変化の正体


「ティオっ!? ボタンゼルドも……!? これは……何が起こったのですっ!?」


「なるほど……? ごめんよパパ。どうやら、またようだね」


「……っ。いいえ、そんなことはありません。これは、私の咎です」


 決闘場のほぼ全域。その場で戦う二機の人型機動兵器のみを正確に撃ち抜いたエネルギーの光。


 あっけにとられるクラリカと、何かを察してその表情に影を落とすエーテリアス。

 ラエルノアは僅かに嘆息して肩をすくめると、そのエネルギーが撃ち放たれた頭上の宇宙空間を見上げた。


『――――我が子エーテリアス。この衆愚極まりない茶番について、申し開きがあれば述べなさい』


「やはり――――でしたか」


 瞬間、辺り一帯全ての空間に、おごそかかつ感情を感じさせない力強い声が響く。

 ラエルノアが見上げた視線の先――――その空間には、輝く太陽と月を背にして一際巨大な樹木に寄り添う光の宮殿が鎮座していたのだ。


『魂の願いを聞き届ける――――そこまでは良いでしょう。しかしそれを決闘などというをもって果たそうなどとは言語道断。さらにはそれを民の見世物とするなどと――――我が子エーテリアス。は、ついにその尊い輝きをも覆い隠したようです』


――――私が申し開きを行うことはありません。そして、私の心は今も強い輝きを放っている。むしろ――――その行いを弁明するべきは母上、貴方です。神聖な魂の願いの場を汚すことはミアス・リューン発祥よりの禁忌。我が母とはいえ、この行いを見過ごすわけにはいきません」


『――――先代の女王である私に向かって、よく言うようになったもの』


 響き渡る声――――先王リリエリスと呼ばれたその声の主に向かい、エーテリアスはそのあどけなさの残る顔を威厳ある王の色に染めて敢然かんぜんと切り捨てる。しかし――――


на хуйフ●ック! 黙れこの●●●女がッ! よくも――――私のティオをよくも――――ッッ!」


『――――ま、待って下さいクラリカさんっ! 僕たちは無事ですっ!』


「えっ!?」


 だがそれとほぼ同時。激昂し、その美しい銀色の髪をぞわりと逆立たせるクラリカの耳に、後方からティオの声が届く。


 待機場に立つ三人がその声のした方向を向けば、なんとそこには眩い閃光と共に先ほど消えた瞬間のままの姿のバーバヤーガと、片腕を失ったアーレンダルの光神甲冑ディス・エレンディアスが瞬間転移してきていたのだ。


「ティオ……っ! 無事だったのですね……っ!?」


『心配させてごめんなさいクラリカさんっ! ぎりぎりで!』


『うむ――――! しかし俺も実際ティオに押されて驚いた。まさか今までのように生身ではなく、! しかも――――』


『こ、これが……!? これが話に聞く、なのか……? ティオさん、ボタンゼルドさん――――あなた方は一体!?』


 現れたバーバヤーガの姿にその瞳を潤ませて笑みを浮かべるクラリカ。

 

 クラリカに自身の無事を告げるティオと繋がりながら、しかしボタンゼルドは脱出ボタンを押したティオだけでなく、バーバヤーガ本体と共に戦闘中だったアーレンダルまでをも甲冑ごと脱出させることが出来た事実に、驚きを抑えきれなかった。


「やあ三人とも、無事で良かったよ――――クラリカは冷静さを失っていたから気付かなかったようだけど、私やパパには君たちの脱出が間に合ったのは感じ取れていた――――そしてごめんよ、アーレンダル。君の晴れ舞台をで台無しにしてしまった」


『ラエル…………っ。それは違うっ! これは、我々エルフ全ての――――!』


 ボタンゼルドと共に現れたアーレンダルに素直に謝罪するラエルノア。しかしアーレンダルはそのラエルノアの姿に自身の奥歯をぎりと噛みしめ、コックピットの内部で悲痛な表情を浮かべていた。


『ほう――――私の光から逃れましたか。咎人共々、万事平穏無事に済むと考えていましたが――――』


「ミアス・リューンの本星にはずだよ。にも関わらずお祖母様がそれをご存じとはね――――?」


「母上――――言葉にせずともわかります。貴方の心に巣くっている闇が。教えて下さい、貴方ほどの人物を堕落させたのは誰です?」


 自らが攻撃を命じた破滅の光から、事も無く逃げ去って見せたバーバヤーガとアーレンダルの姿をみとめた先王が無感情な声で呟く。


 しかしその呟きを受けたエーテリアスとラエルノアは互いに何かを察して頷き合うと、共に先王が居座る巨木の宮殿を鋭く射貫いた。


――――? 堕落したのは私ではなく貴方ですエーテリアス。エルフの王としてこの銀河全ての範となるべき貴方が、、あまつさえエルフ以外の。今、貴方の行いによって多くのエルフが道に迷い、堕落し続けているのです――――


『っ! リリエリス様――――私は、決してそのようなっ!』


『黙れ――――よ。エーテリアス、貴方はあの日私に言いました。途上種と交わることでエルフの衰亡は止まると――――果たして、貴方の言葉どおり我らの力は徐々にその力を取り戻しつつあるのかもしれません。しかし――――』


 その先王の言葉と同時、頭上で輝く巨木の宮殿に後光が射す。

 その光の正体は、同じようにすでに武装を終えた数十の宮殿戦艦と、整然と立ち並ぶ光神甲冑ディス・エレンディアスの軍勢。


『このようにエルフが変わってしまうのならば、堕落してしまうのならば――――あのまま滅びた方が遙かに良かった。泥をすすり、闇を飲み込み、その心を汚れで覆って生き存えるより、美しく輝き、清浄な光のまま消えた方が――――遙かに良かったのです――――!』


 そしてそれら軍勢の中央。


 先王リリエリスが鎮座するであろう巨木の宮殿の樹木が左右に割れ、そこから光り輝く白銀の光輪を背負う巨大な甲冑が出現する。


『ここまでです、我が子エーテリアス。先王リリエリスの名において、ミアス・リューンを堕落させた咎で貴方を捕縛します』




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る