黒との出会い

「フィー、婚約の話がきているのだが…」


 お父様が申し訳なさそうな顔で話を振ってくる。けれども、私が第二王子の婚約者でないとなってからも誰も私に婚約を申し込んでくる人はいなかったのに。それにどうして、お父様が申し訳なさそうにしている理由がわからない。


『何か問題があったのですか?』

「…それが、相手がミリスティア公爵なのだが…どうしたい?」


 お父様が心配している理由がわかりました。ミリスティア公爵といえば、一人息子だけなのですが、その人は黒髪黒目であり、第二王子に呪い持ちと言われていると噂は聞いたことがあります。第二王子はほんと、害悪ですね。


『一つだけ気になることがあるのですが』

「なんだい?」

『ミリスティア公爵子息様は、ご家族に愛されていますか?私のように…』


 最後の文字は恥ずかしくなり、小さく書いてしまったが、これが一番大事なことだと私は思う。


「ああ!ミリスティア公爵は子供を愛しているよ。それは間違いない」

『ならば一度、会ってみたいと思います』


 会う日は予想以上に早く訪れた。余程、公爵家側も焦っているのだろうか?それとも、今回のことに期待している?


 初めて会う彼は本当に黒髪に黒目の真っ黒な存在。前世の記憶にある日本人そのものの見た目だった。ただ、それだけだった。前世の親族のような嫌な感じも、恐怖も感じない。けれど、彼からはそれ以外のことも何も感じない。


『初めまして、フィーア・ローズと申します。声は諸事情により出せないことをお許しください』

「気にしなくて良いですよ。フィーア嬢。こちらは息子のオスカーと言います」

「……」

『どうして、彼は話さないのでしょうか?今回は彼の思うようなものではなかったのでしょうか?』

「いいえ、そんなことはありません。けれど…」


 彼の隣にいる公爵が全て話して、彼は一度も声を発しない。理由を聞くと、公爵はどこか言いづらそうにしている。しかし、一度私を見て、覚悟を決めたような顔をした。


「…息子は呪い持ちと言われています。もちろん、そんなことはありません。ですが、自分の声を聞いた者も呪われると言われてからは、自分から声を出さないようにしているのです」


 白髪の時もそうだったが、黒髪にも呪いに関しての文献などはない。全て出鱈目なのだ。それに他国では普通に黒髪も白髪もいると聞く。だから、気にする必要はない。


『オスカー様、私も家族に自分の気持ちが伝えられずに、声なんていらないと、そう思っていました。だけど、なくなってから、伝えたい言葉がたくさん見つかっています』


『あなたが心配していることなら、呪い持ちと言われる前から、あなたの身の回りでいろんなことがあったはずです。ですが、今までそんなことがありましたか?』


『私もあなたと同じです。私は家族に、自分の気持ちを家族に伝えるのを諦めてしまいました。こんなにも私を愛してくれているのに、です。ですが、それはあなたもでしょう?あなたは声を出すことができます。私はもう、自分の口では伝えることができませんが、あなたはできます』


『あなたが周りの方にどんなにひどいことを言われたのかはわかりません。ですが、あなたを愛してくれる人が近くにいることは忘れないでください。そして、自分を強く持ってください。難しいかもしれませんが、私のように逃げず、立ち向かってください』


 伝えたいことは全部書いた。だから、あとは全部、彼次第だ。私は彼をじっと見つめる。改めて彼を見ると、整った顔立ちをしている。


「…俺は、俺にはもともと幼馴染の婚約者がいた。ずっと好きだった。こんな髪でも気にしないと言ってくれていた。だけど、第二王子が呪い持ちと言い出してからは、彼女の態度が変わってしまった。名前を呼ばないでと、もう話したくもないと、それで婚約破棄をされた」


 なんだその最低な女は。今まで会っていたのだから、そんな話が嘘に決まっているとわかっているだろうに。


「彼女と別れてすぐに、第二王子との婚約が決まったという話を聞いて、もう何もかもがどうでも良くなった。父さんや母さんには悪いとは思っているが、このまま誰の迷惑にもならないように黙って過ごしていこうと思っていた」


「…だけど、君の言葉が僕に響いた。そうだね。僕は怖がっていた。自分が周りに害を与える存在ではないかと思っていた。だから、ありがとう。それに父さん、母さん。ごめん。…ありがとう」


 彼の笑顔は、あった時とは全然違う顔をしていた。私の苦手としている黒にのまれているような、そんな感じがしていたが、今は夜に輝く星のような明るさを感じる。


 だけど、彼の元婚約者が婚約するのが第二王子というのは、たまたまなのかな?


「フィーア嬢、改めて本当に感謝している。こんな俺でも良ければ婚約をしてほしいと思う」

『こんな私でも良いのですか?声がでないのですよ』

「君じゃなきゃダメだ。俺を俺として見てくれて、正してくれた君が良いんだ。声なんて関係ない」


 そんなに直球で言われたら照れてしまう。でも、彼の最初の印象はもう変わってしまった。もちろん良い方に。彼となら、これからもやっていけそうだと思う。勘だけどね。


 それに、悪魔の子と呪い持ち、良いパートナーだと思いませんか?

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