第12話 考 Pensare


 ランドセルを背負う俺。そんな俺の中身は16歳。

 緑色の通学帽には募金をした際に頂く、赤い羽がついている。

 なんだか恥ずかしいな…。


 ところで今日は何月何日の何曜日だ? 家には誰かいるのか? 家の鍵を持ち歩いているから、家には誰もいないだろうな…。

 んな事より。なんで家に帰るのに、こんなにも時間がかかる? 俺ってこんなに小さかったか? 背の順で並ぶと、後ろだったよな。

 歩いても歩いても、家に着く気が全くしねぇな。


 本田と会話を終わらせた公園から、どのくらいの時間が経過したのであろう。徐々にだが、歩く視界の中に懐かしい風景が見えてきた。

 ああ…。家だ…。背中が痛い…。

 クッソッ! 江川の奴、思いきり投げやがったな! 仕返しをしたいけど、今の俺じゃ全く勝てる気がしねえ…。

 でもまあ、本田と晴れて付き合う事ができたし、今日はラッキーデイだな。


 家の前に到着。

 玄関に鍵を差し込む。

 軋む音とともに、玄関ドアを開けた。


 お?

 こりゃマジで懐かしいぞ。

 そのままリビングに行くと、テレビボードの脇には色褪せたポスターが貼ってある。

 うひゃー! ミッシェル・ガン・エレファントのポスターじゃん! 美梨ネエが大好きだったな、ウケるんだけど!


 俺は一人で笑いながら、そのままリビングに座った。

 座ると同時に、玄関から鍵を開ける音が聞こえる。


? 何しているのよ! 外で女の子が待っているけど?」

 美梨ネエ? っけーなオイ! って誰が待っているんだ?

「女の子?」

「本田さんって子。」

「Davvero!」

(マジでか)

「はぁ? 何て?」


 急いで玄関に行くと、本田が家の前で立っている。


「本田? ごめん、気がつかなくて。」

「あっ。違うの。私の携帯の番号を渡してなかったから…。」


 携帯って…。小学生で持っているのか? すげーな…。


「ああっと、ありがとう。でも俺は持ってないんだよね、携帯。」


 すると、玄関が開き、美梨ネエが登場した。

「はーい。二人とも中に入ってー。お茶を淹れたよー。」




      🏠




 美梨ネエを交えて、3人でテーブルを囲む。


「本田ちゃん、名前は?」

 美梨ネエが楽しそうに本田に質問をする。

「あ、麻子あさこです。」

「へー。私は美梨みりです。小さいからで覚えてね。私の栄養はヒーロに全部持っていかれちゃったのよ。ヒーロって学年でも大きい方でしょ?」

「はい。」

「本田、ごめんな。美梨ネエがいて。」


「ヒィーロォー。私がいなかったら悪いことをする気でしょー? 私がいてよかったねー、麻子ちゃん。」

 

 小学生で何をするんだよ…。

 本田が苦笑いをしてんじゃねえか!


「あはは…。あの、成瀬。」


「何?」

「はーい。」


「いや、美梨ネエじゃないから!」

「だって私も成瀬だよー。」


「ごめん本田、何かな?」

 美梨ネエは無視だ。


「突然、来ちゃってごめんね。」

「ううん。平気だよ。」

「うん。大丈夫だよ。」

「いや、だから美梨ネエじゃないから。」


 俺と美梨ネエを見て、本田は笑っている。


「もう、麻子ちゃんの笑顔が可愛すぎ!」

「そんな、私なんて…。美梨さんの方が大人っぽいのに可愛らしいです。」

 本田はそう言って、下を向いてしまった。


「本田、ごめんね。美梨ネエが話しちゃって。何か聞きたい事があったかな?」

「えっと…。あのね。私もヒーロって呼んでもいい?」

「えっ? 別に構わないけど。」

「えへへ、ヒーロくん。」


「きゃー! 麻子ちゃんカワユス!」


 そんな会話をしながら時間が過ぎて行った。

 夕方の五時に近くなり、薄暗くなったので、俺は本田を家まで送って行った。

 そして自宅の近くまで送って行き、再び帰宅をする。

 時間は午後5時半を過ぎた頃。

 母さんも仕事から帰っていた。


 母さんと美梨ネエが、キッチンで夕飯の支度をしている。

 この光景を見ると美梨ネエは家庭的に見えるが、実際は夕飯のメニューは自分で作っていた訳だ。

 確か大会が近い時などに、監督から渡されたメニューで食事をしていた。


 そう言えば、あの日、本田からの電話で美梨ネエの事を言っていたな…。

 あと、通夜の晩にいた女性…名前を忘れたけど、なんだかあの人って気になるんだよな…。

 


「おかえり。」

「ただいま。母さんもお疲れさん。」


 母さんと美梨ネエが顔を見合わせている。


「ヒロ? どうしたの?」

 母さんが不思議そうに俺を見る。

「はあ? 何が?」

「お疲れなんて、初めて言ってくれたね。」

「そうだっけ?」


「ヒーロ、テーブルを片付けて。」

 そう言って美梨ネエが俺に布巾を投げた。

 なんだか懐かしいな。美梨ネエがこうやって布巾を投げるんだったよな…。


「bene.」

(了解)


「ついでにお皿も並べてねー。」

「Volentieri.」

(任せてくれ。)


「ヒーロ? さっきから何を言っているの?」


 母さんと美梨ネエが、不思議そうに俺を見ていた。

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