第17話 逢 Incontrare



 小休憩のために寄った圏央道 狭山パーキングエリア。



 車を降り、美梨ネエと山岡さんと別れ、俺は自販機に向かった。

 土曜日の早朝にもかかわらず、人の出は多い。コーヒーのブラックを買い、俺は一人ベンチに座る。

 くだらない話だが、自販機のホットとコールドだが、なぜ『あたたか〜い』と『つめた〜い』の表記なんんだろうか? この記号をつける意味が俺にはわからない。

 きっと販売促進の戦略なのだろうけど…。

 ちなみに以前の俺が16歳の時は『HOT』と『COLD』の表記になっていたな。


 コーヒーを飲み終え立ち上がる俺。早起きをしたため、ボーッとしていたせいか、タイミングよく通行人とぶつかってしまった。


「Wao!」


「すみません、お怪我はおりませんか?」

「Va bene.」


 イタリア語?

 俺とぶつかった人を見ると、栗毛色の線の細い女性。

 その女性は缶コーヒを落としてしまったようだ。

 

「Mi scusi, non l’ho fatto apposta. ne comprerò uno nuovo.」

(すみませんでした、新しい物を買って来ますね。)

「Va bene,ragazzo.」

(大丈夫よ坊や。)


 坊やって…。こりゃ怒っているな…。


「Hey Sylvie, cosa le è successo?」

(シルビー、どうしたの?)


 うわぁ、仲間が来たぞ? って!

「キアーラさん!?」

 あっ、やば! この人と出会うのはもうちょい先だ!


「え? あなたは誰?」

 ですよねぇ。そうなりますよねぇ。

「Parte inferiore?」

(何かあったか?)


「マッ…!」

 マリーさん!? あぁっぶね! 声に出すところだった。


「すみません、そちらの女性とぶつかってしまい、コーヒーを落としてしまいました。新しいものを買って来ますので。お待ちください。」

 

 とりあえず逃げるか!


「ヘイヘイヘイ! 何でキアーラの名前を知っているんだい?」

「いや、あの…。」


 やっベー! どうすっか!?


「ヒーロ? どうしたの?」

「美梨ネエ! 助けてくれ!」


「あれ? キアーラさんとシルビーちゃん? 奇遇だね?」

「Wao! マキ!」


 おっと?

 こりゃ大混乱だな。

 マキって、山岡さんの知り合いか?




 山岡さんのおかげで、この場は治った。

 どうやら俺としまった女性、シルビーさんは山岡さんが担当している学校の留学生らしい。キアーラさんはその姉だと言う。

 マリーさんはキアーラさんの彼氏なので、いつも一緒なんだよな。

 

 そして、俺がキアーラさんの名前を知っていたのは、『美梨ネエのお供で俺が手伝いをしているから、よく見かける。』という事で収まった。

 良かった…。


 そして、幸か不幸かシルビーさんは今日の大会に出場をするらしい。

 本来なら麻ちゃんのように学校単位で向かうのだが、このシルビーさんはお寝坊をしたらしく、マリーさんが会場へ送っている最中だったということだ。そのため、小休憩のために寄った圏央道 狭山パーキングエリアで、タイミングよく出会ってしまったというわけであった。




      🚙




「Parla bene l'italiano ! 」

(あなたはイタリア語がお上手ですね。)

「Grazie mille.」

(ありがとうございます。)


 なんだ? この丁寧語で話す変わりようは。さっきは俺の事を坊やと言っていたよな! てか、なんでこっちの車に乗っているんだよ!


「Firo,Sei simpatico. 」

(フィーロ、あなたってイケメンね。)

「Sono un ragazzino?」

(坊やがかい?)

「ああん、怒らないでよ。さっきはごめんだよ。」


「ちょっとヒーロ。何を話しているの? 麻ちゃんに言っちゃうよ!」

「何でもないよ。」


 美梨ネエが運転をしながらミラー越しに俺を睨んでいる。


「Sorella maggiore spaventosa.」

(お姉さんこわ〜い。)

「Allontanati da lui. 日本語が話せるんだろ?」

(もうやめてくれ。)

「話せるよ。私、天才だもん。」

「じゃあそうしてくれませんか?」

「オッケー。でもさっきのは二人に聞かれたくないじゃん?」


「ちょっとヒーロ! 何を話していたのよ!」

「いや、美梨ネエ前を見ろよ! 危ねえよ!」

「お姉さま危ないよ!」


「シルビーちゃん、ヒーロ君には可愛いガールフレンドがいるからダメよ。」

 山岡さんナイスですねぇ!

「ああん、残念ね。それじゃ私はソクシツね。」

「俺は昔の貴族か!?」


 まったく。この子、グイグイ来るな…。


 それにしても、昨夜から時間の進み方が普通だな。いつもなら、途切れ途切れになるのに。

 そういえば親父も生きてるし。てか入院すらしてねえな。

 こりゃ今回はイタリアに行かないで済むんじゃね?


 ああ、早く麻ちゃんに会って、癒されたい…。


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