不感謝

ジャックと豆柴

不感しゃ

 「ありがとう」の言葉の裏を考えてしまう。こんな事を思う私が私は嫌いだ。街を歩く少年少女はこんな事を考えるだろうか。些細な事にも心を大事にするおばあさんは、そんな事を思っているだろうか。実際の所考えていないだろう。しかし、私は「嫌いだ」感謝の前にある建前と、裏にある形式に囚われた儀式にも似たこの風習が。嫌いだ。


 不機嫌な表情で歩いている。決して気分が悪いのではない。ただ、そう言う顔なのである。少し眠いと言うのもあるかもしれないが、日常の様に私は言われる。


「機嫌悪いの?」


「嫌なことあったの?」


強いて言えば、そう言われるのが嫌である。今日はまだ良いことも悪いことも何もない。


「いえ、何もないですよ。」


なぜ、ただ来ただけでそうなるのか。毎日類似した会話から仕事が始まる。


 私は事務仕事をしている。慣れてしまえば簡単であるが、年に数回程度のものが来ると分からないものが殆どである。先輩や上司に教わりに行くが、指導の他に半ば悪口に近いことまで言われる。


「ありがとうございます。やってみます。」


会話の殆どが批難であるのになぜ、ありがとうと言わなければならないのか。言わないこともあったが、ややこしくなったので建前で済ませることにしている。世に言う社会人として私は適合していないのだと思う。社会人の感性がわからない。きっとゆとり世代と嫌味を言われるのであろう。あなた達が決めたことなのに。そんなことを考えながら作業に戻る。


 終業後私はいつも会社近くのコンビニで晩ご飯を買う。可愛い店員さんがいるから。少し小柄で笑顔がとても凛とした女の子である。


「今日も可愛いね、髪型変えた?」


「変えてないですが、ありがとうございます!あと、コンビニ弁当ばかりだと余計目つき悪くなりますよ!」


しっかりと毒を吐かれるが、冗談を言える程度には話す仲である。しかし、この「ありがとう」は何なのだろうか。悪い気はしないがこれも建前であろう。


 今日は「ありがとう」に縛られる1日であった。会話の中に常にあり続け、瞳を瞑ってもなお頭の中で常に浮かび続ける。意味ばかり追い求めて、答えに辿り着けても私の中に変化は起こらないだろう。私は何に縛られているのだろう。分からぬまま眠りにつき、同じ朝を迎える。

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不感謝 ジャックと豆柴 @matsudamen

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