少女の名前

 天国の、雲のようにふわふわした地面の上で、何の気なしに正座をしていた。


「そ、その。……残念でしたね」


 申し訳なさそうな声がどこからか聞こえてくる。

 声の出所に目を移すと、天の門番さんが落ち込んだ表情で俯いていた。

 その様子を見て、今、改めて自分が置かれている状況を把握した。


「そっか。僕、また死んだのか」


 死ぬというのは恐ろしいものの筈なのに、自分の心の中は穏やかで、不思議と恐怖は無かった。


「……はい」

「死因とか分かる?」

「いえ、あなたの意識がないと、私の意識も消えてしまうのです。……だから覚えていません」


 そう言うとより一層悲しそうに俯いた。


「いや、大丈夫だけど。……また生き返れるんだよね?」

「えぇ。はい。その通りですが……」

「じゃあ大丈夫! 死んでも何度でも生き返れるのなら、それはむしろ感謝しかない」


 僕は落ち込んでいる彼女に対し、なるだけ明るくそう言い放つ。


「そうですか?」

「もちろん!」

「はぁ。よかったです」


 彼女は安堵のため息をつく。

 ……まぁしかし。今回は睡眠中で、自分の意識が遠い時に死んだのだから痛みを感じずに済んだのだろうが、次はこういくとも限らない。

 できれば、次のやり直しで死を回避したいところではある。


「じゃあ、行きましょうか?」

「あぁ」


 答えると、少女は何かを思い出した様に、手をポンと叩いた。


「そうだ! 忘れていたんですけど、私に名前をつけてくださいよ! 門番さんとか、なんか固い感じなので!」

「思ったんだけどさ、名前ないの?」

「ありません!」


 きっぱりとそう答える。


「……えっと。……じゃあ。アカリ……とか」

「ザ・ジャパニーズネームですね! いいと思います!」


 彼女──否、アカリは満足げにうんうんと頷く。

 どうやらお気に召してくれたらしい。


「そっか。ありがとうアカリ。じゃあ行こっか」

「そうしましょう!」


 眩い光に包まれる。

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