第2話 兆 sign


 九月に入り、三年生が各部活を引退する。俺のいる美術部も三年生が引退をした。

 そして、何度かコンクールで入賞をしている俺は、美術部の部長となった。と言っても、部員のほとんどが幽霊部員のため、部室に顔を出すのは数名の少人数の美術部だ。

 しかも、俺自身があまり顔を出さないのが現状だったりして。


 そして今日は部長会議。流石に今日は出席をしなければならない。各部の部長と副部長が出席をするのだが、副部長って誰だか知らないんだよな。


 俺は部長会議が行われる視聴覚室に行く前に、美術部の部室へと向かった。


 部室に入ると一斉に立ち上がる四名の一年生。「こんにちは。」と声をそろえる後輩たちに、お気遣いありがとうございます。と、言われる度に思ってしまう。


「こんにちは。ところで副部って誰?」

 俺の質問に答えたのは一年の時に同じクラスだった岩城いわき 成美なるみ

「ああ、私。もう会議の時間かな? 成瀬はあんまり顔を出さないから知らなかったんでしょ?」

「ゴメンって…。そういえば岩城いわきだったね。 迎えにきたんだけど? 会議に行こうぜ。」

 バレバレの言い訳を言う俺。

「うん。」

 俺の言い訳に笑顔で答えてくれた岩城だった。




      👟

 



 視聴覚室に入ると、結構な人数が集まっている。

 文化部と運動部に分かれたテーブル。俺と岩城は美術部の札に座る。

 美術部は文化部と運動部の境界線の為、隣は新体操部だ。そして俺の隣に座ったのは中山だった。


「中山って部長になったんだな。」

「違う違う。私は副部。部長はタマコだよ。」


 そう言った中山の隣には本田がいた。

 本田ってタマコって呼ばれているのか?


「タマコ?」

本田ほんだ 麻子あさこでしょ? 本を抜いて、田麻子タマコだよ。ところで成瀬は部長?」

「ああ、うん。」


「タマコ、成瀬は部長だって。確かに朝礼で何回も表彰されているもんね。」

「うん。」


 中山よ。タマコが痛々しいからもうやめてくれ。


「おおナッツ、久しぶりだね。タマコは部長なの? 私は成瀬に部長の座を取られたよ…。内申をプラス1にできなかったよ…。」


 中山はナッツか。夏菜だからか?

 それに付けても本田さんよ、俺の方を全く見ないな。さすがに傷つくぞ?


「それでは部長会議を始めます!」

 生徒会長の一声で、室内が静まりかえった。


 何時までやるのかな…。




      🏫




 会議後に次の司会と書記を決めるため、部長だけが残された。決め方は古典的な方法の。優秀な部長の俺は次も出席だけで済んだぜ。ウェーイ!


 部室に戻ると、岩城が戸締りをしている。


「ああ。お疲れ。次の司会は何部になった?」

 窓を閉め、カーテンを引きながら岩城が言う。

「新体操部と演劇部。」

「おお。成瀬はクジ運がいいね。助かったよ。」

「いえいえ。戸締りだけど、あとは俺がやるから先に帰っていいぜ。」

「成瀬は鍵の置き場を知らないでしょ? 今日だけ一緒に行ってあげるよ。。」

「強調するね。それじゃ頼むわ。。」

 



 岩城と部室の鍵を返却し、二人で正門を出る。


「お? 成瀬じゃん。」

 ああ、めんどくさい女が居やがった。江川が取り巻きたちと、門の前で井戸端会議をしている。


「成瀬、今度は岩城にアタックか? それとも中山か?」


 中山? なんで中山が出てくるんだ?


「ねえ江川、そういうのやめなよ。モテない女みたいでカッコ悪いよ?」

 取り巻きの一人が江川に向かい、そう言うと江川は「うるさい! 帰るよ!」と言い、その場を去った。

 何なんだ? あの女は?


「あのさ、成瀬。」

「ん?」

「江川って昔から、あんな感じなの?」

「あんな感じって? 負け犬の去り方?」

「あははは! うまい! あははは!」


 そんなに面白いか?


「ふぅ…。ねえ成瀬。」

「ん?」

「突然だけどタマコの事、まだ好きなの?」


 何で知ってるの!?

 って江川が言いふらしているからな…。


「うん。」

「そっか…。」

「まだフラレた訳じゃないし…。今、告ったら前の時より酷くなりそうだから、卒業したら告るつもりでいる。」

「もし、タマコに彼氏ができちゃったらどうするの?」


 何でそんなこと聞くんだ?


「そしたら、そこで俺の初恋の終了だ。」

「そうか…。」


 どうした?

 岩城ってこんな感じだったんだな。

 去年は同じクラスだったけど、何度か会話をする程度だったからわからなかった。

 とりあえず、ここにいても始まらねえし、帰るか。

「それじゃ岩城、また明日。」

「あ、うん。また明日…。って、部活に来なさいよ!」


 返事をしたくなかったので、俺は振り返らずに手だけで合図をした。

 


 そして俺が帰宅をすると、思いがけない訃報が入っていた。


 父親が死んだ…。





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