19

 ………………ピッ…………ピッ…………ピッ…………ピッ…………

 ……………………さん? ………………ぶ…………か…………?

 ……………………目を、覚ました…………。

 せんせーい! 患者さんが目を覚ましたました!!

 ……………………………………。

 ……………………………………。

 ……………………………………。

 ……………………………………。



 おはようございます。………………さん。

 換気のためにカーテンと窓、開けますね。

 うわぁ。良い風。

 あっ。風、強かったですか? ごめんなさいね。カーテン、ちょっと邪魔ですよね。

 体調はどうですか?

 ……………………………………。

 そうですか。それじゃあ、検温、失礼しますねー。

 ……………………………………。

 飯尾さーん! ちょっと良いかなぁ?

 あ、はーい。何ですか? 先輩。

 この部屋の患者さんなんだけど、お客さん来てるんだけど…………

 えーっと…………多分、大丈夫だと思います。

 そう? なら繋ぐわね。

 お待たせ致しました。コチラです。

 ……………………コチラの患者さんです。

 あ。どうも。

 では。私たちはここで。何かありましたら声を掛けて下さい。

 はい。

 ……ほら、飯尾さん!

 あっ! し、失礼します!!

 はい。ありがとう。

 ……………………………………。

 …………あー。うん。初めまして。私は刑事の宇津志と申します。

 僕は現田です。宜しくお願いします。

 目が覚めたばっかりで悪いんだけどね。少しお話させて貰えるかな?

 ……………………………………。

 そうかそうか。助かるよ。

 さて。私達が今日ここに来た理由なんだけどね、君は八月■■日にH総合病院跡に行っているよね?

 ああ。良いよ良いよ、隠さなくても。勝手に敷地内に不法侵入したことは良くない事ではあるんだけれども、今回はそこをどうこうと言う話では無いんだ。実はね、君にちょっと教えて貰いたいことがあってね。

 まず、この写真を見て欲しい。

 ……………………………………。

 ああ。そうだね。これは、君と一緒にH総合病院に行った人達だよ。

 …………え? みんなはどうしてるのかって?

 ……宇津志さん……ちょっと……。

 …………うん。うん。……いや。多分大丈夫だろう。……ああ。そうだね、現田くん。

 ああ。済まなかったね。話を続けようか。

 先程質問された件だけどね。良いかい。気を取り乱さず、落ち着いて聞いて欲しい。

 まず、犀川奈穂さん。彼女は、病院の入口で蹲って泣いていたところを警察によって発見、保護された。

 彼女に関しては外傷というものはなく、健康状態も特に問題は無かったのだが、精神的に不安定でね。現在、別の病院にて療養中だ。

 次に生橋康幸くん。彼は君のすぐ近くで倒れているところを発見されたよ。

 彼の場合は犀川さんとは違い意識がない状態で搬送されている。鈍器のような物で全身を殴打されて居るらしく、骨折が数カ所に加え多数の打撲と内出血の痕があった。中でも頭部への衝撃は最も強かったようで、未だこの病院の集中治療室で治療を受けていて、残念ながら目を覚ます気配は今の所無さそうだ。

 最後に喜久本夕子さんだが…………。

 ……………………………………。

 ……んっ……んんっ…………ゴホン。い、いや。悪かったね。で、喜久本夕子さんなのだが………………彼女は死体となって発見された。

 ……………………………………。

 ……そうだろうね。……驚くのも無理は無い。しかし、我々警察が病院に駆けつけた時にはもう、彼女は既に事切れてしまっていた。

 彼女の肉体は上と下とで二つに分かれていて、見るも悲惨な状態だったよ。

 ……………………………………。

 そうだね。想像するだけでも恐ろしい……それが現実に起こったことだと、受け入れがたく否定したくなる気持ちは分かるよ。だが、我々は君に聞かなければならない。どうしてだか分かるかい?

 …………そうだ。これは子供達の好奇心で起こったやんちゃな遊びとして済まされる話ではなくなってしまっているからだ。

 何から説明したらいいかなぁ? そうだねぇ…………我々警察があの病院に駆けつけたのは、君たちのライブ配信というものを見て居た視聴者の人間が通報してきたからだな。

 我々としては過去に、肝試しという巫山戯た理由で不法侵入をしている若者を何度か指導した経験があるからね。今回もまた、そう言う類の物だろうと呆れながら巡回中の者を向かわせたんだ。

 暫くして病院に到着した巡査から無線が入ったんだが、妙に慌てたような声でね。落ち着いて話を聞いてみると、病院の入り口で女の子を保護したと言っているんだな。指導して返すから交番に引き返せと指示を出したんだが、どうも雑音が酷くて声が拾えない。ただ、ハッキリと「急いできて欲しい」という呼びかけだけは聞こえてきたんだよ。

 そこでな。私は妙な胸騒ぎを覚えた。

 何だか嫌な予感がしてな。それで現田くんと一緒に慌てて現場に向かったんだな。

 到着して待機していた巡査に話を聞いてみると、女の子から他のメンバーが中に居る、助けて欲しいと頼まれたと言うじゃないか。仕方無く私は巡査の彼に応援要請を頼んで現田くんと二人で現場に足を踏み入れたんだよ。

 使われなくなった病院というものは、日が昇っている時間でも大分気味が悪いものだね。薄暗くて、足元も危なっかしい。総合病院跡だから規模も大きいしね。取りあえず現田くんと手分けして残りのメンバーを探してみたさ。

 二階の奥の部屋……だったかなぁ? 君と生橋くんが倒れていた場所は。幸いにも君たちは私が見つけた。両方とも怪我をしていて意識がなかったから、急いで救急車を手配したよ。

 ……運が悪かったのは僕の方です。

 そうだね。

 ……宇津志さんと別れて他のブロックを探していたのですが、西館二階の奥の部屋……多分、あれは……手術室ですかね? その扉付近で鼻を突く嫌な臭いがしてきたんです。

 一応……これでも刑事……ですからね……。それが血液によるものだと、直ぐに分かりました。何となく予感はあったのですが、それでも万が一って事もありますから……宇津志さんを待たずに開けたんです。その扉を……そしたら……。

 彼女……喜久本夕子……の死体を見つけた、と。そう言うことだよな?

