Dio, detesto i dilemmi morali.

第16話 訪 Chiamata




 〜・〜「可愛い子ね。」〜・〜




      ◇




 早いもので、俺は中学生となった。しかも二年生だ。

 タイムリープをする前と同じく、全ての出来事が同じように過ぎていく。

 ただ恥ずかしながら、俺の成績は以前よりも良くなっている。試験の内容までは覚えていないのだが、問題を見ると思い出してしまう、俺のこの記憶力。

「これじゃカンニングと変わらないな。」

 と自己嫌悪に陥ってしまう時も屡々しばしばだ。


 そして不思議な事に、時の流れが早く感じる。

 朝、目が覚めると半年くらい時が流れている場合がある。しかも昨日の出来事や、先週、先月の出来事をも確実に覚えている。

 今日もそうだ。今朝の朝会で俺は表彰された。『私の町の街路樹』というコンクールで最優秀賞をもらったのだ。

 俺の中では昨日、このコンクールに美術部から二人応募する。という発表を顧問から聞いたばかりのはずだ。

 


「ねえヒーロ君。どうしたの?」

「あ、いや。別に…。」


 今はあさちゃんと下校をしている。さっきまで二時間目の授業中だったのにな…。


「今度の土日どにちの大会、見に来てくれる? よね?」

「うん。美梨ネエに手伝いを頼まれているしね。」

「手伝いって何をするの?」

「会場の誘導と椅子の片付けだってさ。麻ちゃんの時は見に行っていいよって言われてる。」

「えへへ。やったー。」

「そんなに嬉しそうに言う麻ちゃんを見ると、俺も嬉しくなるな。」



 絶対に麻ちゃんを守らなきゃな。

 二年後の10月4日…。

 



      🏠




 その夜…。



 〜・〜「可愛い子ね。」〜・〜



 またこの夢か…。

 気持ち悪い声だな…。

 

 長いトンネルの中みたいな、それでいて身体にまとわりつくような低い声。

 男とも女ともいえない声。


 可愛いって誰のことだ?

 うちのウサギか?


 俺はベットから起きてリビングに行った。

 時計を見ると三時。

 喉の渇きを抑えるため、冷蔵庫を開ける。


 ドリンクホルダーには珍しくグレープジュースが入っている。

 美梨ネエの『誘惑に勝つトレーニング』かな?


 作り置きのジャスミンティーをグラスに入れ、テーブルの椅子に座る。

 朝と勘違いをしたのか、飼っているウサギがソワソワとしている。


「まだご飯じゃないよ。」


 俺がウサギのフェイレイに話しかけた。


「こんばんわ。」

「ふうぉ!?」


 突然、聞き覚えのない声に話しかけられ、変な声を出す俺。

 話しかけて来たのは美梨ネエの友人の山岡さんだ。


「ごめんなさいね。驚かせちゃったわね。枕が変わると寝付けなくて。」

「いえ、大丈夫です。えっと、ジャスミンティーを入れますね。あ、温かい方が良いですか?」

「冷たい方がいいかな。」


 確か昨夜はいなかったよな。

 するってーと、今日は何曜日だ?

 あぁ、そうか。

 明日の大会に一緒に行くから、うちに泊まったんだったな。

 確かに八王子は遠いからな。


「どうぞ。」


 冷たいジャスミンティーを山岡さんに渡した。


「ありがとう。」


 この人って、本当に担任だった山岡と姉妹なのかな?

 先生とは似ても似つかない美人さんだな。


「ヒーロ君の彼女も明日、出場するんでしょ?」

「はい。」

「写真で見たけど可愛い子ね。」

 

 

 え?

 この声?



「どうしたの?」

「いえ。ありがとうございます。」

「いやだぁ。ありがとうって、彼女のことよ? ヒーロ君も可愛いけどね。」

「は、あははは…。」


 嘘だろ?

 この声だよな。

 喋り方といい…。

 山岡さんの声は綺麗な声だけど、絶対にこの声だ!

 

 なんなんだよ、この人…。

 

 

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