドは珍しくその視線から目を背けると、静かにそう呟いた。
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