 はい。そうです。

 先ほど、宇津志さんからも説明があった通り、喜久本夕子さんは、僕が見つけた時点ではもう既に生きては居ませんでした。死因は出血性のショック死。胴体が切断されていた時点では、生体反応はあり…………つまり、まだ息があったんだそうです。

 ……………………………………。

 彼女の体は、無造作に床の上に放り出されていました。

 乱暴がされた形跡はなく目立った抵抗もないことから、顔見知りの誰かに殺された可能性が高いと我々は考えております。

 ……………………………………。

 何故?

 そう聞きたそうですね。

 分かります。何故この様な話を、我々が君にしているのか。それを君はとても不思議に思っている。

 答えは至って簡単です。現時点で、この事件の事について語れる人間が君一人しか居ないからですよ。

 何度もお伝えしているように、今回君たちが行った肝試しに参加していたのは、君と生橋康幸くん、犀川奈穂さん、喜久本夕子さんの四人。うち、一人は死亡、一人は意識不明、一人は精神錯乱でまともに会話が出来る人間が居ませんでした。数日前までは。

 今はというと、君が意識を取り戻し、こうして私たちと言葉のやりとりが出来ることに安心しています。

 君は事件の当事者ですので、誰よりも詳細に『何が起こったのか』を覚えて居るでしょう?

 教えてくれませんかね? あの日、君たちに、何があったのかを。

 ……………………………………。

 ……………………………………。

 ……………………………………。

 ……………………………………。

 ……ちょっと待ってくれ。いや。それはおかしいよ。君たちの他にもう一人……呼坂周吾くん? 彼も肝試しに参加していたっていうのは始めて聞く話なんだが……。

 ……ちょっと現田くん、良いかな?

 何でしょう、宇津志さん。

 ……………………………………。

 ……はい。はい。

 …………………………だよな…………。

 はい。そうです。

 ……それは直ぐに送って貰えそうか?

 ちょっと待って下さい。今、連絡してみますので。

 ……ふぅ。すまないね。君の口からもう一人のメンバーの名前が出たことは、我々としても予想外でね。今、それを確認して貰っているから、少し待っていて欲しい。

 …………あ。届きましたよ、宇津志さん。

 どれ?

 これです。

 ほう…………。

 動画、結構な時間がありますので、早送りで確認していきましょうか。

 そうだな。よろしく頼むよ、現田くん。

 はい。

 ……………………………………。

 ……………………………………。

 ……………………………………。

 ……………………………………。

 ……………………………………。

 ……………………………………。

 ……………………………………。

 ……………………………………。

 …………いま……せんね。

 そうだな。

 こっちの映像も、矢張り同じ人数しか参加していないようです。先ほど確認した通り、参加している人間は四名。それで間違いはありませんね。

 そうだな。

 ……あー……待たせたね。君も何となく気付いたかとは思うが、君の言葉が本当なのかどうか、今、ここで確認させてもらったよ。

 ライブで配信されていた映像と、君の近くに落ちていたビデオカメラ。その二つを確認してみたところ、五人目の呼坂周吾くんの存在は確認出来なかった。

 ……………………………………!?

 そんな馬鹿な? いや。これは本当の事だ。嘘じゃない。

 ……………………………………!!

 というかね。とても言いにくいのだが、我々は、この事件の犯人は君なのではないかと疑っている。君にはまだ話していなかったが、君を発見したとき君の顔の近くには血の付いたピエロの仮面が。手には生橋くんと君の血の付いた鉄パイプが握られていた。

 君たちの間で何があったのかなんて、私には分からない。だが、状況証拠が揃っているんだ。君の怪我の状態と凶器に付着した血液から考えるに、君たちの間に意見の齟齬がでたのだろうな。言い争った結果、双方で殴り合いに発展した。先に殴ってきたのは生橋くんの方なのだろうね。それは君が撮影していたカメラの映像が何よりの証拠だ。

 君が倒れたことに安心したのか、生橋くんは君を残して何処かに移動しようとしている。それを……君が背後から殴りつけた。

 ああ。もちろん、君は正当防衛の可能性だってある。殺意が有ったのかも重要だ。だからこそ、君にあの時何があったのかをしっかり説明して貰いたいんだ。そうでなければ、公平な捜査は難しいからね。

 え? 喜久本さんの件はどう説明するのかだって?

 そこはまだ捜査中なので、詳しいことは言えないよ。

 僕たちは被害者だ? 呼坂くんに聞けば分かる?

 こらこら。何を言っているんだ。さっきも言っただろう? 肝試しに参加していたメンバーは五人じゃなくて、全部で四人。


「呼坂周吾なんて子は、始めから居なかったんだよ。何故なら、生橋康幸くんの配信も君のカメラにも、映ってなんか居なかったんだからね」


 だからほら。ちゃんと話して。




 あの時君たちは、一体『何』をしようとしていたのかを、ね。

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