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 まぁ、誰かが此処まで持って来てるだけ、だとは思うけどよぉ……

 …………ね、ねぇ!! ヤス、シュウゴくん!!

 ん? 何だよ、二人とも。

 ちょっと、来てよ!

 なっ、何でだよ!? ここ、女子トイレだろ!?

 良いから、良いから!

 ……というか、水は出ましたか?

 あ。うん。お水は出たんだけどね……それより、コレ…………。

 ……何だ? これ……。

 ただの、汚れた鏡。です……よね?

 おいおい。なんだよ。鏡じゃん。…………あー。もしかして……鏡に映った自分の顔にびびった! とかかぁ?

 ちっ、違うわよ! そうじゃなくて、良く見てよ! ほら!!

 んー……?

 あれ?

 どうしたよ? シュウゴくん。

 ヤスさん、見て下さい、ここ。

 んー…………ん? なんか、描かれて……る?

 鏡が汚れてるせいで見えにくくなってますが、何か絵が描いてあるみたいですね。

 えっと……汚れ落とせばちゃんと見れるかなぁ? ちょっと待って……確かティッシュが……あったあった! これを水で湿らせて……こうやって…………消したら………………って。何……これ……。

 絵、だな。

 それは分かるけど! これ…………建物……の……絵?

 ……うーん。形を見ると何となく、『メリーゴーランド』みたいなものに見えますね。

 メリーゴーランド?

 ええ。この三角のものが屋根で、柱が数本描いてあって、間に何か四角い物体が並んでますよね? で、地面があって……ほら。メリーゴーランドに見えません?

 言われてみれば、確かにそんな気もするな。

 で、でも、何でこんな場所にメリーゴーランドの絵なんて描いてあるの?

 さぁ? その辺は僕にも分かりません。前回、この女子トイレは確認してませんし。ほら……一応、女子トイレなので……。

 ってかさぁ、これ、この病院に肝試しに来た誰かが描いた落書きだろ? そんなに気にする必要ってあんのか?

 それはそうなんだけどさぁ…………。

 確かに。ヤスさんの言う通りこのイラストは、この病院に来た誰かが悪戯に描いたものだと僕も思います。……でも、何でメリーゴーランドなんだろう?

 え?

 ああ。だっておかしくありませんか? 病院とメリーゴーランドなんて、どう考えても接点ありませんよ? それに…………

 それに?


『何で、こんなに描きにくい物を、わざわざ落書きするんですかね?』


 自分が落書きするとしたら、こんな面倒臭い物なんて描かないですよ。真夜中のトイレで時間のかかる落書きなんて、やる必要ありますかね?

 うーん…………。

 で、でも、この落書き、別に真夜中にやったって訳じゃないかもだよ?

 と、言いますと?

 ほら。肝試しって夜にやる方が怖いけど、そういうの苦手だったら昼間に来る人もいるかもしれないじゃん。

 まぁ、確かにその可能性もありますよね。

 ……ってかよ。怖いの苦手だったら、そもそも肝試しなんてしなくね? 昼間でもこんだけデカイ施設って、なかなか来たいもんじゃねぇだろ。それに、昼間に来る方がリスクも高い気もするぜ? 色んな奴に見られるし、下手すりゃ通報されるかもだし。

 ……だったら、ヤスは夜中に来た誰かがコレを描いたっていうの?

 どっちかって言うと、そっちの方が可能性は高いかもなって話だろ? 実際どうなのかは知らねぇよ。

 まぁ、ここで何が起こってるのか話し合ったところで、答えなんて分からないですからね。これも、ただの落書きですよ。気にしない方が良いと思います。

 ……そ、……そうだよ……ね……。

 こんな場所に居るから、色んなものが怖く見えてるんじゃねぇの? 噂もあれだし、場所も廃病院だしさぁ。でも……まぁ、噂の場所を二箇所確認したけど、どっちも特に何も無かったわけだし、気にしすぎるのもどうかとは思うけどな。

 そうかぁ……そう、だよね。うん。私が一人で暴走しちゃってただけだよね。ごめんね、みんな。

 まぁ、気にすんなって!

 …………。

 こういう言い方は悪いんだけどよ。お前が結構叫び声上げてくれるから、実況、それなりに反響が良いんだわ。

 え? ちょっ、何よそれ!!

 ほらほら。見て見ろよ、コメント欄。

 えーっ! 何よぉ、コレ!!

 「ナホさんの叫び声、メチャクチャビビるですけど!」とか、「急に叫ぶな! ビックリしてヘッドフォン外したわ!」とか。「ナホちゃん、叫び声カワイイ〜」とか。結構コメント入ってるぜ?

 ちょっ、ヤダ! 恥ずかしいじゃん!!

 あっ。因みに、コレもバッチリ映ってまーす。イェーイ!

 止めてよ!! やだっ、写さないで!! もうっ、ヤスのバカっ!!

 いてっ、痛ててっ! おい、ヤメロよ! ナホ!!

 取りあえず、いつもの調子に戻ったって感じですかね? ほら。二人ともこんな感じですし。

 ………………ええ。えっと。で、次は霊安室、でしたっけ? そこなら、ここから本館に戻る途中に分岐するところがあるので、その先に進むと地下に降りる階段がありますよ。

 …………ん? ああ。そうだな。そろそろ行くか。此処で駄弁っててもしょうがねぇし。

 そうだね。行こうか、ユウコ……ちゃ……ん…………。

 どうしたー? 置いてくぞー、ナホー。

 ね、ねぇ……ヤス……。

 ん?

 ユウコちゃん、何処に、行っちゃったのかなぁ?

 はぁ?

