第4話 了 Termination


 3月中旬、中学校生活の最終日。

 いわゆる一つの卒業式だ。


 皆が進学をする中、俺はというと、4月から冬の繁忙期まで、マリーさんの実家で働く事にした。

 2月に帰国し、総合芸術高校には一般受験する事にしたのだ。母さんは俺に泣きながら謝っていたが、早く一般の家庭と同じになりたいという、俺の気持ちを優先してくれた。

 恥ずかしながら、我が成瀬家には多額の借金がある。父親の治療費の他に、父親がガン宣告をされた際に、自棄になった父が消費者金融から借りた金だ。

 どちらかと言うと、後者の借金がだいぶある。姉さんも返済に協力しているが、中々、追いつかないのが状況だ。

 そんな中、マリーさんが実家を継ぐ事になり、「帰国するからフィーロも来い。」と言ってくれた。

 仕事の内容を聞き、拘束時間は長いけど、お金になるのなら…と思い、決心をした。

 正直なところ、初めての海外なので恐怖感が半端ない。言語は英語ではなく、イタリア語。その中でもカラブリア語というのが主流らしい。

 ガチでホンヤクコンニャクが欲しいところだ…。


 そして、俺の今日の一大イベント。今日こそ本田に告白する。

 祐一は「当たって砕けろ!」と言い励ましてくれたが、よくよく考えてみると、祐一の激励はじゃねえか!

 その他、同じクラスの中山も、朝から俺の顔を見ると「頑張れ!」と言わんばかりのガッツポーズをしている。いや、この場合はナッツポーズか? うまいこと言っちまったな。心の中でだけど…。プラス岩城もだ。わざわざ俺のいるクラスに来て、俺の肩を叩きながら親指を立てている。

 こいつら、もうヤダ…。




      🌸




 式典終了…。


 昇降口にたむろする卒業生とその親たち。皆、個々に記念写真を撮っている。

 その中で一際目立つ、スタイルの良い茶髪のイタリア人男性。マリーさんだ。その横にはマリーさんの恋人もいる。


「ハイ、フィーロ!」

 大声で俺を呼ぶマリーさんに皆が俺とマリーさんを見る。


「Congratulazioni per il diploma!(卒業おめでとう)!」

「Quindi, grazie mille per essere stati qui. Grazie mille.(来てくれたのですね、ありがとうございます)」


「E'un po'bene.(少し良かったわよ)」

 片言だけど何とか話す俺のイタリア語に対し、マリーさんの恋人は言った。

「大丈夫だよ。フィーロならすぐに覚えるよ。」


 俺たちが祝福ムードの中、中山が楽しそうに話しかけてきた。

「あっ成瀬、この人ってSkyclawlersスカイクロラーズのヴォーカルの人でしょ?」

「う、うん。」


「フィーロ、このはフィーロの恋人かい?」

「違いますよー。」

 中山がマリーさんに答える。人懐っこいな中山は…。


「成瀬、今ならタマコが一人だから行って来い!」

 そう言って中山が俺の背中を叩いた。


 いつの間にか来ていた岩城が、中山と二人でマリーさんたちの相手をしてくれている。


「ありがと。行ってくるよ。」


 俺はそう言って、本田のところに向かう。

 今回は江川の邪魔は無さそうだ。仮に邪魔が入っても関係ない!


 本田が俺に気がついた。

 一歩、一歩と近づく俺に、緊張しているようだ。

 だが、タマコさんよ。恐らく俺の緊張はあなたの百倍以上ですよ…。


「本田。」

「何?」


 うわぁー。緊張する…。


「卒業おめでとう。」

「成瀬もでしょ? おめでとう…。」


「あのさ…。小学校の時はごめん。嫌な思いをさせちまった。」

「別に…。」


「本田は、高校はどこに行くの?」

「○京女子…。」

「そうなんだ…俺の姉さんが行ったところだ…。」

「へ、へえ…。成瀬のお姉さんも新体操部だったもんね…。」


 しばらく無言が続く…。


「成瀬は? 高校…どこ?」

「俺はもう一年間受験生。来年の一月までイタリアのシチリア島で働くんだ。お金を貯めてから高校に行く。」


 驚いた顔をする本田。


「成瀬が? 働くの?」

「うん。だから…言おうと思ってさ。」


「何を?」

「ちゃんと言うよ。」


「えっ? 待って!」

「待たない! 成瀬 浩は本田 麻子のことが大好きです。」


 またもや驚いた顔をする本田。


「え…。あ、ありがとう…。」


 本田はそのまま、下を向いてしまった。

 地面を見つめる本田から、その後の言葉はなかった。


 ありゃりゃ…。

 最後までやっちまったな…。


「変なこと言ってごめんな。それじゃ。」



 俺の初恋が終わった。


 永かったな…。

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