Enfants Terribles

第14話 童 Enfants


 踊り場で話す俺と祐一。

 三時間目の鐘が鳴っても俺たちは踊り場にいた。


 未来では本田が死んだ。

 そんな突拍子も無い話。精神がおかしくなった人の戯言ざれごと。そんな話の内容にもかかわらず、祐一は俺の話を聞いてくれた。


「正直に言うと、浩の言っている事は信じられない。でも、藤野の事や恵姉めぐねえの便箋のことは疑う余地がない。それに、浩はたまに変な言葉を使うからな。英語か?」

「イタリア語だ。」

「話せるのか?」

「向こうで半年くらい暮らしていたからな。」

「マジか? スゲーなおい! 段々と現実味が出てきたな。でも、今はそれ以上のことは何も言えないな…。」

「ああ。俺も祐一には聞いてもらいたかっただけだ。」


 俺が祐一にそう言うと、突然右手を差し出してきた。


「握手だ。今の話は誰にも言わない。」

「ありがとう、助かる。」



 俺たちは授業中の静かな校内を こそこそと教室に戻った。

 引き違いの入り口をそおっと開ける。


「お帰りなさい、小ネズミちゃんたち。この時間は後ろで立って授業を受けなさいね。」


 俺たち二人は担任の山岡の笑顔で言った表情に、恐怖を感じていた。

 そして放課後、職員室に呼ばれ、こっぴどくお叱りを受けたのだった…。




      🏫




 それから年が明け、俺は本田の家にも顔を出すようになった。

 本田のお父さんは商社に勤めているようで、年明けからはパリとローマの間を行ったり来たりの繰り返しているらしい。

 お父さん的には娘に彼氏がいることに対し、面白くないようだ。だが、まだ小学生なので、少しだけ安心はしているように見える。

 本田のお兄さんとお母さんは歓迎ムードのようだ。特にお兄さんは 弟のような存在従順なしもべ の俺を可愛がってくれている。

 お母さんはイタリア語の話せる俺を高く評価している。


 そして今日は冬休み最終日。俺は本田の家のリビングで理科の自由課題、発酵についてのレポートを二人で仕上げていた。


「ヒーロ君はなんでワインのことを知っているの?」

「ふっふっふっ。ただの物知りなだけですよ、タマコさん。」

「麻子だもん。」

「タマコだもん。」


「もう本当にラブラブね、あなた達は。」

 俺たちのやりとりを見て、キッチンからツッコミを入れる本田のお母さん。

「もぉ、話に入ってこないでよ。」

 本田が照れたように言っている。

 マジで可愛い…。


 そして、レポートも終盤に差し掛かった頃、本田の携帯が鳴った。


「あっ、ナッツだ。ちょっと電話に出るね。」

 そう言って、本田が部屋を後にした。

 ナッツ? 中山のことか? 学区が違うのに知り合っていたんだな。


 俺が一人でレポートを仕上げていると本田のお母さんがコーヒーを持ってきてくれた。


「ヒーロ君は小学生なのになんだか大人びているわね? コーヒーもブラックとか。」

「甘いものが苦手でして。でも、タマコママの作るスコーンは美味しいから好きです。」

「あら、お世辞でも嬉しいわね。ありがとう。」

 本当に嬉しそうだな。

「ヒーロ君のお母さんもお菓子とか作るの?」

「いえ。姉が新体操をやっていて、スタイル維持のために、家にお菓子とか甘いものを置かないようにしているんです。」

「そうだったの? 麻子も中学生になったら新体操部に入るって言っているわよ。美梨さんみたいになりたいんだって。」

「ははは。美梨ネエが聞いたらビックリしますよ。私の青春時代は暗黒時代って言ってますから。」

 

 タマコママとそんな話をしていると、本田が戻ってきた。

「ねえヒーロ君。ナッツがヒーロ君に会いたがっているけど来てもいい? ああ、ナッツって塾友じゅくともなんだけど。」

「俺がここに居て邪魔にならなければ、かまわないけど。」

「ありがとう。」


 そして早速、携帯で中山に連絡をしているようだ。


「ヒーロ君は麻子の自慢の彼氏なのよ。」

 タマコママはトレーを抱えながら、俺に耳打ちをした。


「恥ずかしいからやめて下さいよ…。」


 マジで恥ずいな…。

 んなことより、中山か…。

 俺に会いたいって、どういうことだ?

 ただの興味本位か?



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