第18話 坊 Ragazzo


 会場に到着した俺たち三人。一息する暇も無く、係の人にオレンジ色の安全チョッキを渡された。交通警備員が着ているようなリフレクターの帯が付いているものだ。

 それを着ながら会場に入ると美梨ネエが俺に言う。

「ヒーロは山岡と向こうに行って指示を受けて!」

「りょ。」

 毎度のことながら朝一番は慌ただしい。ちなみにシルビーさんはキアーラさんに連れられ、自分の在籍をする高校へ向かった。てか、高校生だったのか…。


「おはようヒーロ!」

「おはようございます!」

「毎回ボランティアをやらせられて、お前も可哀想にな。」

「あはは。そう思うのなら、今日と明日のお昼をお願いしますね。」

「オッケーだ。その代わり美梨は連れて来るなよ。」

「はーい!」


 今、俺と会話をしたのは田中さんと言って、美梨ネエの勤める会社の上司で、この会場の中では唯一の男性の知り合いだ。

 女性ばかりの現場で、息苦しそうにしている俺に気遣いをしてくれている。


 俺は駐車場へ向かい、場内の案内を初めていた。

 次から次へと来る車。会いたスペースを見つけ、誘導する俺。今回の大会は中学校と高校が一緒のため、来場者が異様に多い。

 


 そして開会式が始まる頃になり車が落ち着いてきたので、俺は駐車場入り口に行き一息つくことにした。

 すると、どこからとも無くマリーさんが俺に話しかけてきた。


「Hey,ragazzo!」

(おい坊や。)

「Ragazzoって…。」

「名前を知らないんだ、教えてもらえるかい?」

「Io sono…, Io mi chiamo Hiroshi Naruse. 」

(俺は…私の名前はヒロシ ナルセです。)

「フィロシ?」

「浩です。」

「オッケー、フィーロ。」

「…。」

 もういいや…。

「ところで、フィーロだけ忙しそうだけど俺も何か手伝うぜ。」

「いやいや、大丈夫ですよ。」

「ヘイ! 車が来たぜ! あの車はどこに差し込むんだい?」

「差し込むって…。あの大きな木のところが空いてます。」

「オッケー! 任された!」


 そう言って駆け足で車に向かい、その車を誘導するマリーさん。この人ってマジでイケメンだな。

 車を無事、誘導し終わり、俺のところへ戻ってくるマリーさん。 


「どうだいフィーロ? 俺ってスゲーだろ?」

「はい。Perfetto!」

(とても素晴らしいです!)

「Hey,hey,hey! È un modo di dire senza emozioni!」

(心ここに在らずな言い方だな!)

 マリーさんはそう言って俺の頭を撫でた。

「あはは、Mi dispiace !」

(すみませんね!)


 何だこりゃ、恋人同士かよ!


「あなた達なんなの? 男同士で気持ち悪いわね。」

 俺とマリーさんを見るなり、開口一番にキアーラさんが言い放つ。どうやらマリーさんを迎えに来たようだ。


「キア、フィーロって可愛いじゃん?」

「はいはい…。」

 首を横に振りながらキアーラさんはあきれた様子。そしてキアーラさんまで俺の頭を撫でながら話す。

「ところで、フィーロ。シルビーの面倒を見てもらってありがとう。あの子ってイケイケでしょ?」

「あはは。日本人にはいないタイプですね。でも素敵な女性だと思いますよ。」

「あなたって不思議な子ね。話し方が14歳には思えないわ。」


 そりゃそうですよ、半年以上も社会人をしたんですから…。

「考え方が老けて…。Il modo di pensare è vecchio.」

(考え方が老けているんです。)

「Bambino davvero divertente.」

(本当に面白い子だわね。)


 そして、痺れを切らしたようにマリーさんが言う。

「Andrai presto dalla sua ragazza?」

(そろそろこいつの彼女を見に行かないか?)

「Sì, andiamo via, andiamo.」

(そうね、行きましょう。)


 そうねって…。随分サラッと受け応えるな。

「Sono nel mio corpo?」

(アンタらは俺の身内か?)


「Ahahaha!」


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