14

 ユウコちゃーんっっ! ユウコちゃん! どこに居るのーっっ!?

 おーい! ユウコちゃーん!

 ユウコさー…………な、ナホさん! アレ!! 

 えっ!? 何!? シュウゴくん!!

 彼処です! 彼処!!

 ど…………こ…………ユウコちゃん!! ユウコちゃん!?

 あっ! おい、ナホっ!! まっ…………

 ユウコちゃん!!

『…………………………コニ………………ノ………』

 誰だっっ!?

 …………あれ……は………………

 何だよ、アレ…………

 ナホさん!! 待ってっっ!!

 きゃあああっっ!!

『ドンッ』

 …………んでよ……なんで……何で止めるの!? シュウゴくん!!

 落ち着いて下さい!! ナホさん!!

 落ち着けるワケ無いでしょ!! 彼処にユウコちゃんが倒れてるんだよ!? 早く助けに行かなきゃ!!

 分かってる……分かってるけどよ、ナホ…………。

 何よ!? ヤスユキまで!! 馬鹿な事言ってないで、早くユウコちゃんを…………

 黙れっっ!!

 っっっ!?

 俺だって早く助けてやりたいよ!! でも、今、動いたら、多分、ヤベェ…………。

 どういう……こと…………?

 ……いいですか、ナホさん。落ち着いて、聞いて下さい……ね。

 ……………………うん。

 ユウコさんが彼処に倒れてるのは分かりますよね?

 もちろん。分かる、よ。

 じゃあ、ゆっくり、視線を上に上げてみてください。

 …………分かった。……ユウコちゃんから、上に視線を上げれば良いんだよ……ね……?

 そうです。

 う、うん。

 ……………………………………………………え?

 …………見えましたか?

 ちょっと待って。何? 何が見えるの?

 見え無かったのなら、もう一度。ゆっくり、視線を前に向けるようにして、移動させて下さい。

 ………………うん…………。

『………ゴクリ…………』

 …………え?

 見えましたか?

 なん……か……赤……い……?

 ええ。そうです。

 赤いのが……見え……る……?

 そうです。当たっています。

 ……何……あれ……。

 分からん。

 なんっ…………

 正直、俺には、サッパリ分かんねぇよ。ただ、アレが、ヤベェもんだってのは、何となく分かる。

 ヤバイモノって何?

 あんまり良いもんじゃねぇってことだ。

 そんなの、全然説明になってないよ。

 説明することは難しいと思います。

 何よぉ……それ……。

 ただ、コレが何であるかを無理矢理説明するとしたら……覚えて居ますか? ナホさん。『霊安室の幽霊の噂』を。

 霊安室の……ゆう……れい……?

 そうです。霊安室の前に出るという女の噂です。

 えっと……それって、『トレンチコート』を着て『赤いハイヒール』を履いた女の幽霊の話……だよね……?

 はい。

 で、でも……その噂と目の前の赤い色と……何の関係が……?

 もっと目を凝らして……しっかり見て下さい。ほら、彼処…………。

 どこのこと………あっ!!

 見えましたか?

 ……うそ……うそよっ……うそっっ!!

 ……嘘じゃねぇよ…………ユウコちゃんの上に『居る』んだよ。赤い女が。

 ねぇ! これ、夢なんだよね!? そうよ! そうに決まってる!! ほっぺたを抓ったら多分全然痛くないから!

 馬鹿な事やんねぇでも、コレは現実だよ。

 そんなっ!? だって、噂と違うじゃない!! トレンチコートを着て赤いハイヒールを履いた女って言ってたのに、彼処にいるのは、赤いワンピースを着てる女性っぽいものだよ!? きっと目の錯覚だよ!! ライトを当てたら消えるもんっ!!

 止めて下さいっっ!!

 きゃあっ!?

 駄目です。ナホさん。

 何で!? 何でよ! シュウゴくん!!

 光を向けたら『気付かれます』。そうなると多分、『逃げられない』。

 そんなことないっ!! 気付かれるなら、今こうやって大きな声で話してるだけでもバレちゃうじゃない!! なのに、何で声は大丈夫で光は駄目なの!? おかしいよ!!

 …………あれ、耳は聞こえてねぇのかも……。

 はぁ? 何言ってんの? そんなことあるわけ…………

 その可能性はゼロではないと思います。

 どうしちゃったの!? 二人とも!!

 これだけ大きな声でナホさんが喋っていても、アレは僕たちの方を一切見ていません。ずっとユウコさんだけを見てますね。もしかすると、ヤスさんの言う通り、こちらの音はアレには聞こえてないのかも。

 そんなことどうでも良いよ!! それよりも、ユウコちゃんだよ!! ねぇ! 早く、助けに行こうよ!!

