Penetrate

第5話 始 Launch



 三月下旬。俺はイタリア領にあるパンテッレリーア空港に到着した。

 そこはシチリア島から西にある離島の小島だ。

 本来なら日本からの直行便のあるパレルモの、プンタ・ライジ空港に行くが、マリーさんの付き添いで、このパンテッレリーア島の、ガディルという港町のような所に立ち寄ることになったからだ。


 三月下旬だが、こちらの気候は少し汗ばむ感じがする。日本では感じる事のできない、カラッとし気候だ。なのに手に汗をにぎる感覚は、悪路をかっ飛ばす車が、そう感じさせるのかも知れない…。


「あと少しで着くぞ。」

 マリーさんが俺に言う。

「Sono nervoso.」

「あはは。無理にイタリア語を使わないでいいぞ。ちなみに、こう言う時はSono teso.の方が良いな。Sono nervoso.は女が使う言葉だ。」


 ガーン…。顔に縦線、ガーン…。

 俺は心の中で呟いた。


 そして、ガディルに到着し、その町にあるワイナリーの店主と話すマリーさん。

 相手の店主は俺の方をチラチラと見ながら、マリーさんと話をしている。早口だが何となく会話の内容はわかった。

 その内容からして、日本人をあまり好ましく思っていない様子が伺える。俺の心は早くも折れかけていた。RPGロープレで言うところの、心に40のダメージを喰らった状態。

 

「フィーロ、フェリーに向かうぞ。」

 マリーさんの一言で顔をあげる。どうやら俺は勝手に意気消沈していたようだ。

 店主から預かった荷物を車のトランクへ入れ、俺はマリーさんと後部座席へ入った。

「以前、日本人がお店に来て色々やらかしたそうだ。そこの子ネズミちゃんはしっかり育てろよ。だそうだ。」


 俺のことが気に入らなかった訳じゃないのか? 良かった…。


 

 ガディルを出て15分ほど経過したところで、マリーさんが運転手に言った。

 またもや早口であまり聞き取れなかったが、もう少しゆっくりと走ってくれ。と言っているようだ。

 運転手は笑いながら答えている。おそらく、「急がないと船に間に合わないよ。」的なことを言っているようだ。

 確かに道路が悪路なのにスピードを出しすぎていて、頭をドアに何度もぶつけている状態。日本の道路事情では考えられないほどの悪路だ。

 あと、この運転手は日本のタクシー会社では働くことはできない、と思ったのは俺だけじゃないだろう。

 


 そして、ようやく港に着く。

 身体は未だ揺れているように感じる。マリーさんを見ると俺と同じ状態のようだ。




      🇯🇵




 その頃…。


「返事したの?」


「まだ…。」

「イタリアに行っちゃったらどうするのよ。」


 そうか、ナッツは知らないのか…。


「もう、行っちゃったみたい…。」

「マジか! もう、タマコは…。」


 そんなに責めないでよ…。

 泣きたいのはこっちなんだから…。


 はぁ…。

 何で返事をしなかったんだろう。

 今度こそ、と思ったのに…。

 後悔しても遅いけど…。


「タマコ、今は待つしかないね。三年以上も待たせたんだから、今度はタマコが待つ番だよ。」

「うん…。」


 私とナッツは学校推薦で、この高校に入った。もちろん新体操部に入ることが条件ということで。

 ちなみに岩城もこの学校だ。彼女はアートクラスなので、棟が違うから、滅多に会うことも無いけど。


「おい本田、おいで!」

「はい!」

 監督? 何の用だろ。


「お前はクラブとリボンだったな。」

「はい。」

「一年生のクラブとリボンはお前が指揮を取れ。」


 いきなりか…。

 できるかな…。

 

「一年のクラブとリボンは本田に着いていけ。」

「はい!」


 ハイって!? 私でいいのかな…。




      🇮🇹




 シチリアに来て4ヶ月。仕事もだいぶ慣れてきた。


 本土に届けるワインの仕分けや、観光客相手のワインの試飲の用意。葡萄ふみふみ嬢(観光客に見せるイベント)の手伝いをし、あっという間に1日が終わる。

 当初、女性ばかりの職場で怖かったが、今はだいぶ慣れてきた。女性たちの力の凄さにも驚かされる。

 男の俺が持ち上げられないカゴや樽を いとも簡単に持ち上げ、トラックに積み込んでいる。

 最近は俺もできるようになってきたけど。

 あと一番の驚きは太陽だ。八月のなのに日の出が6時くらい。日の入りなんて夜の8時半ごろまで薄明るい。


 日本じゃ今頃は夏休みか…。

 

 本田、新体操続けているのかな…。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る