Riavviare

第11話 決 Determinazione


 右の肩甲骨が痛む…。


 はい、そうです。

 江川師匠に大外刈おおそとがりで、一本取られました。おかげさまで、右の肩甲骨がとても痛いです。

 そして俺はただ今、絶賛、小学生中。

 今の状態が夢じゃない事はわかっている。ボヤけた感じもなく、目に映るもの、それと全ての音がリアルだ。


 Timeleapタイムリープ または Time to repeat. か?

 どちらにしろ、今は本田が生きている。

 駅前で見知らぬ男に、刃渡り25センチの包丁で背中を刺され、死んだはずの本田は今現在、俺の目の前にいる。

 しかも小学生だ!

 マジで可愛いなオイ!

 こりゃ惚れるって!

 あれ? ちょっと待て! 俺はロ○コンか?

 待て待て! 俺も今は小学生じゃねえか! セーフだろ! たぶん…。


「成瀬、大丈夫?」

「Va bene...ああ! 大丈夫だ…ぜ! 痛いけど…。」

「ばべ?」

「いや、なんでもねえ。」

 あぶね! イタリアっちまうとこだった!


 小学校の頃、本田といつも一緒にいた佐藤が、俺の心配をしてくれている。

 ちなみに本田が驚いた顔をして、一瞬だけ俺を見た。


 なんだ今の?


 そんな事よりも、ここからだな。とりあえず今は本田にフォローをしないと。小学生に戻っちまった問題はその後だ。

 昇降口から校門を出て、信号までの約100m。それまでになんとかしないと。

 確か本田と佐藤はこの信号を渡る。俺はこのまま直進だ。下手に俺も信号を渡り、本田を追いかける状態になると、俺の女々しさが大爆発しそうだ。


 俺がそんなことを考えていると、本田が佐藤に話しかけていた。


「チカちゃん。成瀬に話したい事があるから…。」

「うん大丈夫だよ。また明日ね。」


 本田が佐藤を帰した?

 どういう事だ?


「そこの公園で、少し話をしてもいい?」

「Certo...ああっと、うん。俺も言いたい事がある。」

「ふふっ。さっきから何を言っているの?」


 ふふって! 本田、笑うと可愛さが100倍だなオイ!


「どうしたの?」

「いや、なんでもない。舞い上がり中なもので。」

「私も…。」


 私もだって?

 今、私もって言いましたね?

 Davveroマジか…。



 そして俺たちは公園に着き、ベンチに座る。

 早上がり…。もとい、先に下校をしている低学年が、公園のあちらこちらでサッカーやバドミントンをしている。それらを見守るお母さんたちも、たくさん来ている。

 俺と本田もベンチに座り、低学年を見ていた。


「もうすぐ中学生だね。」

 本田が先に俺に話しかける。

「うん。本田は部活とか決めた?」


「うん。新体操か美術部に入ろうかと思う。」

「すごいな。全然違くね?」

「うん。成瀬は? 美術部?」


 美術部?


「決めてない。でもたぶん美術部。」

「やっぱなー。」

「なんで?」

「なんとなく、そう思った。」


 初めて本田とまともに話をしたな…。

 優しい口調…。

 真っ直ぐに俺を見る綺麗な瞳。

 やっぱ大好きだ!


「あの、本田。さっきの手紙…。」

「あ、待って。私が先に手紙の返事を言うね。」


 本田はそう言って俺の目の前に立つ。

 そして一度、深呼吸をした。


「本田 麻子は 成瀬 浩くんの事をずっと前から好きでした。」


 本田はそう言うと、下を向いてしまった。


「Wao! 本田! Ti voglio bene!」(大好きだ!)

 俺はそう言って、本田の両手を握りしめた。


「もう、なんでイタリア語で言うの?」

「ああ、ごめん! 俺も大好きだ本田!」


 俺たちの事を気にかけていた、低学年の母親たちが拍手をしている。

 見ず知らずの人に祝福されるって、不思議な感じだ。


 ん?

 あれれ?


 そういえば、何で本田はイタリア語がわかるんだ?

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