狂騒は終わり


「なんだよおめえら! 俺抜きでそんな楽しそうなことやってたのか!?」


「ええ、色々と愉快なパーティーでしたよ。ですが、考えるより先に拳が出るミナトは、どちらにしろ連れて行けなかったと思いますけれど」


「にゃはー! 私もそういうの苦手ー! なんか気付いたら何人か吹っ飛ばしちゃうかも!」


「じーーーー…………」


 ラエルノアの誕生日を祝うエルフのパーティから数日後。

 瑞々しい木々から漏れる日差しの下。


 清潔な白い壁面を持つ建物のテラスで、ラースタチカのクルーたちは久方ぶりに異世界から帰還したミナトを囲み、ここ数日の出来事を語り合っていた。


「しかし、今回のことは俺にとっても非常に勉強になった。地球人類同士で争っていた俺の世界とはまた違う様々な問題を、この世界の人々も抱えているのだな」


「ラエル艦長のお父さんも、アーレンダルさんも、とっても立派な方でした。他のエルフの皆さんも、ちょっぴり近づきがたい雰囲気でしたけど、僕たちのことを悪く思ってる方なんて全然いなくて――――」


「――――エルフの皆さんも私たちと同じですよ。意識集合体でもなければ、皆さんそれぞれに違う考えがあるのです。大切なことは、ただ一つの出来事や側面だけで全てを判断しないこと――――それは、たとえどれほど技術が進歩しても変わりはしないでしょうね」


「けっ! そんな難しいことは俺にはわからねぇ! むかつく奴はぶっ飛ばす! 気が合いそうならダチになる! そうすりゃだ! ガハハハハハ!」


「…………そう、ですか? でも、ミナトが言うのなら……そうなのかも?」


「あはは! キアも本気にしちゃ駄目だよー! 私も戦うのは好きだけどー、さすがにミナトほど頭悪いこと言わないもんねー!」


「あのですねぇ…………ミナトのその理論だと、ミナトにぶっ飛ばされた方々はしてこの世にいないってことじゃないですかッ!? どんだけ脳筋なんですか貴方は!?」


 ラエルノアのパーティーに参加出来なかったミナトやユーリー、キアも交えての談笑は弾み、用意された飲み物や茶菓子なども見る見るうちにその数を減らす。


 用意されたソファーにどっかと座るミナトの横には今も――――というよりも、ラースタチカにやってきてからずっとミナトの傍を離れようとしないキアが、ミナトの横顔を飽きもせずに見つめ、ちょこんと座っていた。


「でもでも! そういえば聞いたよーティオ! 皆の前でボタン君に告白したんだって!? 私もそれだけは絶対に見たかったー!」


「ええ……っ!? あ……その……はい……っ」


 だがその時。突如としてユーリーが身を乗り出してティオに詰め寄ると、あの決闘の場で下手をすれば太陽系全土へと響き渡ったティオの告白について尋ねる。


 ティオはその顔を耳まで真っ赤にして俯くが、しかしそれでも確固たる決意を込めて、こくんと首を縦に振った。


「ぶふぉッッッ!? ま、マジかよ!? は!? どういうことだ!? ティオがボタンに!? いつのまにそんなことになってたんだよっ!?」


「うむ――――ユーリーの言う通り、俺は確かにあの場でティオの思いをはっきりと聞いた。ティオが今の俺で良いと言ってくれるのであれば、俺に彼女の気持ちを断る理由はない。このボタンゼルド――――俺の命が続く限り、全力でティオを愛するつもりだ」


「ぼ、ボタンさん……っ! 僕も、ボタンさんのこと……っ!」


「チ……ッ!」


「わーーーーっ! やったねーティオ! 実は私も、ティオが女の子になったあたりからもしかしてって思ってたんだよー! 上手くいって良かったね!」


「はい……っ。ありがとうございます、ユーリーさん……っ」


「うへぇ! マジでビビったぜ……っ! しかもティオの方から言ったのかよ……人は見かけによらねえってのはこのことだな。あ、いや――――俺はティオがやる奴だってのは知ってぜ! 二人とも仲良くなっ!」


 自身の小さな膝上にしっかりとボタンゼルドを乗せ、ティオは恥ずかしさからその頬を染めながらも、とても喜びに満ちた、日向のような笑みを一同に向けた。


 しかしその様子をじっと見つめていたキアは一人、なにやらぶつぶつと呟きながら再びじっとミナトを見つめる。


――――現時点から187時間と13分37秒前に、ラースタチカのデータベースに存在した『私と僕と百人のカレシカノジョ』という書籍で確認しました。ずっと傍にいたいと願う相手に、ずっと傍にいて欲しいと伝える行為――――ミナト、?」


「は? 何をだよ?」


。告白をした方が良いですか?」


「ぶーーーーッッ!? ちょ……! 何言ってんだキア!? お、俺はそんなもんいらね――――!?」


「……いりませんか?」


「うっ!? いや……っ! そ、そういうわけじゃ……ッ!」


「アハハー! なになに? なんだか面白そうな話してるねー? ちょっと私も混ぜて貰ってもいいかなー?」


「てめぇユーリー!? なんでお前まで!? アーーーーッ!」


チクショウメ!нахуй! あっちもこっちもピンク色で困ったもんですよッッ!」


 そこは正に阿鼻叫喚と愛の渦。


 一人優雅に――――しかしカタカタと震える手で白磁のティーカップを口へと運んだクラリカは大きく溜息を一つつくと、そこでくるりと視線を巡らせ、壁面にかけてあるアンティーク調の壁掛け時計へと目を向けた。


ラエル……! この空間に私一人というのはあまりにも! ぐぎぎッ!」


 クラリカは今この場にはいないラエルノアへとそう呟くと、テラスから一望できる広大な青空を仰いでそう嘆いた――――。





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