 ………………………………。

 ヤス……? ……ねぇ……何で、動かない……の……?

 ……………………悪りぃ……ナホ……。

 ……何……言って……

 震え……止まねぇ……んだ……さっきから……。

 ……ヤス?

 ユウコさんを助けたいのは、僕たちも一緒です。……でも、すいません……動けない…………。

 シュウゴ……くん……?

 怖えぇんだよ……情けねぇけど……さぁ……。

 ヤス! しっかりしてよ!! 何言ってんのよ!!

 駄目なんだよ!! 怖いんだって!! 何だか分かんねぇんだけど、アレがすっげぇ怖くて動けねぇんだよ!!

 シュウゴくん!! シュウゴくんからも何か言ってやってよっ!!

 無理……です。

 何で!?

 僕も、同じように怖いんです。アレが、とても…………。

 何よ…………何よ、何よ、何よ、何よ何よ何よなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによなによ…………

 ………な……ほ…………?

 意気地無しッッッッッ!!

 男の癖に何よその態度!! もういいっ!! ユウコちゃんは私が助けるからっっ!!

 ばっ、止めろ!! ナホォォォッッッッッ!!!!!!


『…………………………ダ……れ…………』


 ヒィッ…………

 な、何よ! アンタ!!

『………ダ……れ…………ダ…………れ…………』

 アンタなんか、恐く無いわよっ!! ユウコちゃんから離れてっっ!!

『……ダ……れ……ダ……れ……ダ……れ……ダ……れ……』

 ……な……何よ……。ゆ、ユウコちゃんから、離れなさいよっっ!!

『ダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれダれ』

 煩いわね!! 黙りなさいっっ!!

『みぃつけた』

 ……え?

『あは、アははは、あははハははははははははははははははハははははははハはははははははははははははははハはははははハははハははははははははハははははははハははははハはハはハハははハはははははハははははハはははははははははははははははははははははハははハはははハはははハはははハはははははははははははハはははははハはははははハはハはハはははははははははハははハはははははははハハはははははははハはははははははハはははははははハははハはははははははハははははははははははハはハははははははハははハはハはははハははははははははハはははははハはははははははははははははははハははははははははははははハハはハははははハははハはははハはハハはハはハハ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 うるさいっっっっっっっっっっっ!!

『……………………』

 …………っ………ぅ………くっ………。なに……よ……あんた……なんか………っ……

『…………コレカラガ、ハジマリダカラ』

 いっっ……

 いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっ!!


 ナホ!!

 ナホさん!!

 ナホ!! 落ち着け!! ナホっっ!!

 いやっ! いやだっ!! いやぁあああああああああああああああああああっっっ!! やだっっ!! はなしてっ!! 離してぇぇっっっっっっっっっ!!

 ナホ!! 落ち着けっっ!! ナホっっっ!!

 いやだぁぁっっっ!! やぁぁっっっ!! 離して! 離してよぉぉっっっ!! いやぁあああああっっっ!!

 ナホっっっっ!! いい加減に…………しろっっっっっ!!

 …………あ…………。

 ……はぁ……はぁ…………。

 ……あた…………し…………

 な……ほ……?

 …………………………あた……し……なに……を…………。

 ……大丈夫ですか? ナホ……さん……。

 ……あたし……なに…………

 ……お前が……アレに、光なんて当てるから…………。

 ひか……り……?

 ああ。

 …………あれ……って…………?

 赤い女、ですよ。

 あか……い……おん……な…………

 そうだ。赤い女だ。

 そう……私……あの女に……懐中電灯を向け…………そうだ! ユウコちゃん!! ユウコちゃんは!?

 そうだ。ユウコさん!!

 ユウコちゃん!!

 なぁ、おい、お前! 頼む! ナホに付いていってやってくれっ!

 ユウコちゃん! ユウコちゃん!!

 ユウコさん! 大丈夫ですか!? ユウコさん!!

 ユウコちゃん!! お願いだから、目を覚まして!!


 たーん…………


 …………え?


 たーん、たたたった、たーん……


 ……何…だよ……この……音……。


 たーん、たたたった、たーん……


 今度は……何……? ……何なの……ねぇ…………。


 たーん、たたたった、たーん……


 この音、一体どこから…………。


 たーん、たたたった、たーん。たたたたった、たたった、たーん。たたたたった、たたった、たた、たた、たたたたった、たたたたった、たた、たた、たーん…………


 いやあぁっっ!! もう、帰るっっ!! もうやだぁあああっっっ!!

 おいっ! ナホっっ!!

 ユウコちゃん!! 起きてよっ! ユウコちゃん!!

 ナホさん! 落ち着いて下さい! ナホさん!!

 もう帰ろうよ!! ねぇっ! 起きてってば!! ねぇっっ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る