 私、トイレにユウコちゃんと入ったはずなんだけど、ユウコちゃん、居ない……よ?

 何馬鹿な事言ってんだよ。個室にい……ちょっ、それだったら俺出るわ!

 え?

 いや! だって、此処女子トイレだろ!? 音とか聞かれたくねぇだろうが!!

 あっ。え、でも、待ってよ!!

 何でだよ!

 一人で個室確認するなんて、ヤダよ!!

 ばっ、そこはお前頑張れよ!! 男の俺が確認する方が、ユウコちゃん的にも嫌だろうが!

 そ、それはそうだけど! せめてノックする間だけは此処に居てよ! お願いだから!!

 …………どう……するよ?

 まぁ、ナホさんの言う事もわかりますからね。良いですよ。僕がノックしてきます。

 え? いい……の?

 あ。ハイ。僕、怖いのは結構平気なので。

 シュウゴくぅん……。

 ただ、ユウコさんには申し訳ないですけどね。そこはもう、ごめんなさいで許して貰うしかないですね。

 取りあえず安全確認出来れば良いから。そしたら私が一人で出てくるまで待てるから!

 了解です。じゃあ、奥の方から順番に確認していきますね。

 う、うん。

『コン、コン』

 ユウコさーん。いますかー?

 ……………………。

 うーん。居ない。ですかねぇ? あ。どうします?ノックだけにします? それとも、念のために軽く扉は押してみますか?

 扉、押してもらえるなら……。

 分かりました。ユウコさーん。

『ぎぃ…………』

 ……………居ません。ね。

 う、うん。

 それじゃあ次の個室ですね。

『コン、コン』

 ユウコさん、居ますか?

 …………………。

 開けますよー? 良いですね?

『ぎぃ…………』

 こっちも普通に空きますね。

 誰も、居ない、ね。

 そうですね。

 じゃあ次はこっちですね。

『コン、コン』

 ユウコさん、居ますか?

 …………………。

 開けますよー? 良いですね?

『ぎぃ…………』

 こっちの個室にも居ないみたいです。

 ……ってことは、残った個室はこれ、一つ……か?

 そうですね。

『コン、コン』

 ユウコさーん、居ますかぁ?

 …………………。

 開けますよー? 

『ぎぃ…………』

 …………あれ? ここ、掃除道具が入ってます。個室トイレじゃないみたいですよ。

 え? 嘘っ!?

 ほら。掃除道具。

 ほん……とだ……。掃除道具がある。

 ってことは……ユウコさん。何処に行ってしまったんでしょうか?

 やべぇ!! マジカよ!! それって拙いだろ!! 行方不明とか洒落になんねぇぞ!?

 ちょっ、ヤダ!! そんなこと言わないでよ!! 止めてよ、ヤス!!

 と、取りあえず探すぞ! 警察沙汰だけは勘弁だからな!

 ……………………してるのに?

 何か言ったか!?

 いえ。何でもないです。取りあえず、急いで探しましょう!

 そ、そうだな!

 手分けしますか?

 ……その方が良いだろうけど……。

 それは駄目!!

 ナホ?

 だって、手分けしてユウコちゃんが見つかっても、他の誰かが居なくなっちゃったらまた探さなきゃいけなくなるじゃん! 意味無いよ!!

 だとしたら、最悪警察に通報することも視野にいれましょう。

 ……仕方無いな。分かった。

 じゃあ、探しに行きましょうか。

 お、おう。

 ユウコさーん! 何処ですかー!

 ユウコちゃーん! 聞こえてたら返事してー!!

 ユウコちゃーん! 何処にいるんだよー!

 ユウコさーん! …………あ。そうだ! ナホさん!!

 何? シュウゴくん。

 携帯! 携帯ですよ!

 え?

 ナホさん、ユウコさんの番号知ってますか?

 えっと…………うん。一応知ってるよ。

 だったら、かけて下さい、電話。

 え?

 音消してなければ、着信音がどっかから聞こえてくるかもしれません。

 あっ! そうか! 携帯の音を辿ればユウコちゃん、見つかるかもってことだな!

 そうです。

 そうだね! 待って。今かけるから…………。

『……………くずーのー…………めー……をー……』

 何か、聞こえねぇか?

 音楽……ですかね?

 これ…………これ、ユウコちゃんの着歌だよ!! スゴイ好きな曲だって、前に聞かせて貰ったことあるから!

 おお! だったら、この音を辿っていけば見つけられるか?

 多分! こっち!

 ナホさん! ちょっと待って下さい!!

 早く、早く!! こっちから聞こえる!!

 ナホっ! 走るなって!! おいっ!!

 早くしてよ! ユウコちゃん、心配じゃない!!

 分かってる! 分かってっけどよ!! 急ぐとまた転けるぞ!!

 そんなこと無いわよ!! って、この下! ……はぁ……はぁ……この下から音が聞こえてくるよ!!

 ……はぁ……はか……ホントだ。 さっきよりも大きくなってるな、音。

 そう……ですね…………さっきよりも、はっきり、歌が……聞こえますね………。

 …………行こう。

 ああ。

 …………ユウコ……ちゃーん……居る……?

 ユウコさーん。居ますかぁ?

 …………さっきより、暗い……な……。

 窓がない……ってことは、地下。ですかね?

 地下?

 はい。

 そんな……だって、俺たち、さっきまで三階に居たんじゃ無かったっけか?

 そんなことはどうでもいいよ!! まずは、ユウコちゃんを探すのが先でしょ!

 そんなことはって……おま……

 ユウコちゃーん! どこー?

 あっ! おい、ナホ! 待てって!! おい!!

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